40年ほど前の雑誌を通して、「ファッションやカルチャーを楽しむ行為」という雑誌の価値を思い出す

  • 文:池田尚輝
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3月に“スタイリスト池田尚輝撰 STYLIST’S STYLIST RAY PETRIと‘80年代ロンドンのファッションエディトリアル展” と題したブックイベントを開催しました。場所は大田区田園調布にある洋菓子店SAVEUR2Fの小さなギャラリーUn(アン)。

洋服のブランドであるYAECAが運営する洋菓子店とギャラリーで、同社の服部さんとのやり取りから今回の企画が実現。

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以下は、私が書いた本イベントの紹介文。

スウィンギングロンドン、パンクロック、アシッドジャズなど多くのカルチャーを育んできたロンドン。1980年代は、パンク、ニューロマンティック、モッズリヴァイヴァル、レゲエ、ヒップホップなどそれまで別々に存在していたジャンルや人々が、 ディスコやクラブと言った空間を通して、さまざまにミックスされた価値観を生みだした時代とも言えます。そんな混沌として魅惑的なアンダーグラウンドシーンを伝えるメディアとして産まれたのが、DIY的発想で作られた THE FACE や i-D などの 雑誌であり、そのムードを初めてスタイリングで的確かそれ以上に、誌面や実際のストリートを通して表現し得たのが Ray Petri であると考えました。

数年前、神保町でたまたま見つけた’ 85 年の THE FACE は、Ray Petri の没後刊行された作品集 [Buffalo] で見たことのある、鮮烈なインパクトを放つページを含んだものでしたが、レイアウト、特集のボリューム、アイテムやスタッフのクレジットなど、雑誌でないと得られない情報と空気感に、それまで知ったつもりでいた Ray Petri のスタイリングに違った魅力を発見しました。

1983年から89年まで活動した伝説のスタイリスト Ray Petri(レイペトリ)、後のクリエイター、アーティストにも多大な影響を与え続ける彼の仕事を中心に、THE FACE、ARENAを数十冊集めました。この貴重な機会に、是非ごお運びください。

池田尚輝 ( スタイリスト )

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田園調布という、誰もが来やすいという場所、という訳ではありませんでしたが、そのぶん目的意識のはっきりとした方々に足をお運びいただけたように感じました。

自分で集めた雑誌で、内容もある程度把握するよう努めましたが、見る人によってさらにさまざまな角度から切り取られ、気が付かなかったページやディテールを発見し、とても良い刺激を貰えた機会でした。

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40年近く前の雑誌は、20代〜30代の方には新鮮に、44歳の僕にとっても実はほとんどまったくの新しさもっていました。そして、当時を知る世代にとってはエネルギッシュだった往時を憶い出す、懐かしくも刺激的に写ったであろう今企画。

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日頃は、雑誌やWebメディア、広告を通してファッションイメージを作るのが僕のようなスタイリストの仕事。シーズンのコレクションの情報や社会の空気、クライアントの意向を汲み取り、編集意図を構築し、ヴィジュアル・記事に反映させる。それは有用な情報として読者に届くもの、という認識に普段は支配されがちだったのかも知れない。

今回、古い雑誌に多くの反響をいただいたことで、自分を含め読者となる人は、雑誌や広告に情報を求めるだけでなく、ファッションやカルチャーを楽しむ行為の一環として、一つの着地点としても、雑誌が存在している事を強く感じました。

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ブランド、着る人、街、場所、カルチャー、雑誌など媒体、どれも欠かせない要素としてあるからこそ、日本ではファッション産業が繁栄したのだと思います。

新型コロナウィルスの影響で、場が弱まり過ぎて、ファッションのプライオリティがブランドに片寄り過ぎている、と感じるのは僕だけではないはず。もっともっとダイナミックで、派手でなくともエネルギーに満ちたファッションシーン、カルチャーシーンを見たい、見せたい!

All photos by Arata Suzuki

池田尚輝

ファッションスタイリスト

Penでも度々スタイリングを手がけ、メンズファッションを主軸に幅広い分野をカバーしながら2000年よりフリーランスで活動を続けるスタイリスト。'05-'06はNYCに滞在し見聞を拡げた。ファッションに限らず、アート、工芸、建築も大好き。アウトドアとDIYにも足を突っ込む。

池田尚輝

ファッションスタイリスト

Penでも度々スタイリングを手がけ、メンズファッションを主軸に幅広い分野をカバーしながら2000年よりフリーランスで活動を続けるスタイリスト。'05-'06はNYCに滞在し見聞を拡げた。ファッションに限らず、アート、工芸、建築も大好き。アウトドアとDIYにも足を突っ込む。