コラボバッグも存在する、村上春樹とポーターの関係

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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自転車のロードレースなどで使われる「サコッシュ」をモチーフにした「PORTER COPPI(コッピ)」というシリーズ。メインの素材はコットンポリエステルで、表面にはパラフィン加工を施してあるので、撥水性もある。W33×H23cm。¥8,800/ポーター

「大人の名品図鑑」村上春樹をめぐる名品編 #5

第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の原作を執筆したのは、日本、いや世界を代表する作家・村上春樹だ。今回は村上春樹の数々のベストセラーに登場する名品、あるいは本人の愛用品について語る。

2015年1月15日から5月13日まで公開された、村上春樹の特設ウェブサイト「村上さんのところ」。このサイトに寄せられた恋愛、人間関係、音楽や映画、本人に対する素朴な疑問などに村上春樹が答えたものをまとめたのが、同じ年に発行された単行本版『村上さんのところ』(新潮社)だ。世界中から集まった質問は実に3万7465通。そのうち彼が答えた質問は3716問で、メールによる問答は119日間におよび、閲覧数は1億PVに及んだと新潮社のサイトで紹介されている。単行本版にはこの中から473問が選ばれているが、彼が答えた全3716問は「村上さんのところ コンプリート版」として電子版で刊行されている。

さまざまな質問に真摯に応える回答に、本人の人柄や考え方が滲み出ているが、ファッション好きには見逃せない質問もある。「アンダーカバーの服を着たことはありますか?」という質問に対して「彼がデザインしたランニング・ウェア『GYAKUSOU』の製品(メーカーはナイキ)をよく着て走っています」と答えている。しかもデザイナーの高橋盾がランナーであることも知っていて、「ランナーがデザインしているだけあって、ずいぶん着やすい」という。iPodや鍵などを入れられるポケットが付いているのも気に入っているそうだ。ちなみに同書には走る際に聞く音楽も尋ねられているが、ランニングでは「二千曲を詰め込んだiPodをシャッフルにして走っています」と答えている。しかもそのiPodは3台所有しているそうだ。

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ポーターとのコラボ“BOOKショルダーバッグ”

今回、改めてこのサイトや書籍のことを調べていると、当時このサイトを記念してポーターとコラボレーションしたバッグがつくられていたことがわかった。発売は2015年8月1日の1日限定。本人が愛用していたネイビーのメッセンジャーバッグをベースにして、単行本『村上さんのところ』が持ち運べる“BOOKショルダーバッグ”をコンセプトにしてデザインされたらしい。当時は単行本とセットで購入することも可能だったという。

このバッグ、もちろん現在は販売されていないが、デザインが似たモデルがつくられている。「PORTER COPPI(コッピ)」というシリーズのバッグで、横型のデザインやサイズもほとんど同じ。メインの素材に採用されているのは、アウトドアウェアなどにも用いられるコットンポリエステルクロスで、経糸に染色したコットン糸。さらに緯糸に原料の段階から着色したポリエステル原着糸を使用することで、独特のシャンブレー感を表現している。さらに表面にパラフィン加工を施しているので、撥水性も備わっている。背面にファスナー付きのポケットが付いているのも7年前のモデルと同じ。本やスマートフォン、財布などを入れて散歩や旅行などに出掛けるのにとても便利なバッグと言える。

このバッグのことをポーターブランドを擁する吉田カバンの広報に尋ねると、村上春樹本人が愛用している別のバッグの情報がもたらされた。

特設サイトが開設されたのと同じ年に、雑誌『CREA』(文藝春秋)9月号で「本とおでかけ」という特集が組まれている。村上春樹は書き下ろしのエッセイとともに、熊本を旅した写真を掲載。そこで村上は、ポーターと並ぶ吉田カバンの人気ブランド、ラゲッジ レーベルの「LINER(ライナー)」と呼ばれるシリーズのショルダーバッグを身につけている。1984年の登場以来、カバン好きからは「赤バッテン」の愛称で親しまれてきた名シリーズで、ミリタリーテイストのデザイン、レーヨンキャンバスをPVC加工した光沢ある生地が80年代当時はとても斬新だった。マチ幅が拡張できるのも特徴。この旅に村上は3冊の本を持っていったと書かれているが、それぐらい収納力は抜群だ。市内だけでなく世界遺産も訪ね、阿蘇山に登って4泊5日の旅を楽しんだという。そんな機動力が要求される旅に最適なショルダーバッグとも言えるだろう。

最後にポーター、ラゲッジ レーベルなどの人気ブランドをもつ吉田カバンの歴史について触れておこう。吉田カバンは1935年、カバン職人の吉田吉蔵によって創設された。初の自社ブランドであるポーターを発表したのは62年。83年には現在でも人気を集める「タンカー」シリーズが発売される。そして、その翌年に発表されたのが今回取り上げたラゲッジ レーベルだ。ポーターは現在では多くのロングセラーをつくり続けるだけでなく、海外も含めた数々のブランドとコラボレーションし、世界中にファンをもつバッグブランドとなった。

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ブランドタグはバッグの上部に付く。一番右のオレンジのホックには、ブランドを象徴する「ホテルのポーター」(鞄の運搬係)が刻印されている。

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こちらが2015年に販売されたコラボレーションモデル。「PORTER COPPI」とはホックの数とショルダーストラップ、素材などが違うがサイズはほぼ同じ(スタイリスト私物)。

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コラボレーションモデルの背面には、単行本やサイトのイラストを担当したフジモトマサルさんが描いた猫や本のプリントが入っている。

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雑誌『CREA』で村上春樹本人が使っていたショルダーバッグがこれだ。シリーズ名は「LINER」。色やデザイン、ディテールなど、ミリタリーテイストでまとめられている。W43×H32×D15〜25cm。¥30,800/ラゲッジ レーベル

問い合わせ先/吉田 TEL:03-3862-1021

https://www.yoshidakaban.com/index.html

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