超おさらい! 北欧デザインを語る上で外せない名作椅子

  • イラスト:小林達也(Miltata)
  • 文:高橋美礼
  • 協力:西川栄明
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現代でもその機能性が評価され、多くのルーツが残る北欧家具。それは過去の職人と設計者による連携から生まれたものである。今回は、北欧デザインが頭角を現すころからの歴史についてひも解いてみよう。

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北欧5カ国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランド)は民族的・地理的に共通点が多く、経済的・文化的な結びつきも深い。工業化には後れをとっていたが、建築や家具においては独自の手工芸的な要素を保ち続け、1920年代以降、博覧会を通じて注目されていく。

たとえば25年、後に「アールデコ博」として知られるようになるパリ万博で、アルネ・ヤコブセンが椅子を出展し銀賞を獲得。30年のストックホルム万博では、エリック・グンナール・アスプルンドが主任建築家として金属とガラスでパビリオンを設計。北欧デザインの機能的な側面を広く知らしめた。また27年から40年間にわたってコペンハーゲンで開催された「キャビネットメーカーズギルド展」は、デザイナーと職人やメーカーが連携を深める契機ともなった。

同時代、コーア・クリントは人間工学の先駆けとなる研究をし、古典家具から学ぶ考え方を確立。オーレ・ヴァンシャーやボーエ・モーエンセンら多くの後進を育て、デンマークからモダンデザインの名作椅子が生まれる基礎を築いた。木製の椅子づくりでは、どのデザイナーにもコンビを組む職人がいること、あるいはハンス・J・ウェグナーのようにデザイナー自身が家具職人であったことが、優れた技術開発にもつながった。

またフィンランドでは、建築を学んだアルヴァ・アアルトが成型合板を取り入れ、さらに販売システムとしてアルテック社を設立した功績は偉大だ。美しく機能的で量産性を兼ね備えた椅子を世界へ送り出し、北欧デザインの代名詞的存在にもなっている。

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KK96620(フォーボーチェア)/1915

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デンマークのフュン島に新設された美術館のためにデザインされた、通称「フォーボーチェア」。建築学の師と仰いだカール・ピーターセンとともにこの美術館の設計に携わったクリントは、18世紀イギリス様式家具の要素を取り入れながら、現代に通用する機能性やシンプルさを追求。マホガニー材などを使い、座面は革張り、背もたれは籐編みという加工仕上げで、軽量なことも特徴。職人と連携しながら細部に至るまで技術が尽くされている。

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コーア・クリント/1888-1954

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スツール60/1933

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フィンランド産のバーチ材を使った非常にシンプルな構造。4本脚のスツールE60もある。特徴的なのは、このスツールのために開発されたL字型の曲木脚「L-レッグ」だ。垂直に伸びる部分は無垢材のまま、座面に近いところでカーブを描いて接合してある。トーネットの曲木椅子のように蒸気で加工するのではなく、木目に沿って等間隔のスリットを入れ、その隙間に薄板を挟み込んで曲げていく「挽き曲げ技法」で強度を高めた。

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アルヴァ・アアルト/1898-1976

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イージー・チェアNo.45/1945

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「世界で最も美しいアームをもつ椅子」と評される「イージー・チェア」。アームや脚にローズウッドなどの高級材を使用した佇まいは優雅かつ軽やか。前後の脚をつなぐ貫と張りぐるみのシートの間に隙間を設けることでシートに浮遊感をもたせている。アームと前後の脚部はシームレスにつながっており、高度な職人技術が求められる。現在はNC加工機で量産されるが、製造年代やメーカーによって細部の形状が異なるものもある。

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フィン・ユール/1912-1989

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PP503(ザ・チェア)/1950

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1960年のアメリカ大統領選でジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンが座ってテレビ討論したことでも有名になった、通称「ザ・チェア」。肘へかけて捻れたラインが優美な背の部分は、曲木ではなく削り出した材を接合してある。初期モデルの座面と背は籐張りで、49年にヨハネス・ハンセン社が製作、翌年にPP503の原型となった革張りタイプが誕生。90年代以降、製造ライセンスを引き継いだ家具工房PPモブラーが担っている。

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ハンス・J・ウェグナー/1914-2007

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PK22/1956

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スチールの脚にシート状のスチール板を乗せた構造体に、籐または布や革を張り込んである。木製椅子が主流だった50年代のデンマークで、ケアホルムはメタルやスチールに着目し、ミース・ファン・デル・ローエの「バルセロナチェア」を意識してリデザインした。余分なものを削ぎ落とし、必要最小限な要素で生み出されたかたちだが、金属と自然素材とを組み合わせたところに、北欧のハンドクラフトの伝統がうかがえる。

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ポール・ケアホルム/1929-1980

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アントチェア/1952

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背と座面の一体型成型合板を世界で初めて用いた椅子。試作過程でヒビや歪みが生じた部分を左右から取り除いていくうちに、くびれのある背もたれになったといわれる。その印象から親しみを込めて「アント(蟻)チェア」と呼ばれるようにもなった。ヤコブセンが建築設計を手がけた、コペンハーゲンにあるノヴォ製薬会社の社員食堂用にデザインされた椅子だ。のちに4本脚タイプも限定的に製造され、現在はどちらも販売されている。

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アルネ・ヤコブセン/1902-1971

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※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」特集より再編集した記事です。