Pen Onlineで連載中の「大人の名品図鑑」を一緒に担当しているスタイリスト井藤成一さんが昨年11月、故郷山口に自分のショップを開いた。
ファッションのプロであるスタイリストが地元に店を開くと聞けば、誰しも最新ファッションを紹介する店、あるいはいろいろな人気アイテムをセレクトした店を想像するだろう。しかし「RETROP(リトロップ)」と名付けられた井藤さんのショップは、それとはまったく異なる成り立ちとコンセプトを持つ魅力あふれる店だった。
10坪弱の「RETROP」の半分を占めるのは、1935年創業の吉田カバンのオリジナルブランド、ポーターのバッグ&アクセサリー。
「店名のRETROPは、ポーター(PORTER)を逆さまに読んだもので、造語です。ポーターは90年代、僕がファッションに目覚めるきっかけになったブランドです。逆さに読んだのは、見た目だけでなく、つくり手やデザイナーの言葉や背景を伝えられる店にしたいとこの名前にしました」
ショップの名前の由来を井藤さんはそう説明する。
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運命のブランド、PORTERとの出会い
実は井藤さんの父、盛雄さんは、山口市の駅通りに「Galle(ガレ)」(1F)というバッグショップ、B1に「café Galle」を30年前から営んでいる。「Galle」の店頭を飾るのがポーターの「タンカー」シリーズを中心としたバッグで、地元のファッション通にはよく知られた名店。盛雄さんは地元の若い人が運営するファッション店とも仲良く、相談相手になることも多いと盛雄さんは笑う。もともとシルバージュエリーのデザイナーでショップを営んでいた盛雄さんがバッグを売る店を開くきっかけとなったのは、山口の蚤の市で息子成一さんが見付けたバッグだ。それがポーターの「タンカー」だった。
そのバッグの素晴らしさに共感を覚えた盛雄さんと井藤さんはとある人の紹介で、東京で開催中の吉田カバンの展示会に参加できることになった。その頃からスタイリストの才能があったのだろうが、ポーターのバッグを持った井藤さんのスタイル、存在が当時のデザイナー吉田克幸氏の目に留まり、運よく吉田カバンとの取引がスタートする。
「吉田克幸さんは僕にとっては憧れの人、雲の上のような人。ビートルズのジョンやポールに会うようなものです。克幸さんは展示会の後、わざわざ山口まで来てくださって、ウチの店がシルバーのアクセサリーしか並んでいない店だったのに、『タンカーから始めたらいい』と仰ってくれたのです」
井藤さんにとっても、父、盛雄さんにとってもポーターは運命のブランドだと断言できる。だから「RETROP」を開く際にもポーターを核となるブランドとした。「Galle」は吉田氏の言う通り、「タンカー」シリーズを中心に構成されている。対して新店の「RETROP」では、同じポーターでも井藤セレクトによる多彩なラインナップを揃えることで差別化を計った。
店頭を飾る「FRANK」シリーズは、馬革を全面に使った大人っぽいポーター。前面に入ったロゴマークも型押し。最新の「EXPLORER」シリーズから選ばれたのは、オンオフ両用に使えるリュックサック。「背中に専用のパッド入りのスリーブ付きで、パソコンなどが入ります」と井藤さんが懇切丁寧に説明してくれる。
そんなポーターは、井藤さんにとって欠かすことのできないブランドだが、「RETROP」の大きな、そして素晴らしい特徴は、店のもう半分にゲストブランドを招くところにある。月単位で井藤さんが選んだブランドのアイテムを扱い、常に来てくださった人に新鮮さを感じてもらい、加えてポーターとの化学反応を楽しんでもらう。では井藤さんがゲストブランドとして選んだのは? それは井藤さんにとってどんなブランドなのだろうか。まだまだ長い話になりそうなので、それは次回にお伝えすることにする。
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RETROP
住所:山口県山口市吉敷中東4丁目8-2 維新ナインテラス1F
TEL:090-8003-9393
営業時間:10:30〜19:00
https://www.instagram.com/retrop_yamaguchi/