過激でシニカル、突き刺さるメッセージ
都市や資本主義経済、原爆や原発、個と公共性など、多岐にわたるテーマで時代のリアリティに斬り込み続けるChim↑Pom(チンポム)。代表作を網羅した初の本格的な回顧展の開催にあたり、本展を担当するキュレーターに彼らの魅力を聞いた。
結成は2005年、活動17周年を迎えるChim↑Pom。森美術館の近藤健一は、活動初期から一貫して彼らの活動に注目してきた。
「『サンキューセレブプロジェクト アイムボカン』を目にした時の鮮烈な印象を忘れません。カンボジアの地雷原に向かい、メンバーのエリイの私物などを地雷で爆破。東京に持ち帰ってオークションを開催し、収益をカンボジアに寄付するというものでした」
Chim↑Pomの魅力は「現代社会への批評を忘れぬ独創的な発想と、それを行動に移し続けているところにある」と近藤。「卓越したユーモアや皮肉、言葉遊びといったジョークも含まれ、日本のアートシーンでは他に類を見ない存在です」
本展では、果敢に現代社会に介入し続ける彼らの代表作と新作を、10のセクションで紹介。会場の動線ひとつをとっても、通常の展示風景とは一線を画すダイナミックな構成だ。
都市の暗部や物事の二重性にも目を向ける彼らは今回、展示室内にアスファルトの巨大な「道」をつくるなど、これまで以上にスケールの大きな作品にも挑んだ。「道を育てる」とのモットーでパフォーマンスも行われ、公と個に関する問いを投げかける。
ところで、彼らの活動がより活発化したのは11年に起きた東日本大震災後のこと。「コロナ禍で顕在化した汚染、境界、差別や偏見等の社会課題を予見するかのような提起がされてきたことも考察に値する」と近藤。
15年には東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されないと観ることのできない国際展を発案し、Chim↑Pomも参加中だ。19年の英国、マンチェスター国際芸術祭では、コレラの犠牲者が埋葬された地下廃墟でコレラとビールの関係をテーマにプロジェクトを発表。緊急事態宣言下の東京でもいち早く作品を制作、2020年の奇妙な東京の空気を焼き付ける作品を制作していた。
「賛否両論を巻き起こしてきた活動もありますが、根の部分にあるのは常識に一切とらわれない姿勢。社会に目を向け、アートに真摯に向き合いつつも冗談や皮肉を交えたトーンで提示されるが故、我々に突き刺さる。油断している隙に意表を突いてくる強烈さに満ちている。説教臭さとは無縁、シリアスさと軽さが絶妙に共存する活動であり、その全貌に触れてほしい」
新作のひとつは、会場内に設けられる託児所『くらいんぐみゅーじあむ』だ(運営資金の調達を目指したクラウドファンディングを3月31日まで継続中)。昨年出産したエリイの発案で、背景には世間の子育て環境に対する問題意識がある。
近藤によると、本展準備のなかでChim↑Pomのメンバーがしばしば口にしていたことばがあるという。それは、「コロナ禍でも萎縮してはならない!」。いかなる逆境にあってもポジティブに、批評性とユーモアを忘れることなく創造的な精神を発揮する。どこまでも過激で、どこまでも逞しい。そんな彼らの姿勢は、今回の展覧会タイトルにも込められた。
『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』
開催期間:2022年2/18~ 5/29
会場:森美術館ほか
TEL:050-5541-8600
開館時間:10時~22時 ※火のみ17時まで、ただし5/3は22時まで。入館は閉館30分前まで
休館日:無休
料金:一般¥1,800 ※土・日・祝日は異なる
※開催の詳細はサイトで確認を
www.mori.art.museum
※この記事はPen 2022年4月号より再編集した記事です。