実在と虚構のさけ目に向かう、驚きに満ちた作品世界
4×5インチの大判フィルムカメラを用いて、ジオラマやミニチュアを撮ったような独特の表現で知られる本城直季。約200作品を紹介する初の大型個展が都内で開催中だ。本城がとらえようとしているものとは、なんなのだろうか。
本城直季の写真は、不思議な魅力に満ちている。世界各地に足を運び、地球を俯瞰するように撮った作品をまとめた『smallplanet』が発行となったのは2006年のこと。第
32回木村伊兵衛写真賞にも輝くなど注目を集めた。
ジオラマやミニチュア模型をのぞき込んだかのような表現は、大判カメラのレンズ面と感光面を上や下に傾ける「アオリ」によるものだ。この手法で上下のピントがずれる。
「大学時代、美しくどこかリアリティのない世界を表現できることを知って大判フィルムカメラを手にしました。その後、偶然に生まれた作品をきっかけにたどり着いた表現です」
と同時に、そのずっと前から作品制作に続く関心があったことにも触れなくてはならない。本城のことばを引用すると「疑問」であり、しばしば口にする「違和感」だ。
「目白に暮らしていた中学時代に母を亡くし、池袋や新宿にそびえ立つビルに囲まれた世界にとり残されたような感覚になった。その気持ちが制作の原動力となっているように感じています。自分の住む街や世界の不思議さを知りたい、俯瞰してみたいと思いました」
時代の空気を表現しているアニメや映画にも強くひかれてきた。
「バイクが好きで、東京を走っていると、映画セットのような仮想空間を、疾走しつつ冒険している感覚になる」
確かに存在する世界でありながら、現実と虚構とが混じりあうかのような現代の社会。その光景や人々を写真でとらえたいと、大判カメラや三脚を携えて移動を続ける。重いカメラをしかと抱えての空撮でも、目はもちろん、身体全体で違和感に向き合う。その違和感が作品ではピントのあった部分として表現されているのだ。
足を運ぶのは都市に限らない。
「美しい山だと思って見ていたら単色風景で人工林であることに気づいたり、地層が異なることを知ったり、自然のなかでも違和感を覚える場所がさまざまあります。ケニアの草原に向かったときに人工的な違和感を感じた場所は、動物たちの痕跡でした」
俯瞰の驚きに満ちた作品の数々。それは現実と非現実の境目に果敢に向かった撮影者の時間の蓄積でもあり、作家の視線そのもの。「身体に最も近い」大判カメラに対する一貫したこだわりも、何とも興味深いところだ。
こうして撮りためられてきた作品を堪能できる本展。「small planet」シリーズの作品を始まりとし、そこから枝分かれするように複数テーマでの作品が紹介されている。小学校の校庭、工業地帯、リゾート地、東日本大震災後の東北。オルゴールのような舞台、深夜の路地を路上から長時間露光で撮った作品もある。展覧会開催地を撮るという主旨で、オリンピックを控えた東京の街も撮影された。
対象に向かい続ける本城のように、作品を前にした私たちもまた、焦点をあわせるように目をこらしてしまう。身体や知覚の不思議さも知る。「じっくり撮ることで自分の考えそのものが映り込む」と語る本城が示す世界を、感じてみたい。
『本城直季 (un)real utopia』
開催期間:3/19~ 5/15
会場:東京都写真美術館
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 ※木、金は20時まで。入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日 ※5/2は開館
料金:一般¥1,100
※開催の詳細はサイトで確認を
https://honjonaoki.exhibit.jp
※この記事はPen 2022年5月号より再編集した記事です。