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【Mr.Children特集】アートディレクター森本千絵が明かす、名作ジャケット誕生の物語

  • 文:青山鼓
  • 写真:齋藤誠一
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2007年のアルバム『HOME』から、14作品ものジャケットデザインを手がけてきたアートディレクターの森本千絵さん。誰もが知る名作ジャケットのデザインが、いかに誕生したのかを語ってもらった。

苦しみと喜びと気持ちよさ、ミスチルの仕事にはすべてがある

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森本千絵●1976年、青森県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。退社後、2007年に「出逢いを発明する。夢をカタチにし、人をつなげていく。」をモットーに株式会社goen°を設立。現在、一児の母。著書に、『アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話』(サンマーク出版)などがある。

「画(え)づくりは、みんなが見る地図をつくるようなものです。具体的に情報を見せることになるので、目で見える情報ができた時点で色が生まれ、流れも見えてくる。だから、すごく責任がある。ビジュアルをつくるというのはそういう大きなことだと思っています」

そう語るのは森本千絵さん。2007年のアルバム『HOME』から最新のベストアルバムまで含めると、アートディレクションを手がけたミスター・チルドレン作品はアルバム、シングル合わせて14作品にのぼり、現在は30周年の記念ツアーのアートディレクションにも携わっている。

その作品づくりを行う上で森本さんは、まずひたすら楽曲を聴き込むことからはじめるという。聴き続けるうちに歌詞も旋律も、ハーモニーも、すべてが溶け出して混然とするようになる。やがて、夢の中でも曲が聴こえてくるようになり、自分の身体の中に曲が流れ続けるようになったところでやっと、森本さんは多くのスケッチやイラストを描きはじめる。

「30周年のベストアルバムでは、人と人の距離を縮めて、いま溶け合ってひとつの色になっていく。ぎゅっと人が抱きしめ合っていくイメージを提案しました。他にも多くの案を出したんですが、最初に見せたものが選ばれ、ディスカッションも活発に進みました」

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最新ベストアルバムをデザインする際に描かれたスケッチ。「人と人とが溶け合って、ひとつの色になっていくイメージ」

森本さんが提案するイメージのクオリティが非常に高く、バリエーションも多いため、メンバーからは「使わなかったアイデアは、他で使っていただいていいですよ」と言われるほどだという。

今回の撮影は、写真家の瀧本幹也が行っている。CGなどに頼らず、実写にこだわる瀧本ならではの手法で、独自の世界を表した。

「ミスター・チルドレンは私にとってかなり大きな存在で、仕事の中でも特別なものです。仕事という面だけでなく、お仕事をさせていただくタイミングも、自分が独立したばかりの時だったり、自分が人の死との向き合い方を深く考えていた時だったり、人生におけるターニングポイントと重なり合うことが多くありました」

だからこそ、森本さんが手がけるミスター・チルドレンの作品には魂がこもる。

「自分のキャリアから出てくるものというよりも、自分が本当に心を震わせる部分、自分の中のいちばん華奢な部分まで引き出していますし、自分ひとりの視点だけでなく数百万人にまで視野を広げて考えます。世界の過去や未来までをかけたすごいレンジで、企画をします。だから生みの苦しさもありながら、同時に大きな喜びでもあります。ミスター・チルドレンほど大きな苦しみと気持ちよさ、喜びを与えてくれる機会は、生涯を通じてはなかなかありません」

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ミスター・チルドレンとの仕事では、本当に心を震わせる部分から深いものが引き出される

一方、メンバー4人の姿勢にも強く感銘するという。

「メンバーは命懸けで頑張ってるのに、スタッフやファンの人への感謝の気持ちで溢れてます。今回も温かい言葉をいただき、カメラマンやCGチームみんなが一丸となって、進めることができました。だからこそ30年という長いあいだ多くの方に支えられ愛されているんだと思います」

その姿勢は、森本さんがこれまで手がけた数々の作品でも変わらない。そして、お互いが真剣に打ち込む仕事がついに形になったとき、森本さんはどのような感情を抱いているのだろうか。そう尋ねると、森本さんからは深い実感のこもった一言が返ってきた。

「寂しくてしょうがないです」

すべてを出し尽くした、祭りのあとのような寂寥感。常に微塵も残らないほどパワーを注ぎ込めるのは、楽曲や、ミスター・チルドレンへの深い愛情があるからだ。

「形になった喜びもあるかもしれませんが、それよりも一緒に時間を過ごした人を送り出して感じる、空っぽになった感覚です。だから寂しいですよ、本当に寂しいです。うん(笑)」

『Mr.Children 2011-2015』/『Mr.Children 2015-2021 & NOW』(2022年)

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デビュー30周年を記念して5月に発売されたばかりのベストアルバムのパッケージは森本さんがアートディレクションを担当、写真家の瀧本幹也とタッグを組み、印象的なビジュアルをつくり上げた。ふたつのパッケージを並べると、30周年ツアータイトル「半世紀へのエントランス」にちなんだビジュアルが側面に現れる。

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これまでに手がけたMr.Childrenのジャケットデザイン

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『HOME』(2007年)

アルバム『HOME』で、初めてジャケットデザインを担当

博報堂時代にベストアルバムの広告ビジュアルを制作したのがミスター・チルドレンとの最初の仕事。その後、2007年のアルバム『HOME』でジャケットデザインを担当した。日常に潜む喜びや幸せといったアルバムのコンセプトを、鮮やかに表現した。

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『SUPERMARKET FANTASY』(2008年)

消費社会の象徴を、煌びやかに表現した

2008年のアルバム『SUPERMARKET FANTASY』も森本さんが担当。アルバムの中の代表的な1曲「エソラ」のミュージックビデオ(下)も監督するなど、この頃からミスター・チルドレンのビジュアル制作に、より全面的に関わるようになった。

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『SENSE』(2010)

自分の中にも潜む、制御不能な力をイメージ

音源を聴くうち、自分の中にも根源的に潜む制御不能な力のようなものをイメージし、そこからビジュアルが浮かんだという。オーストラリアまで出向き、クジラのダイナミックな姿を撮影。直感を大切に、一気にアウトプットすることを意識して臨んだ仕事だった。

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『永遠』(2022年)

4月に発売された配信限定シングル『永遠』も担当。ミスター・チルドレンらしいバラード曲の儚さが伝わってくる。

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左:『HANABI』(2008年) 右:『GIFT』(2008年)
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左:『himawari』(2017年) 右:『ヒカリノアトリエ』(2017年)

ヒットシングルも、多くを手がける

森本さんが手がけた、シングル盤のジャケットデザイン。大ヒットを記録した『HANABI』においては、森本さんが歌詞からイメージしたという、氷の中で花開く花火を表現した。収録曲である「GIFT」「横断歩道を渡る人たち」「風と星とメビウスの輪」のすべてを表現した『GIFT』のビジュアルも秀逸だ。

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ATELIER & SHOP goen°にてミスチル展開催中!

「Dear Mr.Children」と題した展覧会が開催中。森本さんが手がけたアートワークのメイキング素材など、ここでしか見られない創作の軌跡が満載だ。

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会場は代官山の八幡通り沿い。森本さんが手がけた最新ベストアルバムのアートワークとアーティスト写真が目印。

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森本さんにとって初めてのミスター・チルドレンのジャケットデザインとなった、『HOME』。さまざまなバージョンで作成された広告ビジュアルが展示されている。

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2008年の『SUPERMARKET FANTASY』のアートワークやミュージックビデオも象徴的な作品。スケッチやサンプルなどその制作の裏側が知れる貴重な資料も。

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そのほか森本さんが手がけたミスター・チルドレンのアートワークがずらりと揃う。また、Tシャツやトートバッグなど、限定グッズも登場。会場で販売されるほか、ウェブでも購入可能だ。

Dear Mr.Children

開催期間:〜6/26 
会場:goen°
東京都渋谷区猿楽町4-6 代官山宝ビル1F 
時間:11時〜20時 
定休日:月
入場無料

※事前に予約が必要です
www.goen-goen.co.jp/dear_mrchildren

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※この記事はPen 2022年7月号「Mr.Children、永遠に響く歌」特集より再編集した記事です。