「アンダーカバー」高橋盾のお気に入りは、自らの経験と“いまの目線”を投影した大人のための椅子

  • 写真:竹之内祐幸
  • 編集&文:山田泰巨
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椅子を愛する、「アンダーカバー」デザイナーの高橋 盾(じゅん)さん。偏愛する一脚について、その想いを語ってもらった。

アナーキーチェア/高橋 盾

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アトリエには、ミッドセンチュリー期のアメリカで活躍したウラジミール・ケーガンのラウンジチェアを置く。ここでもボア素材が見られる。ともに置かれるのが「アナーキーチェア」。木部はナラ材。左からウールボア¥242,000、レザー¥198,000/ともにアンダーカバー TEL:03-3407-1232

既成概念にとらわれぬ独自の世界観で知られるファッションブランド、アンダーカバー。そのデザイナーである高橋盾さんは、日本でのブームに先駆けていち早くチャールズ&レイ・イームズやジャン・プルーヴェに注目した人物だ。

家具にも造詣の深い高橋さんが、自らデザインした椅子を発売する。一点もののリメイク椅子を手がけたことはあるが、製品化を念頭にデザインをするのは初めてのこと。アナキズムの象徴であるサークルAを背負った木製椅子のフォルムはしかし、非常にオーソドックスである。

「これまでの経験と、いまの僕の目線を通して生まれた椅子です。アンダーカバーのスピリットを感じるとともに、シンプルなデザインで他の家具に合わせやすいものを目指しました」

もともとこの椅子は、インテリアデザイナーの佐々木一也とともに、2019年からデザインと開発を進めていた。試作を重ねるうちに販売を視野に入れようと、成形合板の技術に定評のある天童木工に製作を依頼する。

「日本を代表するメーカーとつくりたかったんです。座り心地にこだわり、天童木工からの提案を受けて座面のくぼみに至るまで検証を重ねました。近頃は和の要素への関心も強くなり、年齢を重ねたことで成熟した視点をもてるようになったとも感じます。それが椅子のデザインにも表れているのかもしれません」

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ジョージ・ナカシマのテーブルと合わせるのは佐々木と進めた試作品。

一方で独特な印象を与えるのが、ウールボアの座面だ。当初はレザー張りで進めていたが、高橋さんが以前から好んでいた素材ということで採用を決めた。シャビーな素材は腰をかけるとやわらかく、心地よい。シンプルな造形ながら、脚元の金属製キャップとともに個性を与える存在だ。高橋さんはいま、ラウンジチェアも開発したいと画を描き始めた。これまでの知見と成熟した世界観を得た椅子にも、期待が高まる。

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高橋さんのインスタレーションなどに登場するぬいぐるみのクリーチャー「グレイス」もボア素材を使う。

高橋 盾

1969年、群馬県生まれ。90年、文化服装学院在学中に「アンダーカバー」をスタート。94年に東京コレクションデビュー。2002年にはパリコレクションに初参加。01年および13年に2度にわたり毎日ファッション大賞受賞。

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※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」より再編集した記事です。