2022年1月に発売を開始した、ライカM11。ルックスは伝統的なレンジファインダーのMのスタイルを踏襲しながらも、内部の設計はほぼ一新した最新のライカ。6,030万画素の35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーを搭載、ISO64から50000まで感度を設定することができ、最高1/16000秒の高速シャッター(電子シャッター)を実現。
「ライカM8でフィルムカメラからデジタルカメラとなり、ライカM10に至ってデジタルの完成形となったというモダナイズの流れがあるなかで、このライカM11は現行のカメラのなかでも最先端をいく存在になった。そんな印象があります」
そう語るのは『奇界遺産』シリーズで知られる写真家・佐藤健寿。試作機の段階からライカM11を手に取り、フィードバックをしてきた。佐藤がいう「最先端」の部分とは6,030万画素という高画素化と繊細な解像感にある。その実力やいかに。佐藤は東京の空を飛び、夜景に向けてライカM11のシャッターを切る。
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旅に最適な、軽量かつコンパクトなボディ
「ヘリコプターに乗り東京の夜景を主にアポ・ズミクロン35mmで撮りました。このレンズは収差がほとんど出ないという特性があり、写真としては驚くほどの解像感。遠方のビルの明かりがくっきりと写り、地上の横断歩道のラインもシャープに写っていました。ヘリのパイロットは空撮に慣れている人でしたが、こんなに写るんですねと驚いていました。しかも、開放で撮ると周辺がうっすら暗くなりしっとりとした情緒感が出る。繊細に解像しているのにしっとりとした情緒がある、どこか不思議な描写になりました」
高い性能を誇るアポ・ズミクロンの力を、6,030万画素のセンサーにより存分に発揮。映画『ブレードランナー』のような幻想的な空撮写真を撮ることができた。
その後佐藤は、長崎・軍艦島、熊本・阿蘇山、宮崎・高千穂、そして知床へと、ライカM11とともに旅をする。ライカM10よりも100グラム以上の軽量化を施したライカM11は移動のうえで大きなアドバンテージだったとも佐藤は話す。
「ダイナミックレンジがかなり広くなるということだったので、軍艦島ではそれを試すいい機会でした。総じて廃墟というのはコントラストが強いのでカメラの性能が求められる。人工照明がない自然光だけの空間なので、建物の奥のような光が届かない場所は真っ暗で、でも空が晴れていれば光が当たる場所はひたすら明るい。そしてレンズの力も必要です。品質の良くないレンズを使うと線が太くなり、写る絵の全体が陳腐に見えてしまう。ソリッドに描き出せるレンズが必要なのですが、そこはアポ・ズミクロンシリーズの素晴らしいところで、今回の撮影ではアポ・ズミクロンシリーズを多用したのですが、収差がないことによって線にブレがない」
夜景同様、明暗が連続する軍艦島の廃墟では、解像感と階調性の表現を試すことができた。「ともするとバキバキの絵になってしまうところですが、中間も持ち上がりしっとりとした印象になりました」と、ライカM11+アポ・ズミクロン35mmを評価する。
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スナップのイメージが強いが、風景写真にも活用したい
熊本の阿蘇山では、煙を吹き上げる火口をおさめた。
「阿蘇では、特にライカM11の何をというテーマは設定していなかったんですが、東京の空撮をしたときに、東京の今を撮りたいというバックグラウンドのテーマがあったんですね。阿蘇山は活火山ですが、ちょうどいま活発になっているという特別な時だったので、2022年を象徴するという意味で撮りたいと思いました」
スナップシューターとしてのイメージが強いライカMだが、風景写真も撮れる。佐藤がおさめた阿蘇の写真は、結果的にはそんなデモンストレーションになった。
「ハイライトもけっこう粘る。逆光にも相当強い。いままでのライカ史上もっとも柔軟性が高いと言っても差し支えないんじゃないかという印象です。従来のようにスナップシューターとして使いたい方はもちろんそういう撮り方ができますし、僕みたいに風景を撮る人でも使える。M型ライカは風景を撮るものじゃないでしょう、というイメージが古くからのライカファンにはあると思いますが、今回使ってきてみて、ライカM11なら旅のメインカメラにできるなと感じました」
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高解像度により、35mmレンズ1本でさまざまな画角をカバー
雪景色の知床でも、ハイライトへの強さを発揮したライカM11。1/16000まで設定できるようになった電子シャッターも力を発揮する。
主に使用したレンズはアポ・ズミクロンシリーズの35mm、50mm、75mm、90mm、そして135mm。加えて味付けレンズとしてノクティルックスやタンバール。高千穂の神社ではトリ・エルマーの16mmも使用した。佐藤の普段のレンズ構成とさほど変わらないという。もっともよく使ったレンズはアポ・ズミクロンの35mmだった。それにはライカM11だからこその明確な理由がある。
「ライカM11の高い解像度が活かせるからです。ライカQやQ2でクロップ機能が搭載されて、広角で撮っていてもクロップすればズームのいちおうの代替えになるということがあるじゃないですか。ライカM11でもクロップはできますが、50mmで撮ってしまうと広げることはできないですし、35mmをつけておけばクロップで50mmの画角にも、75mmの画角にもできる。広角から中望遠まで、35mm一本でカバーできてしまうんです。なので正直な気持ちを言うと、ライカM11には35mmをつけておけばほとんどの撮影ができてしまうのではないかと感じていました」
また、気温が低いとバッテリーの性能が下がるともいわれるが、知床でも撮影にはまったく支障がなかったと佐藤はいう。今回はバッテリーは1つしかなかったそうだが、バッテリー切れになるどころか、ある撮影では1000枚撮っても残量は60パーセント以上あったという。M10に搭載されていたバッテリーよりも64%大きい1,800mAhという大容量化の効果は非常に高い。
「USB-Cでカメラ本体に直接充電ができるのも、旅をする身としてはありがたかったですね。充電器ってけっこうかさばりますが、Macを充電するためのケーブルで共用できるので知床のときは充電器は持っていきませんでしたし」
装備は少しでも軽く、一つでも少ない方がいい。旅をする佐藤らしいリアルな感想だ。そして今回、ライカM11と旅をした佐藤が、実感をベースにライカM11を語る。
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プロのための、機能にすぐれた一台
「これはどうしてもお伝えしたかったんですが、ライカは最近SLやQというシリーズが登場しました。最新シリーズの影に隠れるように、M型ライカはもはやセンチメンタルで続いているんじゃないか、そんな雰囲気ってあったと思うんですよ。しかし、このライカM11は、M型ライカにイノベーションを起こした。M型ライカはただのヘリテイジではなくて、あくまでも実用のプロ機であることを示した。それが僕は嬉しい」
6,030万画素というセンサーサイズ自体は、いまや珍しいものではない。他社にも同サイズのセンサーを搭載するカメラは存在する。しかし、アポ・ズミクロンを始めとする高性能のレンズとの組み合わせでは、他に肩を並べるものがない表現力を発揮する。今一度、ここに挙げた作例を振り返っていただき、その力をじっくりと味わって欲しい。
佐藤健寿写真展「MICROCOSM #japan」開催中
2022年5月10日(火)まで
ライカGINZA SIX 東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F
https://store.leica-camera.jp/event/ginzasix_kenjisato_m11