椅子を愛する、建築家・デザイナーの寺田尚樹さん。偏愛する一脚について、その想いを語ってもらった。
リビングタワー/ヴァーナー・パントン
名作家具の美術館を思わせる住まいは、建築家でデザイナー、さらに家具販売やオフィス空間の設計で知られるインターオフィスで代表取締役を務める寺田尚樹さんの自邸。1950〜60年代を代表する名作家具が楽しげに調和しているが、それらの家具に「明るい未来を信じていた時代の力を見る」と寺田さんは言う。
この家を設計する上で起点としたのが、ヴァーナー・パントンの巨大な家具「リビングタワー」だ。「いつか手に入れたい。けれどこれを置くには、空間から考える必要がありました」と寺田さん。また、この家具はこの家におけるデザインコードの起点ともなった。空間を彩る家具は同じ時代のデザインであるとともに、同じテキスタイルを纏うという共通項をもつ。
すべての椅子はデンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラの同一製品を使っている。「リビングタワー」で使用するテキスタイルは既製の品番から選んだが、それと同じものを他社の家具にも採用。同じ赤のテキスタイルにしてオレンジや黄色を組み合わせた。USMハラーのシェルフもそれに合わせて色を選び、「リビングタワー」の背景となる黄色の壁もテクスチャーを含めて調色したという。テキスタイルと金属では塗料の発色が異なるが、綿密にそれを揃えた。壁や天井にはベージュがかった白を使い、家具の色を引き立たせている。
「僕はコレクターではありません。この空間はいまの時代に、名作をどう解釈できるかを改めて考えたものです。そこで重要になるのはライフスタイル。家は、癒しを求めるだけの場でなく、活力を得る場であることにも目を向けたいと考えたのです」
この家は、巧みなルールでまとめた色が、不思議と身体に馴染む。建築、家具、そして色を知る寺田さんだから生み出せる空間だ。
寺田尚樹
建築家・デザイナー。1967年、大阪府生まれ。明治大学工学部建築学科を経て、英国のAAスクールを修了。2003年、テラダデザイン(21年に寺田平手設計に改組)、11年にテラダモケイを設立。18年よりインターオフィス代表取締役。