相次ぐ公演の中止や変更など、コロナ禍によって大きなダメージを受けた演劇界。2020年11月に上演された『もっとも大いなる愛へ』は、そんな苦境に鮮やかに逆襲してみせた。稽古は完全リモートで行い、無観客の本多劇場から毎公演カメラ一台でワンカット撮影し、リアルタイムで配信。公演後の翌日に向けた稽古も生配信して、千秋楽まで公演がブラッシュアップされていく過程を、臨場感あふれるドキュメンタリー仕様でまるっと公開してみせたのだ。
19歳で自身の劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ以降、脚本・演出を手がけ、俳優としても活動。フルスロットルで走り続けてきた。
「ちっちゃい劇場でしかやってない時は総動員800人程度。いま思うと、それっていくら面白くても、世の中から見たら誰も観てないのと同じだよなと。そのために再演というものがあるんだと、30(歳を)越えたくらいでやっと理解しましたね。それくらい、新作を書くことに命を賭けてきました」
別ユニットも含め、年4作のハイペースで新作を量産してきた。演劇と接点がなかった観客を巻き込んで、チケットは常にソールドアウト。実体験をベースに女子のダメ恋愛を描いた初期作から、ミュージシャンとタッグを組んだ近年の音楽劇まで、人と人のわかりあえなさを熱量の高い言葉で描き、岸田國士戯曲賞にノミネートされること4回。
「早くからいっぱいつくりすぎちゃったなという後悔は若干あるんですけど、賞をとれなくて悔しいって気持ちは5年くらい前に死んじゃいました(笑)。もっと若手がとったほうが演劇界全体のためになるんじゃないかとも思うし、自分のことばかり考えるのに飽きたというか。一昨年に、1年間演劇活動を休止したのも、一度観客に戻って、どんなものをお客さんが観たいと思っているのか外から観て、考えてみようかと思ったのがきっかけです」
学生時代から年120本観てきたという筋金入りの演劇オタク。
「いまでもお芝居を観るの大好きですし、自分が観たいものをつくっている感覚があります。自分が最初に松尾スズキさんの演劇を観て受けたような衝撃を、自分も誰かに与えたい。私自身、その原体験が凄いもの過ぎて、他のジャンルでそれを超えるものに出合っていないから演劇をやっています。最初にそういう体験を音楽でした人はミュージシャンになるでしょうし、映画だった人は映画監督になるでしょうし、自分はそれが演劇だったんだと思います」
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小説家デビューも果たし、新たな章の幕が上がる
この春、『今、出来る、精一杯。』で小説家デビュー。23歳の時に書いた代表作で、音楽劇として再再演もした思い入れの深い作品だ。
「いま読むと粗削りなところもあるけど、小説の方程式に乗っ取ってきれいに直すより、自分が信じた熱量のまま出して、何を言われるかを体験してみたいと思ったんです。やりながら学ぶタイプなので。演劇でも『若いな』と言われ続けてここまで来たので、すんなり受け入れられないほうが、むしろ次を書く気になると思います」
俳優活動に終止符を打ち、劇作と演出に専念すると決めた矢先、嬉しいニュースが届く。LINE NEWSの動画コンテンツ「VISION」で配信したドラマ「20歳の花」で、第25回文化庁メディア芸術祭の新人賞を受賞。
「自分の中に演劇に対する熱、劇作に対する熱が異常なくらいあるので、それを共有できそうな人を見つけると、一緒になにかやりたくなるんです。たとえばシェイクスピアの戯曲、マクベスを自分が演出したら、どうなるのか。私も知らない私が、今後出てくると思います」
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WORKS
小説『今、出来る、精一杯。』
自身の劇団である月刊「根本宗子」で2013年に初演した代表作を小説化。東京都三鷹市のスーパーマーケット「ママズキッチン」を舞台に、12人の面倒な人間たちによる軋轢や感情のぶつかり合いを群像劇で描く。
演劇『もっとも大いなる愛へ』
2020年に無観客配信で行われた演劇。同年代の男女と姉妹が、愛することや他者を想うこととはなんなのか、不器用なままに言葉を尽くし合い模索する。現在、国際交流基金のYouTubeにて無料配信中。
ミュージカルドラマ『20歳の花』
ミュージカルと映像、スマホならではの縦型要素を掛け合わせた、新しい舞台芸術に挑戦した力作。第25回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門の新人賞を受賞した。「LINE NEWS VISION」で無料配信中。
※この記事はPen 2022年6月号より再編集した記事です。