映画『死刑にいたる病』のあらすじと見どころ。阿部サダヲ主演で描く驚愕のサイコサスペンス

  • 文:上村真徹
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©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

日本映画界屈指の鬼才・白石和彌監督が、櫛木理宇の傑作小説を映画化したサイコサスペンス『死刑にいたる病』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】史上最悪の連続殺人鬼が、たった1件だけ冤罪を主張する

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キャンパスで一人だけ浮いてしまい最悪な大学生活を送っていた雅也は、榛村から依頼された冤罪証明の調査にのめり込む。©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

2013年に問題作『凶悪』で注目を集めて以来、『彼女がその名を知らない鳥たち』や『孤狼の血』などで数々の映画賞を獲得した白石和彌監督。その白石監督が、注目の作家・櫛木理宇の同名小説を映画化した『死刑にいたる病』が5月6日から劇場公開される。

教育⼀家に生まれながら理想とは程遠いランクの大学に入学し、悶々とした日々を送る筧井雅也(岡田健史)。父から落伍者として扱われていると信じ込んですっかり卑屈になり、鬱屈した日々を送っていた彼の元に、ある日一通の手紙が届く。差出人は、中学時代に通っていた近所のパン屋の主人で、24件の殺人容疑で逮捕されてそのうち9件で死刑判決を受けた凶悪犯・榛村大和(阿部サダヲ)だった。

連続殺人鬼という言葉とはかけ離れた店主の印象を思い出した雅也は、榛村と拘置所で面会することに。そして再会を懐かしむ榛村から「罪は認めるが、9件目の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明してほしい」と頼まれる。そこで改めて事件について調べてみたところ、榛村が冤罪を訴える9件目の事件は不審な点が多かったことに気づく。「もしかしたら、何かがあるかもしれない」と思った雅也は、榛村の担当弁護士の協力で事件資料を入手し、榛村の過去を知る関係者や知人を訪ねながら独自に真相を調べ始める。

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【キャスト&スタッフ】阿部サダヲが連続殺人鬼の“表の顔”と“裏の顔”を不気味に演じ分ける

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24件の殺人容疑で逮捕され9件で死刑判決を受けた榛村は、わずか1件だけ冤罪を主張する。©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

アウトローの世界を描いた作品を得意とする白石和彌監督が新作の題材として選んだのは、デビュー作「ホーンテッド・キャンパス」で日本ホラー小説大賞読者賞を受賞した櫛木理宇の最高傑作と称される『死刑にいたる病』(初版では「チェインドッグ」のタイトルで発売)。「自分が10代20代の頃に持っていた鬱屈と、後ろめたい憧れを抱いてしまう殺人鬼。その両方が見事なコントラストで混在している」と語るほど惚れ込んだ小説を、本編に何度も登場する拘置所の面会室に変化を生むため壁の形を変えるといった映画的なギミックを随所に施しながら、細部までこだわって映像化した。

劇中で日本犯罪史上最悪の犯罪者である連続殺人鬼・榛村を演じるのは、白石監督と『彼女がその名を知らない鳥たち』で組んだ阿部サダヲ。収監された榛村の元に通って事件の真相に迫る雅也には、NHK大河ドラマ「青天を衝け」など話題作への出演が続く岡田健史。事件を捜査する雅也の行く先々に現われる謎の男・金山役に、パフォーマーとしてだけでなく俳優としても評価が高まっている岩田剛典。さらに、雅也の母・衿子役に中山美穂と、若手からベテランまで個性の光る俳優が集結している。

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【見どころ】連続殺人鬼と平凡な大学生の運命的な邂逅に震える

本作の注目ポイントは何と言っても、阿部サダヲが渾身の演技で体現する連続殺人鬼像。「俳優をやっていて1度は手を出してみたい役」という本人の思いが物語るように、凶悪犯とは思えない清潔感のある身なりや穏やかな口調で“表の顔”を演じつつ、ふとした仕草や表情から狂気的な“裏の顔”を不気味に覗かせ、見る者をゾクリとさせる。

そんな唯一無二の殺人鬼と相対するのは、若手実力派俳優・岡田健史。どこにでもいそうな若者の機微を岡田がナチュラルに演じることで、事件を独自に調査する主人公に見る者はいつしか自らを重ね合わせ、その想像を絶する残酷な事件の闇にいっそう震撼させられる。連続殺人鬼と平凡な大学生という対照的な2人が、拘置所で何度も面会を重ねるうちに心を通わせながら、面会室という密室で繰り広げる静かなやり取りからは目が離せない。

グロテスクな猟奇描写に頼らずとも、得体の知れない不安と緊張感で精神を揺さぶり、事件の意外な真実と相まって身の毛もよだつ恐怖へと昇華させる──。その衝撃をぜひ劇場で味わってほしい。

『死刑にいたる病』

監督/白石和彌
出演/阿部サダヲ、岡田健史ほか 2022年 日本映画
2時間9分 5月6日(金)全国ロードショー

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