住宅ローンの借り過ぎで老後破産に⁉ 年収1000万円でも裕福ではない理由

  • 文:川畑明美
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年収が上がるとロケーションが良い住宅に住みたいと考える方が多い。だが給与の上昇よりも物件価格の上昇が急激に上がっているのも忘れないで欲しい。eiya Tabuchi-istock

年収が1000万円になったら、何を買いたいのか? 今よりも年収が上がったら「あれもしたい」「これを買いたい」など夢が広がるだろう。株式会社ビズヒッツが興味深いアンケート結果を公開している。『年収1,000万円あったらお金をかけたいことランキング』だ。同調査でお金をかけたい第1位は、「家の購入・リフォーム・ローン返済」だった。2位の「旅行/レジャー」を大きく引き離してダントツの1位なのだ。


「1000万円も収入があるのだから、ロケーションの良いマンションに住みたい」と思うのだろう。眺望の良いタワーマンションはお金持ちの象徴だと一部の方には思われているようだが現実は、少し違うことをご存じだろうか。タワマン居住者は、破産予備軍ともいわれているのだ。


以前に書いた記事『年収1000万円の落とし穴とは?』こちらも参考にして欲しい。税金は、累進課税制度なので年収1000万円だと手取りは思っている程増えないのだ。最近は、タワマンだけでなく都心の住宅はかなり値上がりしている。不動産経済研究所が3月17日発表した、2022年2月の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンション平均価格は1戸あたり7,418万円、東京23区に限れば9,685万円だ。日本人のサラリーマン所得は、それほど増えていないのにマンション価格の上昇率は驚くほど高い。

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低金利の住宅ローンで借り過ぎに?

マンション価格が上がっているのに即日完売する物件もあるほどだ。なぜこれほど高値でも不動産が売れるのか。気付いて欲しいのは「低金利」ということだ。住宅ローンの金利は、変動金利が0.4%くらいで固定でも1.2%くらいだ。金利が低くなっているので多くお金を借りる事ができてしまうのだ。ところが首都圏に7000万円のマンションを購入して、子どもを私立中学に入れたら、年収1000万円でもたちまちお金がなくなってしまう。


最近は、大手企業でも突然経営危機に陥ることがあるので、年収1000万円あったとしても借りられる住宅ローンではなく返済できる金額で住宅ローンを組むことが重要になる。ここ最近は、給料が上がっていないし退職金も、ものすごく下がっている。2003年頃には退職金は、平均で2500万円くらいだったが、最近では2000万円を切っている。退職金は、年々下がり続けていることも考慮して欲しい。


そして住宅ローンは80歳まで借りられるので老後に住宅ローンが残ってしまう世帯が多いのだ。低金利が続くとしても80歳まで住宅ローンが残ってしまっては老後破産まっしぐらだ。住宅を購入する前には、しっかりライフプラン表を作って欲しい。


ただし住宅を購入しない方が良いということではない。住宅を購入した人に対する税制優遇措置は住宅ローン控除をはじめいろいろある。ところが、家を借りた人に対する税制優遇措置は何もないのだ。賢く制度を使って欲しい。筆者は住宅ローン控除を十分に活用するため10年くらいで住み替えをしている。住み替えして住宅ローンを新しく組めばまた住宅ローン控除が受けられるのだ。

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年収1000万円は裕福なのか?

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世帯年収1000万円でも上をみたらきりがない。思い描いているほど裕福な暮らしではないことも事実だ。MicroStockHub-isotck

また「年収1,000万円あったらお金をかけたいことランキング」を見ると、年収1000万円で満足できないと思う人の理由も調べている。ここで興味深いのは、実際1000万円超えの収入があっても「裕福な暮らしはできなかった」という声が寄せられていることだ。税金がかなり引かれることや児童手当の減額があるなどの意見が多い。


実際、当時世帯年収1000万円だった筆者が、2人の子どもを私立中学に進学させるための資金を試算した資料を見てみると、毎月5万円ボーナスを年間100万円貯めたとしても進学塾や予備校の資金まで入れるとマイナス760万円だったのだ。


世帯年収1000万円では、預金だけで子ども2人を私立中学に進学させることができないとわかったのだ。その当時は投資で増やさないと、夢を叶えてあげることができないと強く感じた。そこから投資について猛勉強を始めたのだ。

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必要な資金を逆算して考える


そのおかげで、長女の大学費用と次女の私立高校の費用で教育費のピークを迎える現在でも余裕のある暮らしができている。長女が保育園の頃に試算したのだが、あの頃に試算もせずドンブリ勘定を続けていたら、現在の生活はできていなかったと思う。


年収1000万円あれば、金銭面において満足のいく生活ができると思うかもしれないが、実際にライフプランニング表を書いてみればそうではないことが、わかるのだ。大切なことは、年収がいくらなのかでなく、その年収の範囲内で何ができ、何ができないのかを知ることだ。筆者は教育費がピークになる15年ほど前に気付いたので様々な対策ができた。当時は、「教育費を投資で増やすのは、もってのほか」という風潮だったからリスクを回避しつつ、必ず増やす方法を独自に模索してきた。

リスクを回避した投資は、魔法のように大きく増えるものではない。バブル時代の定期預金くらいの年利6~8%くらいのイメージだ。若い方にはピンとこないだろうから10年で2倍に増えるくらいとイメージするといい。当時、主人は投資に否定的だったが、ライフプランニング表を作ることで説得したのだ。年間160万円貯蓄できたとしても子どもを私立中学に入学させたら赤字になってしまうのだから。

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相談する人を間違えてはいけない

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見えない手数料が取られている金融商品は、意外にも多い。相談する人を間違えると取り返しがつかないこともある。-istock

お金で幸せは買えないかもしれないが、お金さえあれば、生活の最低ラインを守ってくれるのは、確かだ。ところが貯金だけしていても金利がほとんど付かないので、お金は思ったように増えない。だから、ある程度まとまったお金があると「寝かしておくだけでは、もったいない。お金に働いてもらおう」と考える方もいる。


そして金融機関に相談する方が実に多い。金融機関のビジネスモデルをちょっと考えて欲しい。金融機関では、金融商品を販売する「手数料ビジネス」なのだ。手数料ビジネスとは企業がサービスや商品を提供することで、顧客から各種手数料を得て成立する仕組みだ。金融機関に相談したら、より多くの手数料が取れる金融商品を勧めるのは、火を見るより明らかだ。


特に「早期に解約すると元本が減りますよ!」と、言われる金融商品は、手数料が膨大だと思って欲しい。手数料が高いから、元本割れするのだ。「満期まで持っていれば、損することはありません」と、言われたと相談いただくこともあるが満期まで何年あるのかまでも考えて欲しい。20年や30年という長い期間、1円も受け取れない金融商品ならば、時間のロスも考えてみるべきだ。

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富裕層ほどリスクを取らない

もしも、まとまったお金を運用したいと考えるのならば、お金の教養を身につけるべきだ。まとまったお金というのは、利益を生み出す工場のような存在だ。1億円の資産があって、3%で運用できれば毎年300万円が手に入る。3000万円の資産があれば、100万円が手に入る。運用の安全性を高めれば資産を減らすことなく、まとまったお金から毎年、収益を生み出す仕組みを作ることができる。


その仕組みを作るのに、手数料ビジネスをしているところで相談してはいけないことは理解できるだろう。せっかくのまとまったお金からどれだけ手数料を取れるのかを考えた提案になっているからだ。


実際に富裕層向けにコンサルティングしているファイナンシャルプランナーに話を伺うと、富裕層ほどリスクを取らないという。例えば、株式投資もほとんどは、自社株の保有がメイン。運用しているのは、投資信託や債券でリスクを抑えて運用している。1億円運用できるのならば、リスクを取って10%で運用するのではなくリスクを抑えて3%でもいいのだ。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/