レコーディングでしばしば長い時間を過ごすというスタジオに現れた、Awesome City ClubのPORIN。髪の色はトレードマークだったブルーからブロンドへ変わり、新しい年を迎え、ニュー・アルバム『Get Set』の発表を前に気持ちを新たにしていることを印象づける。
「新作にはめちゃくちゃプレッシャーを感じています。去年よりいい年にしたいし、“『勿忘』の人”ではなく、Awesome City Clubとして認識されなければと思っているので」
PORINとatagi、モリシーの3人から成るバンドにとって、その「去年」は飛躍の1年だった。デビューから6年を経てシングル『勿忘』が大ヒット。年末は第72回NHK紅白歌合戦への初出場で華々しく締め括った。
「ここ数年間は、バンドをどう存続させていくのかという問題もあったし、コロナ禍でライブもできなくなった。とにかく苦しかった時期で、『勿忘』には本当に救われました。恋愛の歌だけど、“春の風を待つあの花のように”と、自分たちについて歌っていたようでもあるんです。私たちもずっと待っていた春の風と巡り合えたので(笑)。アーティストとしてやっと認められた気がして、自信がつきましたね」
そう語るPORINが創作や表現することに関心を抱いたのは、造園業を営む父、音楽やファッションを愛する母をもつ、彼女の家庭環境と無関係ではなさそうだ。
「実家に和風の庭があって、季節によって移り変わる風景を間近で見てきたので、“変化するもの”が好きだったのかな。自由になんでもさせてもらえる環境で、文化に触れる機会も多くて、気づいたら音楽をやっていました」
音楽への入り口は、母が聴いていた日本のフォーク。その後2000年代のバンド・ブームを受けてギター教室に通い、大学時代は被服学科で学ぶかたわら路上で歌って経験を積んだ。「路上演奏が盛んな時代で、そこに希望がある気がしたんです。おかげでメンタルが強くなりました(笑)」。そして14年にAwesome City Clubに参加。atagiとともにシンガーを務めるほか、一部作詞も手がけ、その存在感はバンドにゆるぎないアイデンティティを与えている。
---fadeinPager---
“ファッション”という、自分を表現できる場所
しかし目下の彼女が「いちばん純度が高い形」で自分を表現している舞台は、別の場所にある。4年前にスタートしたファッション・ブランドのyardenだ。ブランド名は「庭」を指すふたつの英単語にちなみ、シーズンごとに特定の植物をモチーフにしてコレクションを展開しているという。
「“Awesome City ClubのPORIN”にはバンドのフィルターがかかる。でもyardenは、幼少期から庭で見てきた、刹那的な美しさのようなものをもっと掘り下げたくて始めたので、原点回帰にもなる場所なんです。いまは私自身が好きで着ている服の延長というテーマでやっていますが、ファッションは変わっていい。テーマにとらわれずに柔軟でいたいし、音楽でもファッションでも、変化を恐れないという姿勢は共通していると思います」
また、元来密接な関係にあったファッションと音楽が、最近は分断されていると指摘する彼女は、「私がファッション・アイコンになれたらいい」と意欲を見せる。
「音楽を聴けば必ず、ファッションともつながるはず。なのにそういう文化がすたれて、ファッションが好きなミュージシャンが少なくなった気がするんです。だから人前に出る時はいつも、ファッションで“攻める”ことを意識します。もちろんやり過ぎても自己満足になるだけなので、バランスが大切。すべてのことは、センスでしかないなと痛感させられます」
そのセンスを磨き、クリエイティブであるために心掛けていることとして、PORINは「人と会うこと」を筆頭に挙げた。
「いろんな人の思想に触れることで、新しい発想が生まれることが多々あります。特に、異なるジャンルのクリエイターから影響を受けているかもしれません。現場感も大事にしています。みんななにを着ているのか? なにを聴いているのか? いつもそういうことに敏感でいたいですね」
---fadeinPager---
WORKS
4thアルバム『Get Set』
前作『Grower』から13カ月、早くも完成した4枚目のフル・アルバム。PORINによると「1曲1曲の強度を上げること」をテーマに掲げて制作され、多様なジャンルを網羅する一作。全10曲収録予定、3月9日発売。
アパレルブランド「yarden」
自らメンズの服も愛用するPORINが、ユニセックスなサイズ感を意識してデザインするブランド。2022年春夏コレクションではエアープランツをモチーフに、「着方によっていろんな表情が見える」服作りを試みた。
全国ツアー「Awesome Talks One Man Show 2022」
4月2日の愛知Zepp Nagoya公演を皮切りに全国6都市をまわる、約2年ぶりの全国ツアー。現在の3人体制では初となる。4/3大阪、4/10東京、4/15北海道、4/17宮城、5/1福岡の計6公演を予定している。
※この記事はPen 2022年4月号より再編集した記事です。