ドバイ万博でもナンバーワン。コロナ後の世界をステキに変える永山祐子の建築

  • 文:林信行
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このコロナ禍に世界をまたにかけ、八面六臂の活躍を続ける日本人建築家がいる。永山祐子さんだ。
昨年秋1年遅れでようやくスタートしたドバイ万博で手掛けた日本館は、ドバイ情報を発信するメディア「UAEave」が選ぶドバイ万博のトップ10パビリオンで開催地UAE(2位)を抑え、1位を獲得した。「(全部で200あるパビリオンのうち)1つしか行けないとしたら、日本館に行くべき」と絶賛され、連日、行列がつづく人気のパビリオンになっている。

一方で、最近、東京都心では見慣れない変わった形をした高層ビルが目に入るようになり話題になっている。この新宿歌舞伎町に突如現れた超高層ビル「東急歌舞伎町タワー」の特徴的な外観も永山さんが手がけている。さらには東京駅前で着々と進み2027年度に完成すれば日本一高い390mの超高層ビルになる「Torch Tower」でも特徴的な低層部を、地域再開発の好事例として注目を集める前橋市のJINS PARK 前橋も……と言った具合にコロナ禍で目にする話題の建築プロジェクトの多くに永山さんが関わっているのだ。

その永山さんに上でもあげたコロナ禍で取り組んできた建築プロジェクトやアートプロジェクトについて話を聞く機会を得た。

砂漠に建てた大和比のパビリオン

まずは注目のドバイ万博の日本館について話を聞いた。
アラベスクな雰囲気を漂わせる麻の葉紋様のファサード(外装)が美しい日本館。コロナ禍でドバイ訪問が難しい中、Instagramへの投稿がもっとも目立つパビリオンの1つとなっているので、ソーシャルメディアをよく見ている人は、既にその特徴的な外観をご存知かも知れない。

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©2020年ドバイ国際博覧会 日本館

もともとはプロジェクトの取り組みは、設計者公募から始まった。

2週間でつくった80枚ほどの提案書では「建築の提案をするよりは日本館を通して何を伝えたいのかをまとめた」という。万博のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」に沿って日本とドバイをどのようにつなげられるのかを検証した。

中東の人の日本に対する印象アンケートを見ると、日本には「伝統芸能」のイメージ以上に「先端技術」と「四季のある自然」のイメージが強かったという。そこでその両方で重要な「水」に着目してみると、掘れば水が出てくる日本に対して、降水量が日本の20分の1のドバイ。それなのに実は使用する水の量はドバイの方が多かったり、海水から水をつくりだすために日本企業が協力していることなど、いくつかの面白い関係性が見え、水盤を張るアイディアにつながった。

既に書いたようにパビリオンのファサードは麻の葉の紋様になっている。元々各国の紋様に興味があった永山さんが、日本と中東の幾何学模様の文化はシルクロードを通してつながっていたのではないかと想像を膨らませ、日本の伝統的な麻の葉の模様にも、アラベスクの模様にも見える形をイメージしてデザインした。麻は成長が早いので赤ちゃんの産着として選ばれるおめでたい模様。日本館の主旨にも合うと考えたそうだ。

しかし、実はそこには建築的な計算もあった。紋様は2D、つまり平面的な絵だが、これを建築に応用するには立体的にしなければならない。建築では三角形を合わせて立体的な形を作るトラス構造という骨組みがよく用いられるが、麻の葉紋様は三角形なので、トラス構造のようにして立体に展開しやすいのだ。実際に永山さんは綿棒を使ってモデルをつくり、目指していた構造がつくれることを確認した。

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ファサードコンセプトモデル

永山さんは実際にドバイに足を運んだ。だが、そこで見たのは、何もない砂漠だけの風景だった。

「日本での建築の仕事は既に周囲に他の建物というコンテクストがある中で、それに合わせて作っていくことが多いが、何もない砂漠でどうやってとっかかりをつくるのか。」

考えた末に永山さんは「砂漠地における究極の建築はピラミッドだ」と思い立つ。無秩序な砂漠に立つ、黄金比という人間がつくりだした数学的秩序の構造物。この究極のコントラストについて考えるにつれ、永山さんは次第に今回の日本館もその方法でつくるのがいいと思い始める。

どうせなら日本館なので、西洋の数学的秩序ではなく、日本に古来から伝わる伝統的比率「白銀比」でつくることを思い立つ。

「大和比」という別名で呼ばれることもある「白銀比」を意識している現代の日本人は少ないかも知れない。しかし、直角二等辺三角形の辺の比に由来するこの比率は、今でも日本で紙のサイズ(A版やB版)などに採用されており、しっかり日本の生活文化に浸透している。

永山さんは、この白銀比を日本館を建てる特徴的な台形の用地に当てはめてみた。「建物に対して二等辺三角形の水盤をつくる。そこにまっすくな道をつくるとまた二等辺三角形ができる。」

思惑がピッタリとハマり「運命的だ」と感じ、この案を採用したという。「三角形が生み出すパースペクティブ(遠近感)に基づいて空間をつくれば、真四角な空間とは違ったドラマチックな体験が生み出せる」と、人の動線をはじめすべて三角形の動きを基本に考えた。

ちなみに日本館のファサードの三角構造には、ところどころに幕が張られている。これは永山さんが、ファサードの内側を半外部のような中間領域にしたいと考えていたからだという。

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©2020年ドバイ国際博覧会 日本館

幕を使って暑い日差しを防いでくれるが、完全に閉め切っているわけではないので外からの風も入ってくる。さらには幕に影ができることで、建物にやさしい表情も生み出してくれる。このファサードは環境装置であると同時に、館の立体構造を与える存在でもあり、さらにはアラベスク風の麻の葉模様という1つのイメージを表すパターンとしての役割も担っているのだ。

一見、ランダムな場所に幕が張られているように見えるが、実際には太陽の光が差す方向などで影がどのように変わるかなどをコンピューターでシミュレーションし、最新のVR技術なども活用して詳細に幕の位置の指定を行っているのだという。

東京の風景をステキに変える

ドバイ万博日本館が、コンテクストのない砂漠につくった日本的秩序の建物だとすると、永山さんの最新の仕事「東急歌舞伎町タワー」や「Torch Tower」は、コンテクストあふれる東京の街中に新しい秩序を生み出そうとしたプロジェクトだ。

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©︎永山祐子建築設計

「東急歌舞伎町タワー」は政府が国家戦略特区と定め、アジアでも珍しいまったくオフィスが入らない超高層ビルを建てることから始まったプロジェクト。「従来通りではない超高層ビルをつくる」ということから私に依頼が来た」と振り返る永山さん。「従来のオフィスを主体とした超高層ビルは権力の象徴であることが多いが、それに対してやさしい出立ちで、ゆらぎのある、今までにない形にしよう」と考え、噴水をイメージしたファサードを考案する。

「噴水は水の勢いがないとペシャっと潰れてしまう。それはエンターテイメントも同じで、人々の思いが集まらないと勢いがつかず形作れない」。そんなことも表したかったようだ。

また、歌舞伎町は元々沼地であり、目の前のシネシティ広場には元々噴水があったりと土地の持つストーリーとも重ねている。

ここでも永山さんの日本の紋様への造詣の深さが生き、水のイメージにつながる青海波をベースにしたアーチ型を窓ガラスの上にプリントすることが決まった。

噴水をよくみるとシャワシャワとしているところは真っ白だが、水が勢いよく噴き出しているところは透明だ。

通常は塗料の耐久性を考え、二重になったガラスの内側にプリントするのが慣例だが、光が反射する部分と、反射しない白濁した部分のコントラストを妥協なく表現しようとすると外側にプリントする必要があったという永山さん、それができる新しい塗料が開発されたことで実現した。

この「東急歌舞伎町タワー」は、場所によっては渋谷などの離れた場所からもしっかり見える東京の街並みをつくる新しいシンボルだが、その後にも「Torch Tower」の空中散歩道など、このコロナ禍でも永山さんの仕事の勢いは止まっていない。

※追記
ドバイ万博の日本館について、ニュースが届いた。
(以下、永山さんのfacebookより引用。)
“今回のドバイへの渡航のもう一つの目的は日本館ファサードのリユースです。当初から解体、再構築が可能なボールジョイントシステムを採用するなどコンセプトに入れていたものの、具体的な使い道のないまま閉会後は解体に向かっていました。日本館完成まではそこに向けてもさまざまなハードルがあったためリユースに関しては進められないままでしたが、完成した姿を開催1ヶ月前に目にした時にリユースへの思いがまた芽生え始め、そこから本格的に可能性を探ってきました。一度は可能性が消えかけていましたが、ここにきて急展開があり、リユースを進めて行ける可能性が高まってきました。今回、リーム・アル・ハーシミー大臣にも素晴らしい試みだと応援していただきました。日本館は今まで取り組みはあったもののリユースが実現されたことがありませんでした。新しい実例になればと思います。引き続き実現に向けて頑張りたいと思います。”

詳細は、4月に発表されるとのこと。

関連記事:永山祐子が手がけたアートプロジェクトを取材した記事はこちらから→「コロナ禍でも大規模プロジェクトを続々と手掛けた永山祐子の「コンセプトと体験」」

永山祐子

1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」、「豊島横尾館(美術館)」、「渋谷西武AB館5F」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」、「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、「JINS PARK 前橋」など。現在、東急歌舞伎町タワー(2023)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。
http://www.yukonagayama.co.jp/