映画『とんび』のあらすじと見どころ。重松清の名作小説を阿部寛&北村匠海の“親子”競演で実写化

  • 文:上村真徹
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©2022『とんび』製作委員会

直木賞作家・重松清のベストセラー小説を、阿部寛と北村匠海の競演で映画化した感動ドラマ『とんび』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】日本一不器用な父親と温かい大人たちに育てられた僕

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突然妻に先立たれたヤスは、幼い息子アキラを男手一つで育てることに。©2022『とんび』製作委員会

直木賞作家・重松清が感動的な親子の絆を描き、累計60万部を超えるベストセラーを記録した小説「とんび」。これまで2度テレビドラマ化され話題を呼んだ同作が、このたび待望の初映画化。阿部寛と北村匠海の競演で織りなす感動ドラマ『とんび』が、4月8日から劇場公開される。

昭和37年、瀬戸内海に面する広島県備後市で運送会社に勤めるヤスこと市川安男(阿部寛)。幼い頃に両親と離別し“家族”に憧れを抱いていた彼は、妻・美佐子(麻生久美子)との間にもうすぐ子どもが生まれる喜びをかみしめていた。そして待望の息子が誕生し、アキラと名付ける。しかしそれからわずか3年後、美佐子が突然の事故で亡くなってしまう。

ヤスとアキラは2人きりの暮らしを始めることになるが、ヤスの姉代わりで小料理屋の女将・たえ子(薬師丸ひろ子)や、ヤスの幼馴染みで薬師院の跡取り息子・照雲(安田 顕)と妻の幸恵(大島優子)らがアキラを我が子のように可愛がってくれる。一方、いまだに過去を悔やみきれないヤスは、照雲の父で住職の海雲(麿赤兒)に励まされることでようやく前を向き、周囲の手を借りながらアキラを育てていく。それから時は流れ、高校3年生のアキラが東京の大学に合格し、2人は離れて暮らすことに。そして昭和63年、大人になったアキラ(北村匠海)は、ある目的で上京したヤスと久々に再会する。

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【キャスト&スタッフ】初競演の阿部寛と北村匠海が“とんびと鷹”の父子を好演

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架空の街・広島県備後市で開催される秋祭のシーンは映画オリジナルのエピソード。©2022『とんび』製作委員会

本作の監督を託されたのは、『64-ロクヨンー』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『糸』など、多くの深遠な物語をエンターテイメントとして昇華させてきた瀬々敬久。自ら指名した『宮本から君へ』『あゝ、荒野』などの脚本家・港岳彦と2人で脚本開発に挑み、原作にはない令和の時代までオリジナルエピソードを書き加えることで、“今観るべき映画”へと仕上げた。

撮影では、重松清の故郷でもあり、瀬戸内海を望む岡山県を中心にロケを敢行。雄大で穏やかな海を各シーンで象徴的に映し出す一方、活気にあふれていた昭和30年代の街並みを徹底的なリサーチで忠実に再現。その後に続く昭和の終わりから平成へと長年に渡る時代の変化まで、緻密に施している。

主人公のヤスを演じるのは、映画やテレビを問わず数々のヒット作で主演を務めてきた阿部寛。破天荒で愛すべき、昭和の香りを濃厚に漂わせる父親をパワフルな存在感と表現力で魅せる。そして息子のアキラ役には、『東京リベンジャーズ』などの話題作で突出した才能を発揮する若手実力派の北村匠海。これが初競演とは思えないほど、親子の繊細な関係を演じきっている。他にも、『下町ロケット』をはじめ阿部寛と何度も競演した安田顕など、個性派俳優たちと織りなす人間模様も味わい深い。

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【見どころ】今の時代にこそ語るべき、温かい“家族”の物語

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父親ヤスの不器用な愛情と町の人々の温かさに支えられ、アキラはまっすぐな大人へと成長していく。©2022『とんび』製作委員会

「とんび」はこれまですでに2度テレビドラマ化されているが、なぜ今あえて映画化したのか? その理由は、本作に“今伝えるべきテーマ”があったからだ。物語の中で織りなされる、昭和中期以降の瀬戸内で暮らす人々の大らかさや、人と人とが相手を思いやり助け合う温かな絆。それは単なる「昔は良かったな」と懐古趣味で満足するものではなく、現代に生きる人たちと未来につなげていくべき大切なもの。そんな製作スタッフの思いが、親の愛や親子の接し方を知らないまま父親になったヤスの子育てを周囲の仲間が支えるという“家族”の物語に託されている。

そうした“家族”の物語の軸となっているのはもちろん、“とんび”の父親ヤスと“鷹”の息子アキラが交わす、いつの世も変わることのない普遍的な親子の絆だ。日本一不器用な父親ヤスが海のように広く深い愛情を注ぎ、その思いに背中を押されながらアキラは一歩一歩まっすぐな大人へと成長していく。瀬々監督が『無法松の一生』をイメージして描いたというヤスの生きざまを、大人になったアキラがどう受け止め、そして未来へ受け継いでいくか見届けたい。

数十年間に渡る1組の父子の年代記を、2人が重ねる歳月の重みを感じさせつつ、時間の冗長さを感じさせず1本の映画にまとめきる──。コロナ禍で人と人の間に物理的かつ精神的な距離が生じがちな今の時代だからこそ、心に響く人間ドラマがここにある。

『とんび』

監督/瀬々敬久
出演/阿部寛、北村匠海ほか 2022年 日本映画
2時間19分 4月8日(金)全国ロードショー

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