いちばん得意なものだけに特化した、インディペンデントなブランドがいま面白い。カシミヤ、レザー、パンツ、……。自分たちの強みを前面に打ち出す姿勢の裏には、クオリティに対する揺るぎない自信がある。
大量生産、大量消費、大量廃棄が当たり前だった旧来のファッションビジネスのあり方から脱却し、手の届く範囲で独自のルートを切り拓いていこうとする新しい潮流が生まれている。長く愛用できるいいものを必要な量だけ生産し、価値観を共有できる消費者へと届けていく。
「餅は餅屋」あるいは「LESS IS MORE」。そんな言葉がしっくりとくる、新たな生産と消費のスタイルに注目したい。ここでは日本国内のローカルな4つのブランドにスポットを当て、彼らが誇るシグネチャーアイテムを紹介しよう。
1.ボーディのカシミアTシャツ
サンスクリット語で「悟り」を意味する言葉からブランド名を着想し、2018年にスタートしたボーディ。最高品質のカシミアを用いた、シンプルな日常着を提案するブランドだ。近年では多種多様なハイテク素材が登場しているが、日常着として必要な機能を見ると、カシミアほど肌ざわりがよく、耐久性があり、そして親しみやすい素材はほかに見当たらないという。日常的に使い続けることで、素材やもののよさを悟ってもらいたい。そして、カシミアのポテンシャルを活かして、日常着としての寿命を最大限に引き延ばしたい。そんな思いから、ボーディではデイリー、マンスリー、シーズナルと、3段階のアフターケアを推奨しているほか、常時製品のクリーニングサービスも行っている。購入、消費、廃棄というサイクルをいちばん身近な日常着から見直せば、人と物とのよりよい付き合い方が見えてくるはずだ。
2.ヨアサのオーダーコート
世田谷区用賀にあるマンションの一室に、店舗兼アトリエを構えるヨアサ。2018年からオーダーコートに特化した、インディペンデントなビジネスを続けている。デザイナー本人が接客から製作までを一貫して行うスタイルで、国内各地にてオーダー会も実施している。
基本となるパターンは1型のみ。ライニングや芯地などの副資材を省いた、非常にシンプルなつくりのコートだ。ただ、そこから自分好みに調整できる幅の広さこそが、少数精鋭のアトリエで作業を完結できる、ヨアサならではの強みといえる。生地は国内外から約1,000種類以上を用意しており、オーダーの価格は選ぶ生地によって変化する。しかしそれ以外には、どこをどのようにアレンジしても、基本的に追加料金は発生しない。運営にかかるコストや資材をミニマルに抑えることで、その分、オーダーの自由度を高めることに成功しているのだ。
3.タンジェントのタックパンツ
「パンツ専業」といえば、イタリアのファクトリーブランドなどが有名だが、近年はカジュアルなパンツに特化した、日本国内の新しいブランドが盛り上がりを見せている。ミリタリーパンツをベースに、上品でモダンなスラックスにアップデートして展開するタンジェントもそのひとつ。パンツのスタイルは番号でわかりやすく分けられており、それぞれに素材や色のバリエーションを豊富にラインアップする。
日本人の体型や日本の気候を踏まえたデザインは、裾上げで本来のシルエットが崩れることも、限られた季節にしか穿けないという事態も回避しやすい。他のアイテムに比べて、パンツは一度シルエットや穿き心地を気に入ると、何度でも同じ物をリピートしたくなるアイテムだ。シーズンを越えても同じスタイルが手に入り、新しい素材の提案も楽しめるという、専業ブランドならではのメリットにも注目したい。
4.キグリーのスタジアムジャンパー
国内外ブランドのコンサルティングやプロデュースを手がけるアンシングスの重松一真と、パンツ専業ブランドのニートを手がける西野大士が2020年にスタートしたキグリーは、スタジアムジャンパー専業という、非常にニッチな市場をターゲットとしているブランドだ。ブランド名の由来は、1930年代まで存在したアーカンソー州最大のスタジアム名。そこを本拠地とした現存しない野球チーム、「リトルロックトラベラーズ」のスタジアムジャンパーをイメージして、デザインを行っている。
写真の一着は、キグリーで最初に展開された定番アイテムの新素材。ジップを締めればフードとしても使えるセーラーカラーのようなつくりは、ブランドを象徴するアイコニックなデザインのひとつ。手描きのペイントやヴィンテージ加工を施したワッペンなど、通を唸らせるディテールワークを得意とする。
5.CCUのレザーシャツ
レザーファッションと聞いてまずイメージするのは、バイクやロックといった武骨なカルチャーに付随する、男くさい世界観だろう。そんなステレオタイプなイメージに挑み、レザーの新たな可能性を広げようとしているブランドが、2020年にスタートしたCCU(シーシーユー)だ。「コンフォータブルレザー」というコンセプトのもと、カウ、ピッグ、シープとさまざまな個性をもつレザーを巧みに使い分け、シーズンごとにモダンなコレクションを展開している。
そもそも皮革産業では、おもに食用肉の副産物が原材料として活用されるが、使われるレザーの種類が偏れば偏るほど、使われずに廃棄されてしまう分も増えていく。レザーの活用法を多角的に模索していくことは、極力無駄のない社会を目指していく上でも、意味深いことだと言えるだろう。より「コンフォータブル」な未来に向けて、いま一度、レザーに向き合いたい。
※この記事はPen 2022年5月号「いま欲しい93の服と小物」特集より再編集した記事です。