東京古靴日和#1
1960年代のヴィンテージシューズ「フローシャイム」をカラーチェンジする

  • 写真・文:勝川永一 
  • 編集:穂上 愛
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はじめまして。シューズデザイナーの勝川永一です。
この度、靴にまつわるお話やモノづくりをテーマにしたコラム「東京古靴日和」をスタートいたします。

私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開してきました。
プロフィールやコレクションからもおわかりいただけると思いますが、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。

「伝統をどう今に伝えるか」
「ローテクだけど未来志向」
「ファッションとプロダクト」

などコンセプトがあるなかでモノづくりをしているわけですが、そのアイデアのなかには製品の歴史や古いものを自ら体験している事も非常に重要です。

その歴史や伝統をどうアップデートさせるかが主題です。
そしてそれらは小学生の頃からの古着屋めぐりと、そこで手に取ったおもにアメリカやヨーロッパの衣類製品から感じ取って知った知識が、アーカイブとなり心に残っています。

今までは、それらをアップデートさせたモノをコレクションとして発表する事が私のライフワークで、その知識の背景や体験を語ることは、どちらかというと控えてきました。
しかし時代も変わり、靴に関して情報化しやすい表層的な部分は十分に情報化されていますが、目に見えない細部の積み重ねや、そのプロダクトに至る経緯を伝える事に意味のあるタイミングかと思いました。

自分が愛するシューズの本質をこちらの記事を通して語ることで、ファッション衣料としてのシューズとその未来に興味を持って頂ける機会になればと思っています。

前置きが長くなりましたが、さっそく今回の「東京古靴日和」の内容に入っていきたいと思います。

こちらは、【FLORSHEIM】の【Kenmoor】です。
もちろんUSA製です。
製造年推定1960年代で素材はコードバンです。

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見分け方はいろいろあるようですが、それらを参考にしつつ、確信的なのは、ウィングチップ部のステッチがダブルであることです。

ヴィンテージシューズのクオリティの見方としてはいくつもポイントがあると思いますが、わかりやすいのは、ステッチの精度です。個人的には60年代がベストだと思います。
ステッチも70年後半から80年代になると大量生産の時代になり、ステッチ幅も広くなり、ダブルステッチなど手がかかるものはなくなっていきます。

精度といえば、アッパーに使われているコードバンも、同様の事が言えます。
そもそもコードバンは、馬のお尻部の皮で、染め上げ、表面を吟スリした細かな起毛素材をグレージングという工程で起毛部を寝かせ光沢が出ているレザーです。
しかしその工程は非常に手間がかかります。よって80年代にもなると、顔料が吹き付けられて、光沢を出したクオリティのものも増えていきます。

今回、ご紹介する【FLORSHEIM】の【Kenmoor】は、納得のいくクオリティです。
こちらは8〜9年前、下北沢にかつてあった古着屋「サンフランシスコ」で約6000円で購入しました。
正直、すこし驚きましたが、アメリカンヴィンテージシューズが大きく注目を集める直前だったのでこの価格だったのかもしれません。
あと、右足親指部のウェルティングの糸が中で約2cm切れていて多少見てわかる状態だったのもその価格の要因としてあるかもしれません。

私は見つけて即買いしました。。
普通すこし壊れたシューズというのは、なかなか購入には至らないと思いますが、現在も運営している「The Shoe of Life」という名のシューリペアショップがあり、わりと簡単に修復が可能と判断する事が出来ました。

また、もともとはバーガンディ色だったのですがこの年代のコードバンは顔料で吹き付けられていないため、靴クリームが浸透します。それは、バーガンディを靴クリームで黒くカラーチェンジが出来るという事であります。
その判断から、即買い出来たわけです。

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さすがにやれていますね。いい状態ではありません。
ここは6000円ですから、相応の状態です。この時点で購入を決断するのはふつうは難しいかもしれません。

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【FLORSHEIM】IMPERIALの証の小窓です。

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こちらが、ウェルティングの糸が内部で切れてしまったために起こっている状態でです。

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バーガンディのコードバンですが、古びているため、色もまだらな感じが否めません。

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60年代の染料ベースのコードバンのため、靴クリームがしっかり浸透するのです。

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化繊毛の固いブラシで、余分なクリームをふき取ります。
すると光沢が出るのです。

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色変え完成です。
バーガンディもコードバンらしくて良いのですが、今の気分としては、黒色の方がコーディネートに合いやすいのです。

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コットンのフレンチワークパンツに合わせてみました。
ベタですが、赤いソックスをアクセントにしてみました。
初春は足元が重厚なレザーシューズだと、スタイリングも引き締まりますね。
自分で色変えしたフローシャイムなら、なおさらです。

一つのシューズに、歴史、製甲の品質、レザーの品質、構造の品質と、たくさんの知るべき情報が詰まっています。
そして最後はやはり、どう履くかが一番大事で、もっとも楽しみにするところです。

また次回も靴にまつわる何かを語りたいと思います。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

勝川永一

シューズデザイナー / レザーアーティスト

靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。