グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
第一回は中目黒にあるYOSHIROTTENのスタジオ「YAR」から。
──YOSHIROTTENさんとNORIさん、お二人の出会いはいつ頃ですか?
YOSHIROTTEN はじめて会ったのはいつだっけ?
NORI 18歳ぐらいかな。
YOSHIROTTEN 当時、僕は音楽イベントやっていて。新宿のキャバレー跡地で「LINDA」っていうDIYイベントをやってました。
その頃にクラブで声かけてきた若い子たちがいて。その中の1人がNORIだよね。僕もその時はまだ24、25歳くらいかな。
NORI 自分たちでもやってたイベントに、ヨシローくん(※YOSHIROTTEN。以下同)に出てもらったりもしてましたね。最後の「LINDA」ではたしか、オープンのときにDJさせてもらいました。
YOSHIROTTEN NORIは僕のスタジオにもよくいました。僕が作業してる横でイラストを描いてたり。当時は「デザイナーになりたいんです」って言っていて。所属してるわけじゃないんですけど、気がついたら僕のスタジオにいつもいるって感じでした(笑)。
NORI その時はイラストレーションを少し勉強した後で、グラフィックデザインに興味がありました。音楽とかファッションとかそういう自分が好きだったもののグラフィックをつくりたかったんだと思います。年相応に、興味の対象が移ろいやすくて(笑)。でも、ヨシローくんと居るとそういう世界が垣間見れるから、いつも居てしまったんだと思います。
スタジオにいると、ヨシローくんが、「こういうイラストが必要だから描いてみてよ」とか、「この冊子に手書き文字必要だから」って描かせてもらうこともありましたね。
(「LINDA」のZINEを見ながら)DANGERの似顔絵も描いたんだよな。
YOSHIROTTEN 「LINDA」のイベントのゲストで、フランスからDANGERっていうアーティストを呼んだんです。彼の初来日が、僕らみたいな企業でも何でもない、クラブでもないところでやるアングラパーティに来てくれて。DANGERはすごく話題にもなってたし、イベントも盛り上がりました。
NORI このZINEが出たのっていつくらい?
YOSHIROTTEN これは2008年だったと思うけど、「LINDA」のイベントは2003年にスタートしてる。
NORI 毎週のようにクラブに行き出した時期だったけど、その中でも本当に「LINDA」は印象的で。それで僕からヨシローくんに声をかけたのが最初です。そこからはスタジオにも遊びに行ったりするようにもなって。しばらくして僕は、イギリスに行くんですけど。
---fadeinPager---
YOSHIROTTEN 1年ちょっとしてNORIがイギリスから帰ってきて。帰ってきたらまた前と同じように、スタジオに来たり家に来たりしてたんです。その頃に、クリエイティブエージェンシー「Gas As Interface」で、ちょうどアシスタントを探している方がいたのでNORIを紹介しました。
NORI 「Gas As Interface」は、ヨシローくんの作品集を出している「GASBOOK」のパブリッシャーでもあって。僕は「GASBOOK」のファンだったので、二つ返事でやりますって言って。そのちょっと前に、ヨシローくんには、僕が今もキュレーターをやっている「CALM & PUNK GALLERY」という西麻布のギャラリーに連れてって行ってもらったり。いまの社長と出会ったのもその時ですね。
YOSHIROTTEN それで今のNORIが何者かっていうと、「CALM & PUNK GALLERY」のキュレーターであり、アーティストのマネージメントをやったり、「C.C.P」というアートとファッションのプロジェクトも手掛けたりしています。
「GASBOOK」は学生のときから憧れていたシリーズで、NORIが「Gas As Interface」に入った3年後ぐらいに自分の一冊目の作品集を担当してもらいました。
そのあとに個展を「CALM & PUNK GALLERY」でやって、その約4年後の2018年に大規模な個展、「Future Nature」をやって。同じタイミングで「GASBOOK」から2冊目の作品集も出しました。
NORI 最初の作品集から、もう10年近く経ってますね。
YOSHIROTTEN 出会ってから10年以上の間、定期的にというわけではないんだけど、仕事だったり遊んでる場所だったり、いろんな場所で会い続けている感じ。NORIだけじゃなく、当時出会った子たちとも、いまだに関係が続いていて。昨年、「ジョンマスターオーガニック」のキャンペーンのための映像を撮ったんですが、そのとき一緒に仕事したフォトグラファーは、NORIの同級生です。
NORI そうそう。仕事だけじゃなく、遊んでいる場所が近いこともあって、自然と関係性が続いてますね。いまは作家としてのYOSHIROTTENをサポートする役としても動いているので、会話をしながらいろんなことを実現させるために、頻繁に会っているんですが、過去から現在まで、作風がどう変化していったかということを、自然と近くにいたからこそ理解できている部分は大きいと思ってます。
---fadeinPager---
──NORIさんは「Future Nature」のプロジェクトにも関わっていらっしゃいますよね。
NORI そうですね。「Future Nature」のオープニングイベントのとき、本当に興奮したんです。作品と空間、現場の人たちの熱、友人たちとの会話、すべてが渾然一体となって僕に襲いかかってきて(笑)。それで、すごく素直に、こんなこと出来るのヨシローくんだけじゃない? って思って。
YOSHIROTTEN 自分的には「Future Nature」は、最初の投げかけでしかなくて。1回目をやるときに、2回目、3回目、4回目ぐらいまでのことは一応想像して、あれをつくったっていうのはありました。コロナの状況もありますが、本当は規模を大きくしたり状況を変えたりしてやり続けていきたいという話はNORIともしています。
──「Future Nature」はどんな展示だったんですか?
YOSHIROTTEN いまは閉館してしまったんですが、東雲の「TOLOT」という大きなギャラリーで、3週間にわたってやりました。
NORI 元々はアートコンプレックスだったんですよ。すごいでっかい倉庫の2階のワンフロアにホワイトキューブが三つと、その3つが繋がったような部屋。だから、合計4部屋とそれを取り囲む巨大空間。
YOSHIROTTEN 自分のやりたいことを見せるとなったら、やっぱそれくらいのキャパが最低でも必要でした。この展示のために100点以上の作品を作ったんです。最終的に展示したのは、平面作品だと6点だけですが。それを映像に使って編集して作った作品が20点ぐらい。あとは立体作品やインスタレーションなど。インスタレーション中に、海外からMaria Teriaevaというミュージシャンを呼んでライブをしてもらったりもしました。
だからまだまだ出してないものもあるんですね。この展示からまた展開していくイメージも、もちろんあるだろうという所からスタートしたので、多分、そのエネルギッシュな熱量は作品からも伝わったと思う。
NORI 小難しいこと抜きにして、この空間つくり出せるのってほかに誰がいるの? みたいな衝撃が「Future Nature」のときにあったんですよ。本当にぶっ飛ばされました。
自分がここに関われてめちゃくちゃ良かったなって思ったし、あの展示は自分のなかで大きかったですね。それ以降「Future Nature」の時に受けたような感覚にはなってなくて。そういう意味で、ある方向での自分のなかのマキシマムポイントみたいなものをつくったのはヨシローくんだから、あの光景とかああいう興奮とかをまた一緒につくれるんだったら、そこに自分の時間をたくさん割きたいなっていうのがあります。
YOSHIROTTEN このときの自分の気持ちとしては、「Future Nature」をやろうってなったときに、やっぱり何かものすごいパンチを打つようなことをやらないといけないと思っていました。
僕が音楽をすごく好きな理由の一つに、言葉とか説明的なものじゃなく、心が動いてしまうというところがあります。音楽によって突き刺さるような感覚で、そこにいるすべての人たちが、何か食らってしまうような衝撃的な時間と、空間をつくっていくことをシンプルにやりたいと思っていた。
いまNORIとは、これからさらにそういうことをやっていくために、どうしたらいいかなっていうのを話しています。
NORI 一方で僕はキュレーターとして、つくり手と鑑賞者の橋渡しをしなきゃいけない。感覚的なものっていうのはすごく主観的になってくるし、同じものを見てもそれに「ときめけるかどうか」みたいな感性の違いがあったりする。
でも「感性が違うからわからない、さよなら」っていうのを僕はもったいないと思っていて、もっと間口を広く楽しんでもらうためには、それを言語化したりとか、それが何なのかっていうことを説明できるようにするのが自分の仕事なのかなと。
---fadeinPager---
──香港のギャラリー「THE SHOPHOUSE」で、個展 “Cityscape Resolution – Hong Kong” が開催中ですね。こちらはどんな展示なんですか?
YOSHIROTTEN 昨年、中国で開催した展覧会を見た「THE SHOPHOUSE」のギャラリストから、「香港で個展をやらないか?」と相談がきたんです。中国では発表していなかった森山大道さんとの作品に加えて、ウォン・カーウァイ作品の元フォトグラファーとして知られるウィン・シャ(Wing Shya)さんとコラボレーションをしました。
残念ながら香港には行けなかったので、遠隔で会場を見て展示を進めました。森山大道さんが撮影した「新宿」シリーズをリワークした作品と、ウィン・シャさんとのコラボレーション作品、それらを繋ぐオリジナルの僕の作品っていうのが大きな構成です。
NORI 湿っぽいけど、鮮やかな色彩が特徴的なウィン・シャさんとの作品と、ソリッドでモノクロの森山大道さんの作品、かなり対照的。ヨシローくんの感じた違いはなんですか?
YOSHIROTTEN 大道さんのときと同じように、僕がウィン・シャさんの写真のデジタルデータに“潜って”いって、そこからなにが見えるかっていうところからスタートして。ウィン・シャさんが捉えた香港の街だったり人だったりを写した写真に潜り込んでいくと、「そこに写っている人々の感情のようなもの」をすごく感じた。僕は香港の街にいないのに、その写真と向き合ったとき、とても現実的に香港の街を感じて。「今この街がないはずがない」とか、「こんな人がいないはずない」とか、そこまで思えた。大道さんの場合は、新宿を捉えた写真たちを僕がデジタルを介して見てみると、映り込んだ新宿の街が「現実が非現実に」見えたんだよね。このふたつの対比も面白かった。
NORI ウィン・シャさんから写真をたくさん提供してもらった中から選んだんですか?
YOSHIROTTEN そんなにたくさんじゃない。10点くらいかな。グラフィックを額装して、映像もつくった。
NORI 何かすごく没入感がありますね。ウィン・シャさんのの写真を異常なくらい拡大してるような作品とか。肉眼では確認出来ないレベルで近づいていて、もうまったくモチーフが見えなくて。デジタルだからこそ出来る表現で、作品の中にすごく入っていくような感じ。
──紙にプリントされた状態の作品に対しては、どんな風に思っていますか?
YOSHIROTTEN そこに“入っていこう”となんて、まず思わないです。多分、それは完成形だから。大道さんからしてみれば、プリントした状態が完成だとしたら、それをデータで見ることって、完成形じゃないじゃないですか。それをデジタルで見て潜り込んだときに、新たな何かを発掘できたっていう感じかもしれない。
NORI 各々が持っている作品の力みたいなのを、切り取って、増幅してる感じがしますよね。
YOSHIROTTEN あと今回、僕がむちゃくちゃ好きなアートブック『ヴェルク(WERK)』から、今回の展示を特集した一冊が出版されるんです。シンガポール出身のテセウス・チャン(Theseus Chan)っていうアートディレクターがつくっていて。毎回ブランドだったりアーティストだったりとコラボレーションして本をつくってる人なんですけど。それもかなり楽しみにしてます。
Cityscape Resolution – Hong Kong by YOSHIROTTEN
開催期間:2022年2月20日〜4月3日
場所:THE SHOPHOUSE
4 Second Lane, Tai Hang, Hong Kong
グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR