映画「Ainu(アイヌ)ひと」を通じて語学の大切さを知る

  • 文:ベイリー弘恵
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©Naomi Mizoguchi

映画「Ainu(アイヌ)ひと」の監督、溝口尚美さんとは、2013年にワオラニ民族を救えという取材させていただいてから、実際にニューヨークで数回お会いしたことがある。しっかり映像としての記録をとって、世界の人へ伝えよう、残していこうというジャーナリスト魂にパワーを感じた。

今回、シカゴ日本映画コレクティブで上映されたのは、実際にアイヌの人々へ溝口監督が取材したドキュメンタリー作品。映画「Ainu」は、これまでも世界各国で様々な映画祭に出品されている。

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一番心に響いたのは、子供の頃から差別を受けて育ってきたアイヌの男性が放った言葉で、「和人を恨んでいない」というところ。アイヌの人々が使っていた言語を消滅させないために、アイヌの言語を学ぶ人たちの努力する姿がまばゆい。

アイヌの言語を学ぶという観点から、ニューヨークの大学で言語学を専門として教壇にたつスパーベック美恵子兼任教授にも映画「Ainu」を視聴後、コメントをいただいた。

「素晴らしかったです。アイヌの方々が差別されて、土地を追いやられ、大変な生活をして来た過去があったのに、『和人への恨み節ではない。』と言い、さらに感謝まで口にするというのは並大抵の事では出来ません。

日本語のクラスの第一日目は イントロですが、来学期からはその日にアイヌの方々について少しでもこちらの学生に伝えていくのが大事だと思いました。アイヌ語及び文化が後世にも継承されて行き、話者がなくなることのない様に祈ります。

アイヌの言語が絶滅の危機にあると言うことをアメリカで日本語を勉強してる学生に少しでも知っておいてもらう事、つまり日本に日本語だけではなく、アイヌの言語もあるのだという事を伝えるのは大事だと思います。

これまでに言語学のクラスでは、アイヌ語について少し扱ったことがあります。一つはMorphology(※1 形態論)のトピックのところで、アイヌ語はPolysynthetic language (※2 抱合語)で、アメリカンインディアンの諸言語と同じタイプである事です。

もう一つは、歴史で、例えば英語はインドヨーロッパ語族に属するなどといった言語の関連性についてのユニットがあるのですが、アイヌ語はどのlanguage family(※3 語族)にも属しないということを学びます。こちらのコースのシラバス(講義などの内容や進め方を示す計画書)にも掲げておりますが、学習ゴールは、言語の多様性を学び、偏見をなくすことを目標にしています。」

どんな小さな世界でも差別がなくならない人間社会。溝口監督が映画を通じて、スパーベック美恵子兼任教授が、生徒さんたちに、言語学の側面から、なくならない差別の実情を後世の人たちへ知らせる。

若い世代の人たちが、差別される側の悲しみや辛さを知らないままで過ごすのと、知っている上で過ごすのは、違うからこそ、争いのない世界は必ずやってくるのだと信じたい。

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※1 言語学における形態論(けいたいろん)とは、ヒトの言語の、語(単語)を構成する仕組みのこと。また、それを研究する言語学の一分野。

※2 抱合語(ほうごうご、包合語とも書く)は言語類型論における言語の分類の1つ。単語、特に動詞に他の多数の意味的または文法的な単位が複合され、文に相当する意味を表現しうるような言語を指す。これに該当する言語はシベリアからアメリカ大陸にかけて特に多く分布する。

※3 語族(ごぞく)とは、比較言語学において、ある言語(祖語)とそこから派生した全ての言語を含む単系統群のうち、他の単系統群に包含されることが認められていないものを指す。

<引用 ウィキペディア>

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【プロフィール】

溝口尚美(みぞぐちなおみ)

日本での映像制作会社勤務を経て、1995年にフリーランスとなり、テレビ用ドキュメンタリー、プロモーションビデオ、短編文化映画など様々な作品を制作。

2004年、コミュニティ・メディアを学ぶためにニューヨークに渡り、全米最大かつ最古のコミュニティ・メディア組織のひとつであるダウンタウン・コミュニティ・テレビジョンセンターに勤務。2008年、NPO法人Cinemingaを設立し、コロンビア、エクアドル、ネパールの先住民に映画制作に必要な機材や技術を提供する活動を開始。その結果、作品はカナダ、コロンビア、ネパール、日本、アメリカの映画祭で上映された。

2014年にCinemingaを退社後、溝口はGARA FILMSを設立。メインストリーム・メディア向けの番組や、地域社会の問題をテーマにしたインフォーカス映画など、幅広い視野で映画制作を続けている。これまでのキャリアにおいて、溝口は100以上のプロジェクトを監督し、300以上のプロジェクトを編集。現在、ニューヨーク在住。

スパーベック美恵子(スパーベックみえこ)

神奈川県出身。1995年にペンシルバニア州フィラデルフィアのテンプル大学を卒業後、日本に戻り、英会話スクールで英会話教師として勤務。その後、アメリカ人との結婚を機に来米。ミネソタ州ミネアポリスの語学学校で日本語教師となり、多くの客室乗務員に日本語を教える。2001年ニューヨーク市立大学大学院言語学部に入学。10年に同校を卒業後、同年9月アデルファイ大学の言語学兼任教授に就任。13年からジョンジェイ大学で日本語を教える。現在2校を兼任。

ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。