『ナイトメア・アリー』のあらすじと見どころ。ギレルモ・デル・トロが豪華キャストで描くサスペンス・スリラー

  • 文:上村真徹
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© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ダーク・ファンタジーの鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、1946年の名作ノワール小説を豪華キャストで映画化した『ナイトメア・アリー』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】ショービジネスの世界で成功を追う男に、思わぬ闇が待ち受ける

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見世物小屋に潜り込んだスタン(右)は、全身に電気を流すショーで人気を集めるモリー(左)に心を奪われる。© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『シェイプ・オブ・ウォーター』で作品賞・監督賞などアカデミー賞4冠に輝き、ハリウッドでの地位を不動のものとしたギレルモ・デル・トロ監督。ダーク・ファンタジーの名手として定評のある彼が名作ノワール小説を映画化し、第94回アカデミー賞で作品賞ほか全4部門にノミネートされたサスペンス・スリラー『ナイトメア・アリー』が、3月25日から劇場公開される。

1939年のアメリカ。獣人や芸人たちによる妖しげなショーを売りとする見世物小屋に、流れ者のスタン(ブラッドリー・クーパー)が潜り込む。興行を仕切るマネージャーのクレム(ウィレム・デフォー)に雇われた彼は、読心術師ニーナ(トニ・コレット)とピート(デヴィッド・ストラザーン)のショーを手伝うことに。ピートから読心術を学んだスタンは、感電ショーの人気者モリー(ルーニー・マーラ)と惹かれ合い、一座を抜けて都会へ旅立つ。

それから2年。スタンは読心術と持ち前のカリスマ性を武器に上流階級の人々を魅了し、ショービジネスの世界で名声を得ていく。しかし、美しき心理学博士リリス(ケイト・ブランシェット)と出会い、ある計画への誘いを受けたことから、スタンの運命の歯車が狂っていく。

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【キャスト&スタッフ】ダーク・ファンタジーの鬼才が新境地のサスペンス・スリラーに挑む

本作の原作は、1946年にウィリアム・リンゼイ・グレシャムが発表したノワール小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』で、翌1947年に『悪魔の往く町』のタイトルで映画化されている。小説で描かれるカーニバルの妖しさと人間味の共存した世界に惹かれたギレルモ・デル・トロ監督は、自らの上昇志向で身を滅ぼす男の物語に「アメリカ資本主義の暗黒面に警鐘を鳴らすもの」というメッセージ性を見抜き、現代社会に通じる倫理的な寓話として自ら脚本を執筆し映画化に踏み切った。

そして、デル・トロ監督が新たに織りなすフィルム・ノワールの世界に魅了された豪華キャストが集結。ショービジネス界での成功を目指す野心的な青年スタンに、俳優として4度のアカデミー賞ノミネートを誇るブラッドリー・クーパー。彼を転落へと誘う謎めいた女医リリスに、アカデミー賞を2度受賞したケイト・ブランシェット。逆にスタンを善き道へ導こうとする可憐な女性モリーに、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ。他にも、トニ・コレットやウィレム・デフォーらアカデミー賞常連俳優に、ロン・パールマンらデル・トロ組の個性派俳優ら、そうそうたる面々が揃っている。

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【見どころ】魅惑の映像で描き出す、ショービジネス界の光と闇

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スタンはショーで出会った心理学博士リリス(左)から儲け話を持ちかけられる。© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『パンズ・ラビリンス』や『シェイプ・オブ・ウォーター』などダーク・ファンタジーの名作の数々で知られるデル・トロ監督が、リアリズムをベースにしたサスペンス・スリラーを手がけるのは一見すると意外。しかし、これまで彼が作ったダーク・ファンタジーでは、異世界や異形の生き物という禍々しいものを描きながら、人間が心の奥に抱える闇が掘り下げられてきた。そう考えると、ジャンルこそ異質ではあるものの、人間の深すぎる業がもたらす破滅の物語をテーマに選んだのは必然と言えよう。生々しいリアリズムに基づくフィルム・ノワールの世界でデル・トロ監督が紡ぐ、主人公スタンたちの底知れぬ野望の異様さと末路は鳥肌が立つほど圧巻だ。

その一方、物語の前半部で描かれる妖しいカーニバルの世界は、これまでのデル・トロ監督作らしい神秘的なイメージが濃厚に感じられる。幻想的なショー、不気味な獣人、郷愁を誘う観覧車、ロマンティックなメリーゴーランドなどが混在し、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのよう。こうしたアングラ空間がいかがわしくも人間味豊かに映し出されることによって、後半でスタンが飛び込むゴージャスなセレブの世界との対比が際立ち、華やかな世界の冷たい虚飾とその裏に潜む危険な闇を予感させる。

ダーク・ファンタジーという特定のジャンルにこだわらず、身近な現実の世界を舞台に巧みなストーリーテリングを発揮。映画作家としてさらなる進化を遂げたデル・トロ監督の意欲的な新境地に酔いしれたい。

『ナイトメア・アリー』

監督/ギレルモ・デル・トロ
出演/ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェットほか 2021年 アメリカ映画
2時間30分 3月25日(金)全国ロードショー

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