島根半島から北へ80㎞ほどの場所に位置する隠岐諸島。四方を穏やかな海に囲まれ、太古からの雄大な自然や独自の生態系が残る中ノ島海士町(あまちょう)に、ユネスコ世界ジオパーク初となるホテルとビジターセンターを備えた複合施設「エントウ」がオープンした。海岸に沿って配された全18室の客室は、大開口窓を介して目前に広がるジオパークの自然を一望でき、都市部では得難い体験を可能にしている。
この豊かな自然環境と融合するダイナミックな木造建築を手がけたのが、原田真宏と原田麻魚によるマウントフジアーキテクツスタジオ。それぞれ日本を代表する著名建築家のアトリエを経て、2004年に共同設立。独立後の初仕事であった、構造用合板を用いたセルフビルドによる先鋭的な建築が話題となり、以降は、個人住宅から公共施設などの大規模建築まで、さまざまな設計を担ってきた。
多様な活動の中でも、木造建築についてはトップランナーとしてその可能性を追求し続ける彼ら。数ある代表作の中でも特に知られるのが、栃木県・益子町に立つ「道の駅ましこ」だ。地元産の杉集成材を用いて、周囲に広がる田園風景から触発された山形のダイナミックな屋根架構を実現。木造ながら柱のない大スパンの空間や景観との調和が評価され、国内外の権威ある建築賞を多数受賞した。
デザインとエンジニアリングの融合を試みながら、場所の固有性に呼応した建築をつくり続ける彼らの活動に今後も注目したい。
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マウントフジアーキテクツスタジオが携わってきた代表的な建築
【keyword 1:木造建築の可能性を追求】
木材の利用価値を見出し、強度の高い集成材やCLT板などのエンジニアリングウッドを活かした設計が特徴。空間のイメージに合わせた建材や構法で、木造の既成概念を覆す自由でダイナミックな架構や形態を実現する。
【keyword 2:街に寄り添う商業建築】
東京の歓楽街の雰囲気を引き込む路地のような外廊下や階段で構成されたホテル、空中回廊とひな壇状のテラスが立体的につながる緑豊かなショッピングモールなど、建築が立つ場所と常に向き合いながら設計を行う。
【keyword 3:素材の特性を引き出す】
シンプルかつ明快な空間構成の中に、木やコンクリート、鉄、左官材など、素材の質感を重ね合わせたデザインが作品の特徴でもある。主要な構造体をそのまま屋内外の仕上げの一部として表現することも多い。
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
2004年に原田真宏と原田麻魚によって、マウントフジアーキテクツスタジオを設立。これまでに手がけた建築作品は、JIA日本建築大賞など国内外の賞を多数受賞。代表の原田真宏は、母校の芝浦工業大学建築学部の教授として教鞭を執る。
※この記事はPen 2022年6月号より再編集した記事です。