近年の映画界ではVFXの重要性が高まっているが、『シン・ウルトラマン』では禍威獣やウルトラマンのシーンは3DCGによる制作だ。本作のCG制作のキーパーソンに話を訊いた。現在発売中のPen 6月号『ウルトラマンを見よ』特集から一部を抜粋してお届けする。
『シン・ウルトラマン』の特報映像が公開されるや否や、ファンの間で盛り上がったのが、フルCGで描かれたウルトラマンと禍威獣の姿だ。シネマスコープのワイドな比率を存分に活かした“長い”スペシウム光線は、新鮮な驚きを世に与えた。一方で、風景の質感にはどこかミニチュアっぽさが残るなど、「空想特撮映画」としての“らしさ”も感じられる。こうしたCGはどのようにつくられたのか? VFXスーパーバイザーの佐藤敦紀さんとポストプロダクションスーパーバイザーの上田倫人さんに話をうかがった。
「今回はドローンを使った3Dスキャンの技術を初めて投入しました。ドローンでさまざまな角度から写真をたくさん撮り、取り込んだデータの差異を基に3DCG化し、背景をつくっていくんです」
上田さんが舞台裏のヒントをくれた。ちなみにCGチームは準備段階のロケハンから動き始める。「地方の発電所に行ったり、都内を歩き回ったり、監督や撮影スタッフのロケハンに同行して背景のイメージソースを探します。舞台をCGでどう構築するのかを撮影前に話し合います」と佐藤さん。
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ウルトラマンと禍威獣、フルCGならではの苦労とは?
他にもさまざまな最新技術が使われているが、そのひとつが「プリビズ」だ。上田さんと佐藤さんは『シン・ゴジラ』でもポストプロダクションの重要なポジションを担ったが、今回のプリビズの使い方は「応用編」だったと言う。
「CGの絵コンテをつくるプリビズは、今回は巨大な物体が目の前にいた時、人はどういうアングルで見上げるのかといった検証にも使いました」と上田さんは話す。
キャラクターのCG制作は想像以上に難しかったようだ。
「デザイナーが意図したラインを壊さず、いかに3D空間に再現していくのかが課題でした。色ひとつとっても、銀色の身体への映り込みやギラギラ感など、実際にモノを舞台に置いてみないとわからないこともあります。リアルとイメージの落としどころが、いちばん苦労した」と佐藤さんは話す。
禍威獣の動きも最初はモーションキャプチャーで着ぐるみを撮ったり、アクターに動きを演じてもらったり、試行錯誤を重ねた。「結局、人間と禍威獣の体形の違いをどう落とし込むかを含め、アニメーターさんの力が大きかった。ここまで長時間、制作に携わったのは初めて」と笑う佐藤さん。
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日々新しい技術が導入される、CG制作を読み解くための4つのキーワード
1. モーションキャプチャー
人や物体の動きを三次元で計測しデータ化する技術。3DCGキャラの作成に用いる。アクター(役者)の身体の各部位にマーカーを取り付け、コンピューターと連動した特殊なカメラで撮影。マーカーの位置情報データを骨組みとし、CG製のキャラを同期させると、アクターと同じ動きを反映できる。
2. 3DCG
物体の形状や位置、大きさをコンピューター内部に立体として表現するグラフィック技術。キャラクターの場合は、動く骨組みのモデリングデータに表面のテクスチャーを張り付けて完成する。CGは、入力されたデータ通りに再現されてしまうため、表面の映り込みなど、予想外のことも起きる。
3. プリビズ
Previsualizationの略。映画の準備段階で、撮る(つくる)べきシーンの検討のために、仮素材を簡易なCGで映像化した“動く絵コンテ”。VFXが多用される映画では重要な「カットの時間」や「リズム」「タイミング」を映像化し、二次元の絵コンテでは伝えにくい指示を、スタッフ間で具体的に共有できる。
4. バーチャルカメラ
3DCGで作成された仮想空間の中に仮想カメラを持ち込み、アングル、レンズの種類を指定して、現実のスタジオにいるようにCGの被写体を撮影するシステム。このとき仮想カメラの動きを人間の手持ちカメラと同期させると、手振れや意図しないフレームアウトなど、リアルな映像が再現できる。