名バイプレイヤーとして知られ、YouTubeで配信中のオリジナルドラマ『東京古着日和』にも出演するなど、ヴィンテージなモノに惹かれるという俳優の光石研さん。名作椅子の魅力を再発見しに、故郷・福岡を旅した。
※前編はこちら
ヴィンテージチェアは、空間に収まる姿を想像する
「僕自身も好きなデザイナーの椅子は積極的に探しにいきますが、気に入れば、デザイナー名がわからないものも持ち帰ります。愛着のある椅子は売らずに自分で使い続ける場合もありますね」
椅子を買う時に大切なのは、座り心地を確かめること、そしてもうひとつ、置く場所との調和を考えること。武末さんとともに光石さんが次に向かったのは、店からクルマで10分ほど離れたマンションの1室を改装した「イナフルーム(Enough Room)」。武末さんが、自宅と同様に、靴を履いたままの暮らしを実践するためにつくり上げた空間だ。現在は親しい友人に泊まってもらうゲストルームにしているが、椅子を仕入れる際には、ここに置くことをまず想像してみるという。
さらに、ヴィンテージチェアならば、いつ製造され、どこで使われてきたのかによって表情が異なる点にも配慮すると、武末さんは言う。国や街の歴史と文化的背景に左右されることもあれば、戦争の前後で材質と技術にも違いが出る。そこに当時の感覚が残っているからこそ、雰囲気だけをまねたようなものにはない、静かな迫力があるのだと。武末さんの力説に、光石さんも自身の活動との意外な共通点を見出したようだ。
「空間とのバランスを見極める。それは映画で言うところの“絵づくり”と同じですね」
建築の名脇役にもなる、椅子の奥深さに魅了される
光石さんにとって、武末さんの立ち居ふるまいは、ジャック・タチの映画『ぼくの伯父さん』で描かれるチャーミングな「ユロ伯父さん」を思い起こさせると言う。
「ジャン・プルーヴェのオリジナルがさりげなく置いてあることにも驚きました。僕は素材感のあるものと、50年代頃のデザインが好きでよく取り入れていますが、この空間に憧れるばかりです」
最後に、武末さんにとって椅子とはどんな存在なのかを訊いた。
「プルーヴェのオリジナルはいまやパリのギャラリーしかもってないようなものになっていますけれど、僕はアノニマスな椅子にも魅力を感じます。椅子は選び方、使い方によって大きく変わる存在です。使う場所、つまり建築が主役だとしたら椅子は脇役かもしれない。でも、主役を食うような名脇役にもなるところが椅子の奥深さではないでしょうか」
光石 研
1961年、福岡県生まれ。俳優。高校在学中に受けたオーディションで主役に抜擢され、映画『博多っ子純情』でデビュー後、映画、舞台、テレビドラマに出演。PenのYouTubeオリジナルドラマ『光石研の東京古着日和』が好評配信中。
武末充敏
1949年、福岡県生まれ。「organ」店主。70年代に東京でバンド「葡萄畑」のメンバーとして活動後、福岡へ戻る。99年、自宅ビル内にインテリアのセレクトショップを開店。国内外の優れたデザインを紹介している。
organ
住所:福岡県福岡市南区大橋 1-14-5 TAKE-1ビル 4F
TEL:092-512-5967
営業時間:14時〜18時(木、金)、13時〜19時(土、日、祝)
定休日:月〜水
https://organ-online.com
※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」特集より再編集した記事です。
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