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【Mr.Children特集】小説家カツセマサヒコが、30周年ライブをネタバレなしでレポート!【前編】

  • 文:カツセマサヒコ
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初めて彼等の音楽に触れたのは、1999年のことだった。父親が買ってきたCDをリビングにあるステレオデッキに入れると、やわらかい声がした。

「CDショップで流れててさ。この曲、いいでしょ?」

そう言って父が繰り返し流した楽曲が、『ラララ』だった。フォークソングを好む父が好きそうな、陽だまりを感じさせるアコースティックギターが印象的だった。そのうち、僕がそのアルバムを自室に持ち込むようになり、『ラララ』の次にクレジットされた『終わりなき旅』にたどり着く。

「これ、給食の時間に、放送係がかけてたやつじゃん」

当時、12歳。小学校卒業間際だった僕は、発売されたばかりの『DISCOVERY』から、彼らの音楽と人生の並走を始めた。初めてライブに参戦したのは、中学2年の時だ。母親にチケットを取ってもらって、ひとりで国立代々木競技場に向かった。14歳、圧倒的な思春期だった。親とライブに行くのが恥ずかしくて、ひとりで席に着いた。当時の自分からすれば、かなりの冒険だ。無事に着席して開演を待っている間、僕はほんの少しだけ、大人になれた気がした。

その冒険の先に、確かに宝箱があった。ライブ序盤、彼等にのめり込むきっかけとなった『終わりなき旅』が、より歌声が響くようなアレンジで演奏された。僕が生まれて初めて、音楽で泣いた瞬間だった。

あれから二十数年。中学校2年生だった僕は、35歳になり、父親になった。その間、彼らのライブに何度、足を運んだだろう? 大学時代の友人と仙台まで遠征したこともあったし、妻とは結婚する前にふたりで、名古屋まで車で向かったこともあった(今となっては笑い話だが、その名古屋旅行中、コンサート会場に着いてはしゃぎすぎる余り、車のキーを紛失したことがあった。その公演の一曲目に演奏されたのが『NOT FOUND』で、絶対にキーが見つからない予感がして別の意味でも泣きそうになったことを覚えている。さらに余談を重ねるが、帰れなくなったその日にたまたま空いていたホテルのスイートルームに泊まった経験を元に、自分の小説デビュー作のエピソードが生まれた。まさにミスチルのライブなくして、僕の小説家としての人生はなかったと言える)。

こうして振り返ってみると、彼等の30年の歴史とは、つまり僕の人生そのものの歴史だった。日々を彩る画材のように、彼らの音楽とライブは、常に僕のそばにあった。シングルやアルバムがリリースされるたび、人生にアクセントが加わっていき、日々のご褒美として、ライブがあった。キャンパスライフを描いたドラマ「オレンジデイズ」の主題歌「Sign」を聴きながら華の大学生活に憧れて受験勉強に勤しんでいたし、会社員生活がとにかくしんどい時にリリースされた「End of the day」にどれだけ縋り付いて通勤電車に乗っていたことかわからない。彼らの存在は空気中に含まれる酸素のようでありながら、宇宙にふたつとない太陽のようでもあった。

今回、そんなMr.Childrenの記念すべき30周年コンサートツアーに、ライブレポートの執筆者として関わらせてもらうことになった。こんな光栄なことって、あるだろうか? 前置きがとても長くなったけれど、いよいよライブ当日のお話。4月24日。「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」福岡公演2日目にて、僕が目撃し、体験し、感じたことをここに記しておきたい。

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羽田空港の出発ロビーで旅客機を眺めながら、ひとりベンチに座り、セットリストを予想していた。

記念すべき30周年ツアーが始まってまだ2日目。万全の準備をするため、僕は数日前から「ミスチル」および、それに関連しそうなワードをSNS上からミュートしてきた。なぜか。少なくとも僕にとって、ライブに対して最も恐れるものは「ネタバレ」だからである。一時期は病的なまでにネタバレに過敏になっており、たとえばステージ写真の一部がネットに挙がっていただけで「照明が青色だな? あれは『擬態』か『innocent world』ではないか?」などと勘ぐって憤っていたし、ツアートラックの置かれた場所すらも、ネタバレ対象としていた。もうあの頃ほど病的ではないものの、できればセットリストは一切知らずにライブ当日を迎えたい。イントロのたびに湧き上がる驚きや感動こそが、ライブの醍醐味だと思っているからだ。

30周年を記念して発売されるベストアルバム『Mr.Children 2011-2015』『Mr.Chidlren 2015-2021 & NOW』の収録楽曲を頭に浮かべながら、あらためて今日の1曲目を予想する。過去の周年記念ライブもおさらいしてみよう。25周年を記念したツアー「Thanksgiving 25」では、「CENTER OF UNIVERSE」が1曲目だった。20周年のときは「エソラ」だし、10周年のときは「花」だ。どれも強烈なインパクトを与える演出があり、今でもその光景は脳裏に鮮明に焼きついている。「エソラ」と「花」は、その曲だとわかった瞬間、「CENTER OF UNIVERSE」に関しては、2サビ終わりに桜井さんがセンターステージに疾走した瞬間、いずれの時も、体中を猛スピードで電気が走り抜けた。耳から入り込んだ電気信号は、全身をめぐって、あらゆる毛穴から抜けていく。そこから体は、僕自身ではなく、音とリズムそのものになる。バンドが鳴らす一音一音に反応して、全身が躍動し、感動し、鼓動を打つ。気圧の変化に適応するように、涙腺がグンッと緩んで、勝手に涙が止まらなくなる。

自分の体が、自分でコントロールできなくなる。そのことに少しの恐怖心すら覚えながら、それでも自らが楽器になったように、いや、音楽の一部になったように、全身を震わせていく。

あの体験は、やっぱり映像だと物足りなくて、ライブだから味わえるんだよな。そう思いながら、セットリストの予想を続けた。この曲はつい最近やったばかりだから、今回はやらないかもしれない。この曲は定番だから、きっとやるだろう。この曲、しばらくライブで見ていないから、そろそろやってほしいなあ。頭の中に、4人の姿が浮かんでくる。その姿を実際に見られると思うだけで、本当はどんな曲を演奏しても、満たされてしまう自分がいることは、よくわかっている。

東京から福岡まで、2時間弱。飛行機の中に、過去のツアーTシャツを着ている人を2、3名見かけた。福岡空港から地下鉄に乗り換えると、そうした人の数はどんどん増えていく。当然、みんな一緒の駅で降りるわけだが、そのことがやけに照れ臭くも嬉しい。

この日の福岡は4月にして25度を超える夏日を記録。朝まで降っていた雨はやんで、日差しは肌を刺すように強く降り注いでいた。会場に近づくほど人は増えていき、グッズを身につけたファンの一大行列が出来上がる。若い恋人たちが手を繋いで道をゆく。その後ろではしゃいでいる40〜50代くらいの男女6名グループは、かなり古くからのミスチルファンのようだ。そのさらに後ろは、父親の抱っこから逃げようとしている3歳くらいの男の子が元気な声を挙げており、母親はその子が脱ぎ落とした靴を笑顔で拾い上げた。まさに、老若男女。その言葉が相応しい光景が広がる。だらだらと列は続いて、中にはずっと昔のツアーTシャツを着ている人や、どことなく桜井さんのステージ衣装を彷彿とさせる水色やピンク色のシャツを羽織った人もいた。

会場付近には、いくつかの屋台が出ていて、ツアートラックも確認できる。みんな、タオルを日傘替わりにしたり、日影を見つけて休憩したりしていて、ちょっとした夏の公園のような、穏やかな光景が広がっている。水滴がたっぷりついた缶ビールをゴクゴクと飲んでいる男性を見かけて、やけに羨ましく見えた。

グッズ売り場はかなり混み合っていて、その数以上に、入場ゲートにはチケットを手にした幸運な人たちが集まっている。その流れに沿って、いよいよ会場に入った。何年も待ち侘びた周年ライブが、いよいよ始まろうとしている。(後編へ続く)

カツセマサヒコ●1986年、東京都生まれ。一般企業勤務を経て、2014年よりライターとして活動を開始。20年刊行のデビュー作『明け方の若者たち』(幻冬舎)は北村匠海主演で映画化。21年にはロックバンドindigo la Endとのコラボで小説『夜行秘密』(双葉社)を刊行。他にもラジオパーソナリティや雑誌連載など、活動は多岐にわたる。

Pen 5/27発売号『Mr.Children、永遠に響く歌』

カツセマサヒコさんのネタバレなしレポを含めた、76ページに及ぶMr.Children特集は5月27日発売!