キーボーディストや音楽プロデューサー、トラックメーカーとマルチな音楽活動を展開するKan Sano(カン・サノ)さん。そんな自身の音楽のルーツにはミスター・チルドレンの歌があった。その魅力を語ってくれた。
キーボーディストでありながら、トラックメーカーやプロデューサーとしても活躍するKan Sanoさんは、ジャズやヒップホップ、ソウル、R&Bといったジャンルを横断した心地よいサウンドを生み出すアーティストだ。そのメロディには、いわゆるJポップを連想させる要素は少ないが、自身が影響を受けた音楽の源流を辿っていくとミスター・チルドレンがあるのだという。
「小学5年生の時に、遠足のバスの中で女子グループがミスチルの曲をかけて盛り上がっていたんです。他にもいろんなアーティストの曲を流していたけど、僕はミスチルだけに反応して、『なんだこのアーティストは……めちゃくちゃいいな!』と思いました。後日、その時に聴いた『innocent world』のシングルを買ったのが始まりです。そこからどんどんハマっていき、当時リリースされていたアルバムの『Atomic Heart』をはじめ、デビューアルバムから過去作を順番に買い集めました。それまでは音楽にそこまで興味がなかったんですけど、ミスチルが音楽への道を開いてくれました」
当時のヒットソングを聴き返してみると、いまでもミスター・チルドレンの曲だけが圧倒的に感性に響くという。彼らにしかない魅力とはどのようなものなのか。
「他のJポップアーティストと比べると、当時流行っていた渋谷系サウンドの匂いもちょっと感じるんです。コードのジャズっぽいハーモニーとか。小林武史さんのプロデュースだからだと思うんですけど、普通のJポップより洗練されている感じがします。それと、Jポップらしいサビ感もとても好きです。20代の頃にはブラックミュージックや古いジャズなどいろんな音楽を聴きましたが、自分の中で理想とする曲のサビのあり方はミスチルの影響が大きい。洋楽だとAメロから同じグルーブや同じコードのままスッとサビに入ってしまうことがよくありますが、ミスチルの場合はAメロがあって、Bメロがあって、Bメロでだんだん盛り上げていって、サビがドッカーンみたいな。これってJポップの王道パターンですけど、ミスチルは群を抜いてかっこいい。当時、気に入って繰り返し聴いていたのは、『innocent world』『Tomorrow never knows』『名もなき詩』『HERO』など。どれもラスサビの前に数拍タメがあって、いっそう期待感を抱かせる。最後のサビにどうやってもっていくか、曲をつくる立場として学ぶこともありますね」
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ミスチルの曲のように、自分を支えてくれる歌が一曲あるだけで、人生は違ってくる
最近では「終わりなき旅」に再びハマり、よく聴いている。
「僕は今回のアルバムで、新しいことに挑戦したいという気持ちがすごく強かったんです。新しくアトリエを構えたこともそうですし、いままで使っていた音楽機材も全部入れ替えた。サウンドもなるべく新しいことにトライしようと思ってチャレンジしたんですけど、そういう時にうまくいかないんじゃないかとか、不安とか葛藤がある中で、ミスチルの曲を聴くとすごく励まされるし、力がもらえる。『終わりなき旅』の歌詞は、新しいチャレンジをしようと思っている時に刺さる曲だと思います」
「僕は応援歌って言い方をあまりしたくないですけど、自分に寄り添ってくれたり、背中を押してくれたりする歌詞ですね。“嫌なことばかりではないさ さあ 次の扉をノックしよう”とか、“もっと素晴らしいはずの 自分を探して”とか、“誰の真似もすんな 君は君でいい”とか。他のアーティストに言われると『そんなことわかっているよ!』と思うんですけど、ミスチルに言われると『そうなんですよ〜』となる(笑)。難しい言葉を使っているわけでもないのに心に響いてくるのは、歌詞だけじゃなく、声だったりサウンドだったり、バンドのいろんな要素が重なった音楽だからであって、僕がミスチルを好きな理由はそういうところなんです。大人になってからも自分を支えてくれる歌が一曲あるだけで、人生は違ってくると思います。そういう曲をつくってくれたミスチルには感謝していますし、自分も誰かにとってそれくらい大事な曲をつくることが目標ですね」
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Kan Sanoが選ぶ Best 10 Songs
「終わりなき旅」
「名もなき詩」
「HERO」
「雨のち晴れ」
「デルモ」
「LOVE」
「クラスメイト」
「Over」
「Image」
「足音 〜Be Strong」
シングルのB面に入っている曲が好きだというKan Sanoさん。「デルモ」はブラックミュージックの薫りや、ファンク、ソウルの風味がお気に入り。一方、「終わりなき旅」の現代版と感じているのが「足音 〜Be Strong」だ。コード進行や楽曲の構成は似ているものの、時代に対する向き合い方の違いが歌詞にあらわれているという。
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Kan Sano●1983年、石川県生まれ。バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。新世代のトラックメーカーとしてビートミュージックシーンを牽引する一方、ピアノでの即興演奏ライブも展開。今年4月27日には6作目となるアルバム『Tokyo State Of Mind』を発売。
※この記事はPen 2022年7月号「Mr.Children、永遠に響く歌」特集より再編集した記事です。