クラシックカーを自分で手入れしながら乗り続けるガレージライフに、憧れをもつ人は少なくないはず。日常的に乗りながら機嫌をとるように、少しずつ愛情をかければ、クルマは本来の走りを取り戻し、価値も高まっていく。自分で手をかけだすと、誰にも触らせたくなくなるのが悩みといえば悩みかな(笑)。
そんなガレージライフの相棒にMGBは狙い目の1台ですよ。構造がシンプルでメンテナンスがしやすく、アフターパーツもそろっている。世界に目を向ければ、オーナーズクラブ(すごく大事)が活発に活動していてメンテナンスのアドバイスをもらえる上に、より高い解像度で理想の1台をイメージできるようになる。それはそれとして、MGBは英国製スポーツカーが何たるかを教えてくれる車種でもあるんだな。
第二次世界大戦以降、北米でMGのような英国車が人気になったのはヨーロッパに駐留していた米国軍人たちがその魅力に気づいたからだと言われている。小型で軽量な英国のスポーツカーは、戦闘機のように実用重視。映画『フォードvsフェラーリ』でイギリス人レーサーであるケン・マイルズが、ロサンゼルスでMG系列のクルマを販売し、メンテナンス工場を営んでいたのを思い出して欲しい。
この設定は本当の話で、大戦に従軍した退役軍人でもあるケン・マイルズの一本気な気質を描く大切な要素になってるのね。英国車に誇りをもち、「下手なら乗るな」と客に言わずにはいられない、強すぎるこだわり気質。映画に登場したのはMGA1600だった。
このMGAの後に、MGは北米で大幅に販売台数を伸ばす。その車種が後継車種である、このMGB。4気筒OHVエンジンにモノコック軽量ボディで車重は910kg。幌を外して走れば、大空へ飛び立つ戦闘機感に胸が高鳴るね。ダッシュボードの黒いペイントにトグルスイッチ、そしてスミスのメーター類に囲まれたコクピットは、さながらバトル・オブ・ブリテンで活躍した英国製戦闘機を彷彿させるんだ。
ハンドルは細くて大径の英国車仕様。シフトノブも生え出た新芽のように華奢だし、ホイールは希少なセンターロックの美しいワイヤーホイール。メーターリングにはクローム、ドアパネルやシートには白のバイピングが差し込まれていて、骨太な戦闘機スタイルの中にも華があって繊細な心配りが憎いのね。英国紳士はどんなときもエレガントさを忘れないってね(笑)。まぁ、言ってみればドがつく英国車ですよ。
シンクロメッシュ機構がシンプルだった時代のシフトワークにちょっとしたコツが必要で、吸気と排気の音が同時に濃密に響くツインキャブ仕様。このエンジンを全開にできる走る喜びが何より大きくて、バイクみたいに風と道に一体化する。
先進技術や最新素材を追求するのとは違う、自動車をシンプルに小さくまとめることで魅力を際立つ「巻き戻しの美学」かな。すごく癒されるし、この感動は間違いなく現代人の心の隙間を衝いてくる。
そうそう。巻き戻しといえば、MGBは「マーク1仕様」とか、実際に製造された年式よりさかのぼった仕様のモディファイが人気なのね。その点、この1963年式はクロームバンパーでMGBオーナーが求めるであろう理想のマーク1そのもの。最初期の1台にして、北米仕様ではない右ハンドルなのもミソ。この個体は東京オリンピックを2回経験している日本通でもあって(笑)、背景を知って乗ると感慨もひとしおですよ。
試乗しているとき、空がものすごく近く感じられて、宮崎駿監督の『風立ちぬ』の主題歌になった荒井由実の「ひこうき雲」がずっと頭で流れていた訳。空に憧れた先人たちの思いは万国共通だっただろうし、クルマにその憧れが美学として備わっているのがこの時代の英国製スポーツカーの世界。「かつてのオイリーボーイよ、ガレージに還れ」って1台なんだ。
1963年式 MGB マーク1ロードスター
サイズ(全長×全幅×全高):3890×1520×1250㎜
排気量:1789cc
エンジン:直列4気筒OHV
最高出力:94bhp/5500rpm(グロス)
最大トルク:145Nm/3500rpm(グロス)
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥3,980,000
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