人気絵本作家、ヨシタケシンスケのインスピレーションの源とは?初の大規模な個展が世田谷文学館にて開催中

  • 文・写真:はろるど
Share:
世田谷文学館にて開催中の『ヨシタケシンスケ展かもしれない』会場風景。写真撮影もOK。(動画、フラッシュは不可)

イラストレーターや造形作家として活動し、2013年に『りんごかもしれない』(ブロンズ新社) にて絵本作家としてデビューを果たすと、『あんなに あんなに』(ポプラ社)で7度にわたりMOE絵本屋さん大賞第1位に輝くなど人気沸騰中のヨシタケシンスケ。頭の中に広がる妄想やアイデア、クスリと笑うような人のクセなど、世の中の真理をつくようなものの見方をひたすらペンにて描き続けている。日常の出来事を素材としながらも、「そのインスピレーションはどこから出てくるのだろう?」と思うほど想像力に満ちていて、もはや絵本界の奇才とさえ言って良い。

世田谷文学館で開催中の『ヨシタケシンスケ展かもしれない』では、誰もが気になるヨシタケの“頭のなか”を覗きこむことのできる展覧会だ。会場には発想の源である小さなスケッチや絵本原画をはじめ、学生時代の立体作品やアトリエの私物コレクションを公開しているほか、展示のために新たに考案したインスタレーションを設置している。ヨシタケは絵本づくりを「冷蔵庫にある食材から、お菓子のレシピを考えて、工場でつくって箱に入れて、それがお店に並んでいく。その前半がぼくの仕事」と例えているが、まるで絵本がカタチになる前のアイデアを冷蔵庫から取り出して、市場を開くように並べて見せているかのようだ。ヨシタケのメッセージが書かれた直筆の付せんを読みながら作品を追うのも楽しい。

IMG_9255.jpeg
壁一面に並んだ2000枚ものスケッチの複製。ヨシタケは「私にとって大事なこと」であるのと同時に、「思いついた時に描いておかないとすぐに忘れてしまうくらい、どうでもいいこと」を、スケッチに記録してきたとしている。

IMG_9251.jpeg
スケッチの実物。革カバーを自作したミニ6穴サイズの手帳に描いていて、バインダーへ丁寧に保存している。その数は約80冊。

目を丸くしてしまうのが、壁一面を埋め尽くすように展示されたスケッチの複製だ。ヨシタケは絵本作家になる以前から20年来、日々、思いついたことなどを約13センチ×8センチの小さな紙に描き続けている。それらは実に現在までに1万枚以上にも及んでいるが、その中から2000枚ほどの複製を一挙に公開しているのだ。また『りんごかもしれない』や『なつみはなんにでもなれる』 (PHP研究所) など約20作の人気絵本の原画なども同じく公開。透明なジップロックの袋に収められたアイデアスケッチはとても細かいため、拡大した複製もあわせて紹介している。1点1点のモチーフやコメントをつぶさに見ていくと、丸一日かけてもすべて見切れないほどの凄まじい密度だ。

IMG_9302.jpeg
「りんごでうるさいおとなをだまらせよう」の体験展示。手前のリンゴの形をしたボールを手にして遊ぶことができる。

IMG_9512.jpeg
デビュー作の絵本『りんごかもしれない』に関する展示風景。着彩試作やアイデアスケッチなどが並んでいる。ヨシタケは当初、「絵本作家らしく色もつけよう」とマーカーを購入したが、編集者の提案もあってお蔵入りに。以後、原画は白黒にて描かれ、デザイナーが着彩するのが定番となった。

『こねてのばして』(ブロンズ新社) のイメージ映像の音楽(歌:鈴木真海子)が響き、「つまんなそうにしてたら係の人がこちょこちょしてくるかもしれない」などのメッセージパネルのある会場は遊び心満載。それにりんご型のボールを投げ入れながら参加できる「うるさいおとなをだまらせよう」といった体験コーナーもあり、 子どもや大人を問わずに世代を超えて楽しめるように工夫されている。また空間デザイナーの五十嵐瑠衣が手がけた、合板を多く用いた手作り感のある展示も魅力だ。鉛筆などで小さく描かれたアイデアや言葉から広がっていく、おもちゃ箱をひっくり返したような絵本の世界を初の大規模な展覧会で体感したい。

『ヨシタケシンスケ展かもしれない』
開催期間:2022年4月9日(土)~7月3日(日)
開催場所:世田谷文学館 2階展示室
東京都世田谷区南烏山1-10-10
TEL:03-5374-9111
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館30分前まで
休館日:月
入場料:一般¥1,000(税込)
※日時指定制。臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.setabun.or.jp