黒く焦げた柩と鉛の空体に込められた意味とは?日本を代表する彫刻家、遠藤利克の個展が開催中

  • 写真・文・はろるど
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SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)で開催中の『遠藤利克』から。床に『空洞説ー鏡像の柩』(2022年)が置かれ、壁に『空洞説ー鉛の柩』(2022年)が掲げられている。

古くはギリシャの哲学において、世界を構成する元素として考えられていた火や空気、または水。どれも人間が生きる上で欠かせない物質だが、それらに加えて木や鉄といった素材を利用し、静謐でありながら圧倒的な量感を持つ作品を生み出しているのが、日本を代表する彫刻家の遠藤利克(1950年〜)だ。その遠藤は現在、東京・谷中のSCAI THE BATHHOUSEにて約7年ぶりの個展を開催している。約200年の歴史を持つ銭湯を改装したギャラリーとして知られているが、どのような作品を展示しているのだろうか。

何よりも目を引くのが、床へ直に置かれた『空洞説ー鏡像の柩』と、それと対峙するように壁に掲げられた『空洞説ー鉛の柩』の2つの彫刻だ。木で作られつつ、燃やされて黒く炭化した直方体の『空洞説ー鏡像の柩』は、まさに柩のようなかたちをしている。ゴツゴツして焦げた表面は人間の皮膚のように生々しく、死を連想させるが、そもそも蓋と箱の部分が区別されているのかさえはっきりと分からず、中を見ることはできない。一方で壁の『空洞説ー鉛の柩』は鉛の板でできた中が空洞の物体、つまり空体だ。そして傷のような線がいくつか見られるものの、何かが入れられているわけでもなく、床の柩を静かに見下ろすようにして佇んでいる。

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右奥は『空洞説ー鉛の柩のためのプラン8』(2022年)。『空洞説』は遠藤が2005年からはじめたシリーズで、会場ではいずれも2022年に制作された9点の作品が展示されている。

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『空洞説ー鉛の柩のためのプラン7』(2022年)。割れた鏡に鉛が付いているが、その中央に壁の『空洞説ー鉛の柩』が写り込んでいる。

改めて床の『空洞説ー鏡像の柩』に向き合うと不思議なことに気がつく。というのも、素材に木、鏡、(火)と記されているが、黒い柩のどこにも鏡が見当たらないのだ。仮に鏡が細かく砕かれ、表面などに散っているのかと思って目を凝らしても、やはり炭化した木肌のみしか確認できない。実際に柩のある部分に鏡は用いられているというが、鏡が具体的にどのように使われ、どういった構造になっているのかは、すべて見る者の想像力に委ねられている。

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『空洞説ー鏡像の柩のためのプラン9』(2022年)。柩の上部が空いていて、中には溶けたような鏡が散っていることが分かる。『空洞説ー鏡像の柩』の内部もこのようになっているのだろうか。

「もの派」が活動をしていた時期に作家としてキャリアを築きながらも、その思想に批判的な意識を向けてきた遠藤は、自らが作品によって到達しようとする「聖性」や「考古学的思考」というキーワードをもとに円環や円筒、それに舟のかたちをした彫刻を作り続けてきた。そして柩や鏡も繰り返し登場する重要なモチーフであり、空の柩の空洞とは何もないのではなく、「共同体の中心に開いた外部に他ならない。」としている。鏡の存在が明らかでないように、その意味を理解するのは容易ではないが、「柩」を前にして人間の生と死のあり方などについて思いを巡らせたい。

『遠藤利克』
開催期間:2022年3月8日(火)〜5月14日(土)
開催場所:SCAI THE BATHHOUSE
東京都台東区谷中6-1-23 柏湯跡
TEL:03-3821-1144
開館時間:12時~18時
休館日:日、月、祝日 
入場無料
※臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる可能性があります。事前にお確かめください。
https://www.scaithebathhouse.com