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【樋口真嗣監督インタビュー】特撮映画の牽引者は、『シン・ウルトラマン』でなにを描くのか?

  • 写真:筒井義昭
  • 文:幕田けいた
  • 協力:「シン・ウルトラマン」製作委員会、東宝
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平成ガメラシリーズや『シン・ゴジラ』をはじめ、日本の特撮映画シーンを牽引する樋口真嗣監督。『シン・ウルトラマン』を通じて伝えたい想いとはなんなのか? 現在発売中のPen 6月号『ウルトラマンを見よ』特集から一部を抜粋して紹介する。

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樋口真嗣●1965年、東京都生まれ。84年公開の『ゴジラ』で映画界入り。その後、庵野秀明らが設立したガイナックスに参加。数多のアニメ作品や実写作品に携わり、2016年『シン・ゴジラ』で第40回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。

半世紀以上の歴史をもち、現在も新シリーズがつくられている国民的番組「ウルトラマン」。初代に立ち返りつつも、新たな表現軸で世に送り出す先導役を務めるのが、『シン・ゴジラ』で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した樋口真嗣監督だ。監督は、数多くの特撮作品やアニメ作品に携わってきたが、『シン・ウルトラマン』をつくるにあたって、どんなことを考えたのだろうか。

「製作陣の面々も『シン・ゴジラ』と同じですし、タイトルも『シン』と付くので、方向性はある程度見えていました。1966年のオリジナル版は当時の世相や都合でつくられていたので、現代の世界にウルトラマンが現れたらどうなるんだろう、とまず考えました」

いちばん難しかったのは、オリジナル版をどれくらい意識したらいいか、ということだったという。スタッフはみな「ウルトラマン」を見て育ち、怪獣の名前も空で言えるほどだ。各自思い入れもあるだけに、どこまで忠実にオリジナルに沿うかは考えどころだった。

実際に初期の作品を分析し始めると、ウルトラマンを映画化する難しさが見えてきた。

「オリジナル版は、物語の構成が“30分でできること”になっているんです。それを2時間の映画にする場合、ちゃんと考えないと大変なことになると気付きました。30分の話を数珠つなぎにすれば映画になるかというと、そうではない。そこは脚本を担当した庵野さんが、収まりどころをいいかたちにまとめてくれたと思います」

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『シン・ウルトラマン』の1シーン。巨大不明生物「禍威獣(カイジュウ)」の存在が常態化した日本。政府は禍威獣災害対策を主とした「禍特対(カトクタイ)」を設立したが、通常兵器での応戦は限界を超えていた。そんな時、謎の巨大な人型飛翔体が現れた─。映像表現とともに人間ドラマにも注目したい。

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“狭間”の存在であるウルトラマンを通して、人間とはなんなのかを問い掛けたい

樋口監督は、『シン・ウルトラマン』という作品を通して、なにを描こうと思ったのだろうか。

「人間と外星人の“狭間”の存在であるウルトラマンから見えてくるのが、人間とはなんなのかということ。人類はこれまでどのように生きてきて、これからどういう未来が待っているのか。それを描くことがこの映画の本質なんじゃないかと思いました」

ウルトラマンの存在を人間が受け入れ、ウルトラマンも人間を受け入れる。その交流の過程と、現代人が生きていく中で培われる人間の絆を、禍特対というチームや、主人公と分析官の「バディ」という関係性で描く――。それが樋口監督が目指したものなのだろう。

映像の面では、特撮が3DCGでつくられているというのがオリジナル版との顕著な違いだ。CGで難しかったのは、CGに見えないようにするにはどうすればいいか、ということだった。

「ウルトラマンも、昔みたいに銀色のスプレーを吹きかけた色というわけにはいかないので(笑)。でも鏡面的な銀にして、真面目に光線を計算して描写すると、バンザイしたときに腕と顔に変な筋ができるし、腕と顔が合わせ鏡みたいになって、映り込んでしまう。

実際にやってみて、リアルに反射させるとこうなるんだ!と初めて気が付いたりして。そうしたカットも全部、調整していきました」

登場する怪獣のチョイスも興味深い。オリジナル版でも人気のあるガボラとネロンガは、同一の着ぐるみを改造してつくられた怪獣であることはよく知られている。この二匹が同一作品に出るのは、ある意味、夢の競演だ。

「オリジナル版では、着ぐるみの制作費のコストダウンのために、頭を挿げ替えてつくったガボラとネロンガが生まれました。『シン・ウルトラマン』でも、デザイン的な共通点をつくることで、CGをつくる時間やコストを抑えられる予定だったんですが、リアリティの部分をこだわって追求していくうちに、背中などデザインも当初のものからだいぶ変わっていきました。まあ、ここら辺は、知っている人たちがニヤッとしたらいいんじゃないですかね(笑)」

撮影技術的には、iPhoneで撮った広角アングルのカットなど、新しい試みを導入しているのも面白い。ただ、樋口監督は「iPhoneがあれば、誰でも撮影できるわけではない。ヘタな鉄砲は、数打っても当たらない」と断言する。こういう画が欲しいという確固たる狙いがあり、さらにそれを受け入れることができる現場があって初めて撮れるものなのだ。

『シン・ウルトラマン』では、クランクインした時に、4Kで撮れるiPhoneが発売され、まず前提となる技術的環境が整っていた。そして、撮る側だけではなく、撮られる側も含め、スタッフ全員の足並みが揃っていたという。

「『シン・ゴジラ』の時は騙し騙しやっていたのですが、今回は最初からiPhoneも使っていきますよ、と宣言し、全員が腹をくくってくれた。だからこそこれまでにない画が撮れたと思います」

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禍特対のメンバーは、人間の代表としてふさわしい人たちを集めた

一方で、俳優の役づくりにはどのように接したのだろうか。

「斎藤工さんは、ウルトラマンの演技が本当にうまいので(笑)。どのような演技をしようかということは最初から相談していたんですが、斎藤さんはすっかりウルトラマンでしたね。本を読むシーンで面白いのは、目の動き。すごいスピードでページをめくっているだけでなく、目を縦に動かして、全部の文字を読んでいる。正確な速さでスキャンしているみたいで、あれはよかったですね。班長役の西島秀俊さんは、これまで演じた役で、いちばんかわいいキャラクターになっていると思います。それは、実は本人がもっている“かわいさ”なんですけど。そういったところを映画にも反映させようと思いました」

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西島さんだけでなく、どの役者に対しても特に意識したのは、「それぞれがもっている人間としての愛すべき側面をどう引き出すか」ということだった。「こういうメンバーであれば、宇宙から来た銀色の巨人も、一緒に生きていけるんじゃないかと思えるチーム感が欲しかった」と樋口監督。つまりは、「ウルトラマン」は、異星人という違う文化に生きるものと人間との交流の話でもあるからだ。

「禍特対は、人間の代表としてふさわしい人たちを集めた感じがあります。誰ひとり心に陰りや濁りのない人たち……。そういうポジティブな心の清らかさというのは、僕らが子どもの頃見ていたオリジナル版の登場人物にあったような気がするんですよね。『ウルトラマン』をいまの時代でつくるなら、その感覚を再現したいという思いがありました。僕らが子どもの頃に見た『ウルトラマン』は、心に濁りのない人たちと一緒に怪獣を退治していたわけで、そういう人たちが抱いていた『理想』とか『未来』を、こういう世の中だからこそ、もう一度ちゃんと提示できないだろうかと考えた」

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先が見えない時代だからこそ、ポジティブな未来の話をしたい

樋口監督の世代が観た「ウルトラマン」は、描かれていたものはすべて未来の話だった。しかしそれはいま観ると過去の話。「だとしたら、いまの時代の『ステキな未来』の話をきちんと映画にしようと思った」と監督。「あまりにも希望的だし、現実離れしているかもしれませんが、そういうことを思わないと、世の中もっと酷いことになってしまうんじゃないかな。そういうのはたとえウソでもやるべきなんじゃないかな、と」

『シン・ウルトラマン』をつくるうえでなにを見せるべきかを考えた時、樋口監督が強く思ったのは、「人間ってまだやれるんだよ」ということだった。

「特に根拠はないけれど、こういう先が見えない暗い時代だからこそ頑張らないといけないと思うんです。僕らが最初に『ウルトラマン』を観た時と同じように、観客が当時の僕らと同じような気持ちになれるようにと、つくりました」

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これまで『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』など、数々のヒット作を手がけてきた樋口監督だが、本作は監督人生の中で、いちばん時間をかけている映画だという。

「相当に見応えのある作品になるんではないかと思います。日本でもここまでできるのか、というところまでクオリティを上げようと努力していますし、同時に日本でしかできないこともある。その点も楽しんで観ていただけたら嬉しいです。もちろんオリジナル版の『ウルトラマン』を観ていなくても楽しめると思います」

「ウルトラマン」が誕生してから56年。円谷英二が産んだ特撮文化が気鋭のクリエイターたちによっていま大きく羽ばたこうとしている。次世代へバトンをつなぐための一歩に、『シン・ウルトラマン』はきっとなるだろう。

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樋口監督の代表作

『シン・ゴジラ』

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© 2016 TOHO CO.,LTD.

2016年に興行収入82億円を記録した特撮怪獣映画。総監督・脚本は庵野秀明、監督・特技監督は樋口真嗣。怪獣映画でありながら、徹底したリアリズムで現代社会の問題点を描き、従来のファン以外にも高く評価された。

『シン・ゴジラ』

監督・特技監督/樋口真嗣 
脚本・編集・総監督/庵野秀明 
出演/長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ他 
公開/2016年 本編/119分 
発売・販売/東宝 
Blu-ray & DVD発売中

『ガメラ 大怪獣空中決戦』

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平成ガメラシリーズでは特技監督を担当。オープンセットでのミニチュア撮影やCG(佐藤敦紀が担当。)を使い、若い世代の映画ファンも驚かせた。第19回日本アカデミー賞特別賞特殊技術賞を受賞。1995年作。

『ガメラ 大怪獣空中決戦』

監督/金子修介
特技監督/樋口真嗣 
出演/伊原剛志、中山 忍他
本編/95分
発売・販売/KADOKAWA 
Blu-ray & DVD発売中

『日本沈没』

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小松左京の原作小説の再映画化。樋口監督が「映画製作を志すきっかけとなった」という73年版のパニック要素に加え、一般市民の視点も盛り込んでいる。メカデザインとして庵野秀明が参加している。2006年作。

『日本沈没』

監督/樋口真嗣
出演/草彅 剛、柴咲コウ他 
本編/135分 
販売/NBCユニバーサル・エンターテイメント 
発売/セディックインターナショナル、小学館
DVD発売中

『のぼうの城』

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© 2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ

作家・和田竜の同名歴史小説の映画化で、犬童一心との共同監督。VFXが多用された「水攻め」のシーンが話題となった。第36回日本アカデミー賞の10部門で優秀賞に選出。樋口監督も優秀監督賞を受賞。2012年作。

『のぼうの城』


監督/犬童一心、樋口真嗣 
出演/野村萬斎、榮倉奈々、佐藤浩市他 
本編/145分
販売/ハピネット 
発売/アスミック・エース 
Blu-ray & DVD発売中

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』

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© 2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 ©諫山創/講談社

実写版『進撃の巨人』二部作の前編。特撮は樋口作品の参加が多い盟友・尾上克郎監督が担当。全編をダイナミックなVFXで映像化した。後編『~エンド オブ ザ ワールド』、スピンオフ作品『~反撃の狼煙』も手がけた。2015年作。

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 


監督/樋口真嗣
出演/三浦春馬他 
本編/98分
販売/東宝
発売/講談社 
Blu-ray & DVD発売中

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※この記事はPen 2022年6月号「ウルトラマンを見よ」特集より再編集した記事です。