各地で異なる豊かな文化をもつ日本。文化をその身に宿すのが個性豊かなお酒。「GI」はそんな多様なお酒を体系化し、安心して飲める基準を発信する仕組みだ。
「家飲み」の機会が増えたいま、いざお酒を買おう、飲んで楽しもうとなった際に、どうやってそのお酒を選んでいるだろうか。お店の人に相談する、ネットの口コミを参照する、お酒に詳しい人に訊く――そんなケースもあるだろう。ただ、いざ実際に商品を手にとってみても、よほど詳しい人でもない限り、ラベルなどの説明だけで酒の価値を判断するのは難しい。そんな時、頼りになる「目印」が地理的表示(GI)である。
地理的表示は、「正しい産地」であること、そして「一定の基準」を満たして生産されていることを行政が示すもの。いわば「国のお墨付き」となる。その指定を受けたお酒は、遵守すべき生産基準が公開され、特に清酒とワインについては出荷前の官能検査も義務付けられている。地理的表示を明示した商品は、生産地が一目瞭然なだけでなく、事前に確たる特徴と高い品質を備えるので安心して購入できるわけだ。
これまで全国で14の指定(2021年1月現在、国レベルの指定「日本酒」を含む)が行われている地理的表示。「北海道」から「琉球」まで、いずれも個性的かつ魅力的な産地が揃っている。
「とっておきの一杯は顔も見えて安心な地理的表示のお酒で」。そんな選び方が新たな選択肢となっていくだろう。
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お酒の地理的表示(GI)
四季が豊かで多彩な風土をもつ日本では、さまざまな酒類が生産されてきた。九州地方では蒸留酒製造が盛んであったり、近畿地方では清酒製造が盛んであったりと、各産地に特色が存在する。そこには、自然環境に加え、文化や歴史といった人々の活動により、時間をかけて集約化されてきた「必然性」(因果関係)があるからだ。こうした必然性や、各地のお酒が有する特徴について明文化し、地域で生み出されたお酒を定義することが、地理的表示制度(GI)の根幹である。
地理的表示(GI)の仕組み
地理的表示(GI)は、WTO(世界貿易機関)協定の付属書であるTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)において、知的所有権のひとつであると定義されている。特にワインと蒸留酒については、消費者が誤認しないための厳格な規定と保護を行うことが明記されている。地理的表示は世界で導入されており、信頼の証しとなっているのだ。
日本において、こうした酒類の信頼性を担保するのは国税庁。産地からの申請内容に基づき地理的表示の指定の可否を判断する他、地理的表示の適正な運用、不正使用に関しても目を光らせている。
特に、酒類のように製造工程が複雑な飲料は、同じ産地でも品質が大きく異なる場合がある。そこで、「本物のお酒」を深く理解した日本各地のプロフェッショナルで構成された管理機関が、地理的表示のある酒類を守るために活動。こうした取り組みにより、消費者は産地名のラベル表示を見るだけで、「本物のお酒」を容易に見分けられるようになるのである。
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<ワイン>北海道
ブドウ栽培の気候区分ではワインの銘醸地として有名なシャンパーニュ、アルザスに近い気候。ピノ・ノワールなどヨーロッパ系の品種を育てるのに適している。糖度が高いブドウから、有機酸を豊富に含むワインを生み出している。
<日本酒>山形
優良な仕込み水で、「透明感のある」酒質が生まれる山形。寒く厳しい冬が「雑菌の繁殖抑制」や「低温長期発酵」に向き、1カ月にもおよぶ15℃以下での低温発酵、いわゆる「吟醸造り」にも最適。酒質も全般的にやわらかく、透明感がある。
<日本酒>利根沼田
夏は日照時間が長く、冬は寒さが厳しい。標高400~600mの棚田から生まれる高品質な米と武尊山(ほたかやま)などの山々が生み出す豊富な軟水を使った日本酒がつくられている。酒蔵同士の交流も密で、酒質の維持につながっている。
<ワイン>山梨
ブドウの名産地として知られ、日本におけるワイン醸造発祥の地でもある。明治から代々続く家族経営の醸造所から大手メーカーまで、約90社のワイナリーが集まり、日本ワイン生産量1位を誇る。2013年7月にGI指定を受けた。
<日本酒>白山
1300年以上前から長きにわたり信仰対象となっている霊峰・白山を水源とする手取川扇状地に位置する石川県白山市。カルシウムが多くカリウムの少ない伏流水を使うことで、白山特有の酒質が生み出される。お酒づくりに熱心な土地。
<日本酒>三重
夏の温暖な気候と、北東から山地を越えて吹きつける「鈴鹿おろし」や「布引(ぬのびき)おろし」と呼ばれる寒冷な季節風による冬の冷涼な気候。この適度な寒暖差と、紀伊山地の豊かで優良な水資源により、芳醇な酒質が形成される。
<梅酒>和歌山
果樹栽培が盛んで、なかでも全国で約65%のシェアを誇る梅を名産とする。和歌山県は8割ほどが山で、平地が少ない。斜面でも育つ梅が注目され、栽培が広がった。最高級品種「南高梅」などから、芳醇なリキュールが生まれている。
<日本酒>灘五郷
兵庫県の今津郷・西宮郷・魚崎郷・御影郷・西郷の5地域の総称が灘五郷。26の蔵元が灘五郷酒造組合に所属し、全国で流通する約25%の日本酒が「灘五郷」の銘柄となっている。お酒づくりは室町時代に始まり、江戸時代に大きな発展を遂げた。
<日本酒>はりま
日本酒の原料・酒米「山田錦」の最大産地。姫路市、明石市、相生市、加古川市、赤穂市、西脇市、三木市、高砂市、小野市、加西市、宍粟市、加東市、たつの市、多可町、稲美町、播磨町、市川町、福崎町、神河町、太子町、上郡町、佐用町の22市町。
<麦焼酎>壱岐
玄界灘に浮かぶ長崎県の離島。麦を原料とした焼酎は壱岐のものが最古で、麦焼酎発祥の地。米こうじと大麦を1対2で使用する伝統製法が、その特性を支えている。400年以上続く歴史を受け継ぐ7つの蔵で焼酎づくりが行われている。
<米焼酎>球磨
熊本県南部の球磨人吉地域でつくられる米焼酎。九州の中でも冬期の平均気温が低く寒暖差も大きいなど、焼酎製造に適しているのが球磨盆地。球磨川水系の軟水を用いることで、米由来のまろやかな甘さと清涼感ある香味を有している。
<芋焼酎>薩摩
シラス台地が広く分布する鹿児島県は、水はけがよく地下水位の低い地域が多く、さつまいもの栽培に適している。安定的に供給される鹿児島県産サツマイモを原料とする芋焼酎は、華やかで芳醇な香りと調和する甘く濃厚な味わいが特徴。
<泡盛>琉球
15世紀に蒸留酒の技術から生まれたのが、泡盛の起源とされる。製法の特徴は、全こうじ仕込み。原料の米すべてを米こうじにして一度に仕込み、発酵させる。原料の米には、アルコール収得量が多いインディカ米をおもに使用する。
問い合わせ先/国税庁酒税課 TEL:03-3581-4161
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/chiriteki.htm