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斎藤工とウルトラマンとの数奇な運命、主演作『シン・ウルトラマン』への想いを語る

  • 写真:筒井義昭
  • 文:SYO
  • スタイリング:三田真一(KiKi inc.)
  • ヘア&メイク:くどうあき
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斎藤 工●1981年、東京都生まれ。俳優の他、映画監督や白黒写真家としても活躍。主演ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』がNetflixにて配信中。監督作『スイート・マイホーム』は2023年公開予定。

『シン・ウルトラマン』の魅力とはなんなのかーー。主演としてその世界を表現した斎藤工さんに、作品への想いや現場での体験、「運命だったのかもしれない」と語るウルトラマンとの出合いを語ってもらった。

『シン・ウルトラマン』は、自分の人生にひと区切りつくほどの着地点だった

「ウルトラマンに変身する男」になる――。そのことに、斎藤工さんは数奇な運命を感じている。父親が「ウルトラマンタロウ」の撮影現場で爆破担当を務めており、幼少期から人生の節目でウルトラマンシリーズとの接点があったのだという。

「僕はシュタイナー教育を受けてきて、子どもの頃はテレビや娯楽を制限されていました。なので、手元に唯一あった玩具は父の仕事の関係で許されていたウルトラマンと怪獣たち。彼らが外界との数少ない接点だったんです。本家がどんな物語か知らないから、自分で話を創作して遊んでいました。それが僕のクリエイションの原点。まさかその後、自分がウルトラマンになる日が来るとは!」

『シン・ウルトラマン』との出合いは、自身のこれまでのヒストリーとつながるような、点が線になっていく感覚があったという。「役者を辞めずに続けてきたことも含め、自分の人生にひと区切りつくほどの着地点だった」と語る斎藤さんだが、実はキャリア初期にウルトラマンシリーズの立役者のひとり、故・実相寺昭雄監督と対面する機会にも恵まれていた。

「僕はただただ興奮して食い気味にお話をうかがっていたのですが、よく知らない若造にとてもていねいに接してくださいました。“実相寺アングル”を含め、『ウルトラマン』の特徴的なエッセンスの多くは実相寺さんによるものだと僕は思っています。庵野秀明さんも樋口真嗣さんも、最も多感な時期に実相寺さんの作品に触れて影響を受けていると思います」

斎藤さんは『シン・ウルトラマン』の撮影後、岩井俊二監督の映画『8日で死んだ怪獣の12日の物語』に出演した。その時に、岩井監督のクリエイションの根元にも実相寺監督の存在があることを知った。怪獣の生い立ちや背景、現実社会で起こっている諸問題、リアルな人間ドラマなどを、特撮を媒介にして描く実相寺の手法、つまりジャーナリズムを子どもが観る娯楽作の中に込める方法論は、後に続くクリエイターの背骨を構築したと斎藤さんは感じている。

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ウルトラマンは“狭間”の存在、人間本位ではない目線がいまこそ必要

実相寺監督から庵野・樋口・岩井監督たちへと受け継がれた、ものづくりの意志。そのバトンは彼らを介し、斎藤さんにもしっかりと届いている。

「実相寺さんの薫陶を受けたつくり手たちが生み出した『シン・ウルトラマン』には、“狭間”というテーマがあります。これは僕が演じた神永の台詞にもありますが、地球人と外星人の狭間にいるウルトラマンの立ち位置は、いまの時代に必要な概念・目線なのではないでしょうか。地球外生命体を僕ら人間は主観で見すぎてしまっている。彼らの立場からすれば、人間さえいなければ地球はもっと調和がとれた星になると感じるかもしれないし、地球がひとつの人格だとしたら、いちばんに取り除きたい対象は人間かもしれない」

斎藤さんは本作の台本を読んだ時、「人間というものを、それ以外がどう思うかを味わわされる作品になる」と感じたという。映画の体験においては、理論的に理解するものよりも、感覚的に蓄積されたもののほうが、観た者のコアな部分に影響を及ぼすことがある。「この作品を観た少年少女や次世代の人たちにも、大きな蓄積となるのではないか」と斎藤さんは期待を込める。

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ジャケット¥57,200、オールインワン¥64,900/ともにアンユーズド(アルファPR TEL:03-5413-3546)

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俳優がカメラを持つことの意義

『シン・ウルトラマン』は、画づくりの部分でも、実写・アニメの垣根を超えた挑戦をしている。

「少しだけ参加させてもらった『シン・ゴジラ』では、僕が入る戦車の中にiPhoneが仕掛けられていて、『ご自身でRECボタンを押してください』という撮影スタイルでした。当時は斬新に感じたのですが、『シン・ウルトラマン』では『俳優がiPhoneで撮影しながら演じる』というさらに新しいスタイルが取り入れられている。僕の見解では、庵野さんや樋口さんは新しい機材が導入されるタイミングで新作を撮っている(笑)。つまり最初から『新しいことをやろう』という現場なんですよね。スタッフの方々も『通販でレンズ買ったんだけど、試してみる?』みたいな感じで(笑)。みんなで最適解を探していく現場だったので、俳優がカメラを持つことで新たなアングルが生まれるなら当然やる、という意識でした。演じながら撮るというと複雑に感じるかもしれませんが、現場の狙いを全員が理解しているから、違和感が一切ありませんでした」

撮影から2年半が経過したが、このインタビュー時点ではまだ作品は編集中とのこと。斎藤さんはその点にも感銘を受けたようだ。

「ちょうどいま、3年かけて準備した自分の監督作『スイート・マイホーム』(2023年公開予定)の編集に入っているのですが、映像制作は仕上げにすべてがかかっていると強く感じます。ポストプロダクションに時間と予算をかけないと、いいものはできない。日本映画はそこがタイトになってしまうパターンが多い中で、『シン・ウルトラマン』は本来映像作品があるべき重心のかけ方を実現している。健全ですよね。『映画は編集室でつくられている』を体現する本作に、現在進行形で刺激を受けています」

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斎藤工さんが演じるのは、ウルトラマンに変身する男、神永新二。「いまあるすべてを本作に注いだ」という斎藤さんは、自身の幼少期の思い出とも重なり、『シン・ウルトラマン』への想いは人一倍だ。

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※この記事はPen 2022年6月号「ウルトラマンを見よ」特集より再編集した記事です。

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