【着る/知る】 Vol.129 女性に大評判のイレーヴがメンズをスタート!似て非なる服づくりをデザイナーが語った

  • 写真・文:高橋一史
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ファッションブランド、イレーヴの田口令子デザイナーと、メンズとウィメンズの共通アイテム。

2018年春夏にウィメンズデビューしたイレーヴ(YLÈVE)の服が、ファッション通に評判なのはどこに秘密があるのだろうか。
モダンベーシックなゆったりとした形の、日常のワードローブ。マスキュリンで甘さを抑えた辛口のテイスト。しかし着ればエレガントな表情が生まれ、服を着慣れた大人女性の立ち居振る舞いにしっくりと馴染む。デザインの工夫は、計算されたシルエット(パターン)、贅沢な高級素材、奥深く繊細な色使い。とくに目を引くのが色の美しさで、女性デザイナーならではの服との付き合い方がよく表れている。着る人を洒落て見せることを何より大切にした服づくりだからこそ、感度が高い人が選ぶブランドの仲間入りを果たしたのだろう。

そのイレーヴが2022年の今春にメンズをスタートさせた。女性体型に合わせたアイテムをつくり変えた共通デザインが大きな特徴だ。男性が着映えするように細部も変更されている。ファッション連載「着る/知る」はこのたび、気になるこの試みを探るため田口令子デザイナーの元を訪れた。

田口さんにまず、流行のジェンダーレス(ユニセックス)服でなくメンズラインを別につくった理由を尋ねた。
「いちばんの理由は、イレーヴの特徴である着たときのゆとり感を男性にも感じていただくには、つくり変える必要があったからです。男性がウィメンズを着ると、異なるシルエットになります。イレーヴのウィメンズはジャケットやシャツなどメンズっぽいアイテムが多いですが、女性体型を計算したつくりです。同じことを男性向けにしたのが、このたびの新しいメンズラインになります」

パターンやディテールが最適化された繊細なベーシックウエアに心を掴まれる男性は多いだろう。このあとの記事では、田口さんの解説つきでアイテムを見ていく。

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同じ生地でディテールも共通するウィメンズ(左)、メンズ(右)のノースリーブブラウス&半袖シャツ。リゾート地での男女の姿が目に浮かぶ魅惑のデザイン。ブラウス ¥35,200(税込)、シャツ ¥38,500(税込)

「綿・シルクで薄く軽さのあるインポート生地に惹かれてつくった服です。イレーヴにしては大胆な色柄を使ったのは、コロナ禍で海外の旅に憧れる気持ちが強かったから。ウィメンズはブラウス、メンズはシャツをイメージして、両方とも同時進行でデザインしていきました」

ブラウスも前立や両胸のポケットなどメンズウエアのディテールが採用されている。男女が互いに歩み寄る発想が実に現代的だ。

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高級な綿糸を高密度に編んだ、デリケートながら日常使いしやすいカーディガン。左がメンズで右がウィメンズ。メンズは丸みを帯び、ウィメンズは細長でたっぷりと羽織れるシルエット。左右ともに、¥37,400(税込)

左右のどちらも身幅がたっぷりで着丈も長く、メンズ(左)は腰に掛かる程度でウィメンズ(右)はヒップを完全に覆う長さ。ともにエレガントなシルエットで、優しい色の印象も絶妙である。
「色は“バター”と呼んでいるのですが、ベージュのような黄色のような曖昧なニュアンスカラーです。『色を着て落ち着く』ことと、『色を着るための服』という考え方がいつも私のなかにあるんです」

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セーターのように優雅な佇まいのスウエットシャツ。左のウィメンズの着丈はヒップ上、右のメンズはやや縦長の形。左右ともに、¥24,200(税込)
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フラットシーマーの縫製で、縫い目がごろつかずに着心地がソフト。

イレーヴのスウエットシャツは愛用者が多いアイコニックな存在だ。
「特徴は立体的なパターンです。平面的なものが主流のスウエットシャツを、袖を前傾斜にして着たときに美しく見えるようにしました。メンズは袖リブのフィット感をゆるくして着丈も変え、似ていながら別の服として仕立てています」

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裾のアジャスターボタンで裾幅を何通りにも調整できるイージーパンツ。素材はシルク・キュプラで両ヒップにパッチポケットつき。左右ともに、¥39,600(税込)

「ウィメンズで考えたイージーパンツをメンズに落とし込んだパンツです。ウィメンズの時点で股ぐりが余るほどたっぷりしていたので、メンズにするのは自然な流れでした。でも形は同じでなく、まったく異なるパターンです」
男女に最適に似合う服をつくるイレーヴの思想が、ラフなイージーパンツにもしっかりと息づいている。

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ナイロン・コットンをワッシャー加工してハリを出したシャツ。左がウィメンズで右がメンズ。襟は夏らしいオープンカラーで形はボックスタイプ。左右ともに、¥26,400(税込)、

着丈、袖の長さ違いに加え、襟の形もボタンも異なる、同一素材のウィメンズ(左)とメンズ(右)のシャツ。ハリのある素材で夏にぴったりのデイリーウエアだ。
「ウィメンズはジャケットのように羽織る着方を想定したデザイン。ボタンには厚みのある貝ボタンを採用しました。一方のメンズはシャツらしさを重視。ボタンもマットなシャツ用のものにしています。Tシャツの上に羽織る男性的な着こなしも似合うでしょう」

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メンズのボタンはマットで中央部にだけ光沢のある貝ボタン。
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取材時に田口さんが着ていたウィメンズオンリーのシャツワンピース。小柄な彼女は大きめサイズの袖を折って自分流にスタイリング。メンズシャツのディテールである中央のボックスプリーツがほどよい緊張感を生んでいる。¥37,400(税込)

田口さんがイレーヴの服づくりの基準にしているのは、
「私が着たいと思う服」
この考えはメンズも同様で、
「『自分が男性だったら着たいと思うか』を考えます。私自身がメンズ服を買って着ることも多いですし、明確な男性像はとくにありません」
とのこと。
肩傾斜やゆとり感は、さまざまな体格の男性にフィットするバランスが追求されている。シンプルななかに確かな心が感じられるのがイレーヴの真髄だ。

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セレクトショップでの企画職を経て、アパレルメーカーのアングローバルから自身のブランドを立ち上げた田口さん。

イレーヴのメンズにまず袖を通してみたい人は、取り扱い数が多く全国に5店舗あるショップ「ザ ライブラリー」に行くのがお薦め。同店のオンラインストアでも多数展開されており、ここに紹介したもの以外のアイテムもチェックできる。きっと新しい時代の男性の装いと出会えるはずだ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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