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庵野秀明の創作活動を辿る大規模展覧会で、『シン・ウルトラマン』への軌跡を識る

  • 文:宮崎香菜
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『シン・ゴジラ』のゴジラ、 『シン・ウルトラマン』のウルトラマン、 『シン・仮面ライダー』の仮面ライダー立像(国立新美術館<会期終了>での展示風景)。各主役の立像コーナーは庵野の発案。「シン・ジャパン・ヒ ーローズ・ユニバース」にもつながる豪華な共演だ。(提供:庵野秀明展実行委員会)

大ヒット上映中の映画『シン・ウルトラマン』で、企画・脚本を務める庵野秀明。その創造の源泉はどこにあるのか? 幼少期に影響を受けた作品から自身の最新作までを一堂に集め、創作活動の軌跡を辿る大規模な展覧会「庵野秀明展」が全国を巡回中だ。先人からなにを受け継ぎ、未来へとつなぐのか――。

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「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年放送)。庵野秀明自らが企画し、監督した大ヒット作。人類の命運をかけた戦いに挑むロボットアニメであり、碇シンジはじめ登場人物の抱く自意識や人間関係、複雑な設定や独特の世界観が支持を得た。展覧会ではメカデザイン案や絵コンテなどを展示。© カラー/Project Eva.

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会場入り口には、仮面ライダーに扮した若き日の庵野秀明の等身大パネルがある。そして隣には古い足踏み式ミシンが。これは、山口県宇部市にある実家で仕立ての仕事をしていた両親のもので、庵野のメカニズムへの興味の発端だという。「庵野秀明展」は、創作の原点である貴重な資料から監督として手がけた数々のヒット作に至るまで活動の軌跡を追った大規模展だ。

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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年公開)。テレビ版や旧劇場版をリビルドし、異なる展開で物語が進む『:序』『:破』『:Q』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』からなる全4部作。原画やレイアウト、エヴァンゲリオンのフォルム設定などが多数展示されている。© カラー

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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』第3村ミニチュアセット 場面設定・画面構成検証用。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で登場する舞台「第3村」のおよそ1/45サイズのミニチュアセットだ。これを使ってカメラアングルを探りながら撮影、その写真や映像をもとにプリビズ(実制作前につくる簡易な映像)を作成した。(東京展の様子 提供:庵野秀明展実行委員会)

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ナウシカからエヴァまで貴重な原画や資料が並ぶ

「庵野秀明展」は、創作の原点である貴重な資料から監督として手がけた数々のヒット作に至るまで活動の軌跡を追った大規模展だ。大学時代の自主制作に始まり、原画スタッフとして参加した『風の谷のナウシカ』、テレビシリーズ初監督作「ふしぎの海のナディア」といった作品の原画、設定、絵コンテなどからは、アニメーションの世界で頭角を現していく過程を知ることができる。1995年に放映を開始し、社会現象にもなった「エヴァンゲリオン」シリーズからは、生々しい筆致が残る資料の数々が公開され、会場は新旧ファンの熱気で包まれている。

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『風の谷のナウシカ』(1984年公開)。庵野秀明が宮崎駿監督の仕事場を訪問し、作品への参加を志願した『風の谷のナウシカ』。実力を認められ、巨神兵のシーンの作画を担当した。複雑な動きを見事に描き、高い評価を得た。写真は原画用の下描き。© 1984 Studio Ghibli・H

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「ふしぎの海のナディア」(1990年放送)。庵野が総監督を務めた初のテレビアニメシリーズ作品。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』『神秘の島』を原案にした冒険物語。全39話のうち一部を樋口真嗣が監督。設定や、絵コンテ、台本など多数展示。© NHK・NEP

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『トップをねらえ!』(1988年発表)。庵野の商業作品における初監督作品でOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)として発表。スポーツ根性ものの要素をもつ、SFロボットアニメ。樋口真嗣も絵コンテや設定で参加。デザイン案など多数展示。© BANDAI VISUAL・FlyingDog・GAINAX

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庵野秀明の“血肉”となった、創作のルーツも集結

展覧会実行委員会のひとりで庵野が代表を務めるカラーの文化事業担当学芸員の三好寛さんは、「庵野秀明という森を各々に散策し、膨大な展示物から心に響くものを探してもらえたら」と話す。

また、展覧会で特筆すべき点は、「ウルトラマン」「宇宙戦艦ヤマト」など、60〜70年代の特撮のミニチュア、アニメーションの原画、マンガなどを集めた展示エリアが大きく設置されていることだ。

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東京展の様子(提供:庵野秀明展実行委員会)

「庵野が幼少期に影響を受けて血肉化した作品から、クリエイターとして目覚めたルーツを見せたかった。作品の背景に手仕事の積み重ねがあることも知ってほしい」(三好さん)

これは、過去のアニメや特撮の資料を調査・保存するNPO「アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)」を立ち上げた庵野の意向とも重なる。文化を継承し、未来へつなぐという思いが込められたこの展覧会から、『シン・ウルトラマン』を深く理解するヒントが得られるかもしれない。

『庵野秀明展』

展覧会特設サイト 
https://www.annohideakiten.jp ※開催の詳細はサイトで確認を

●大阪展
開催期間:2022年4月16日~6月19日
会場:あべのハルカス美術館
TEL:06-4399-9050
開館時間:10時~20時(月、土、日、祝は18時まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:5月9日
入場料:一般¥1500

●山口展
開催期間:2022年7月8日~9月4日 
会場:山口県立美術館
TEL:083-925-7788
開館時間:9時~17時(8月以降の金、土は20時まで)※入館は閉館1時間前まで
休館日:月(7/18、8/1は開館)
入場料:未定

●新潟展 

開催期間:2022年9月23日~2023年1月9日
会場:新潟県立万代島美術館
TEL025-290-6655
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月(10/10、11/14、12/26、1/9は開館)、年末年始(12/29~2023 /1/3)
入場料:未定

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*この記事はPen 2022年6月号「ウルトラマンを見よ」特集から再編集した記事です。