1.HARRY WINSTON(ハリー・ウィンストン)
プロジェクト Z15
上から時・分・秒の表示を独立させたレイアウトで、時計師が製作中に精度を調整するための伝統的な規準時計=レギュレーターのスタイルを採用。秒針をレトログラード式にすることで、円軌道では描けない大胆な運針を可能にした。軽量で耐蝕性に優れる特殊合金ザリウムを用いた「プロジェクト Z」シリーズの第15作。
2.JAQUET DROZ(ジャケ・ドロー)
グラン・セコンド スケルトン プラズマセラミック
12時位置の時分針よりはるかに長い大秒針(グラン・セコンド)が下部でダイナミックな円弧を描き、吉数である8や無限のシンボル(∞)を象徴する人気シリーズ。プラズマ加工でメタリックな光沢を得たセラミックをケースに用い、ダイヤルは洒脱なスケルトン仕上げ。
3.ROMAIN GAUTHIER(ローマン・ゴティエ)
インサイトマイクロローター
12時位置の時分表示とセンター小秒針を連結するふたつのダイヤルは、艶やかなグラン・フー(高温焼成)エナメル製。大胆なオープンワークを施した盤面から22Kゴールド製のマイクロローターがのぞくアヴァンギャルドなデザインは、比類なき圧倒的な個性だ。
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12時位置にオフセンターダイヤルを掲げる腕時計が脚光を浴び始めたのは、2005年頃のこと。円形ケースの中に、さらに半分ほどの直径のダイヤルを置くレイアウトは、斬新さで時計ファンの心を射抜いた。実は懐中時計の時代にルーツをもつデザインだが、時を超えてとびきりアヴァンギャルドに映ったのである。それから10数年を経て、この型破りなダイヤル配置は、いまや独自の地位を占め、コアな人気を得ている。
12時位置に長短針、6時方向に秒針をセットするのがスタンダードだが、上から時・分・秒と並べるレギュレータースタイルを採るモデルも存在する。いずれにせよ主流のセンター3針モデルとは、視線の流れが異なってくる。針の軌道をゼロ座標の中心に集中させずに縦配列することで、複数の図形によるプロポーションのダイナミズムをつくる。しかも上から下に情報を読み取っていくその身体性は、文字を縦書きする文化圏の人間にとっては自然でもある。
時分針をセンターから離す異形は、ムーブメントに余程の改良を施すか、ゼロからの製作となる。常識から逸脱した輪列配置のムーブメントゆえ、他に転用することが難しい。つまりは、汎用性を考えないワンオフの設計だ。既成概念にとらわれない独創的なデザインは、手元に自分だけの個性を添えてくれるはずだ。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。