ここ数年、ほぼ毎日履いているスニーカーがスイスのオン(On)だ。
実は出合いは雑誌『Pen』のスニーカー特集で。ブランド名は知っていたが、実物を見るのは撮影に立ち会った時が初めて。紹介したのは「クラウド(Cloud)」というオンが初めてつくったモデルだったが、シューレースがゴムになって、靴ひもを締めたり、緩めたりすることなく簡単に脱ぎ履きできるデザイン(スピードレーシングシステムと言われるらしい)にものぐさの私は興味を覚えた。
原稿を書くために資料などを調べると、オンはスイスで2010年に創業した新しいブランドで、創業者のひとり、オリヴィエ・ベルンハルド氏はトライアスロンのプロアスリート。靴づくりの経験はまったくなかったが、庭にあったホースを輪切りにし、それを半分にカットして靴のソールの形状をデザインし、最初のモデルであるクラウドをつくり上げた。
そのストーリーから一度は試してみたいと思ったが、原稿を書いた後、たまたま訪れた百貨店のイベントでオンの試着会が行われていた。このクラウドは「雲の上の走り」と称されるモデル。履き心地がよいのは当たり前だが、自分が求めるクッション性にとても近かった。ホースから考案されたと言われるソールの柔軟性も気に入った。すぐにネイビーのモデルを購入した。
脱ぎ履きが容易なこともあって、クラウドは玄関に常備するスニーカーとなり、次は黒、次は白、次は同じ黒でもソールまで黒、次は同じクラウドでもアッパーの素材がスウェットになっている「クラウドテリー」(これが履きやすい)と。いつの間にか5足のクラウドが玄関の靴入れに並ぶようになった。そもそもランニング用ではなく普段履きとしてクラウドを選んだので、5足あれば、どんな場面、どんなファッションにも合う。外に出かける時、クルマに乗る時、近所を歩く時、ついつい手に取ってしまい、ここ数年、毎日履いている靴となったのである。
そんなオンから新製品のお知らせが届いた。「クラウドモンスター(Cloud monster)」というモデルだ。半裁されたホースから考案されたオンのソールは「クラウドテック」という特許技術から製作されているが、詳細には「オン史上最大のクラウドテックが実現する超ド級のクッショニングとエネルギーリターン。ロードを爽快に駆け抜けるモンスターシューズ」とある。抜群のクッション性をもつソールはさらに厚くなり、昨今の厚底のトレンドにも合致している。シューレースは普通に締める様式になったが、ソールもアッパーも迫力あるデザイン。「モンスター」というネーミングにも興味を覚えた。
一度見てみたいと、4月に表参道にオープンしたばかりのオンの旗艦店に出かけてみた。店に入ると、このクラウドモンスターがいちばんのウリらしく、スタッフのほとんどがこのモデルを愛用している。メンズでは白とパープルのカラーがあるが、実際の靴を見るとパープルがいい(ウィメンズのパープルのカラーリングはもっといい)。履いてみたいと思ったが、オープン間近のショップにはお客様がいっぱいで順番待ちの状態で誰がスタッフで、誰がお客様かもわからない感じ。次の予定もあり、その時は諦めて帰ったが、ずっと気になっていた。
翌週、たまたま立ち寄った近所のスポーツショップで同じ「クラウドモンスター」を発見した。すぐに試着すると予想通りの快適な履き心地。まるで走れと言わんばかりに前傾斜している。写真でははっきりしていないが、シューレース部分が内側にオフセットしてデザインされ、アッパーの圧迫感もない。パープルのカラーも意外と派手ではない。オン愛用者としては、これは買わねばならないとすぐに購入を決断した。
実は家内も私と同じクラウドをずっと愛用しているが、クラウドモンスターを購入した店とは別の店で定番クラウドが進化したクラウド5というモデルを発見、購入した。こちらは初代とほとんどデザインは違わないが、ミッドソールを厚くし、クッション性がアップしたモデル。履き心地はそうとうよさそうで確実にアップデートしている。それにいたずらにデザインを変えていないのもいい。“定番”の意味をこのブランドはよくわかっている。
最初に買ったネイビーのクラウドは、私が酷使したこともあって、最近、アッパーがヘタってきた。普段用として次に狙うのはこのモデルあたりだろうか。