デザインに惚れたらとことん追いかける、永井敬二の椅子の愛し方

  • 写真:勝村祐紀
  • 文:高橋美礼
  • ヘア&メイク:山田久美子
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壁一面に収蔵された書籍、世界に数点しかないプロダクトからイケアのランプまで、数々のデザインが詰まった宝箱のような部屋。

「えぇっ !? うわー!」と一歩足を踏み入れたとたんに驚きの声を上げた光石さん。オルガンの後に訪れたのは、インテリアデザイナーの永井敬二さんのスタジオだ。永井さんは椅子を中心に、国内外のプロダクトを1966年から収集、いまではスタジオの他に倉庫ふたつを借りるほどのコレクションを有する。

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毎年、その1年間で永井さんが入手した椅子を並べて、クリスマスカード用に撮影している。

スタジオはまさにモダンデザインの宝庫。無造作に配されたイームズのシェーズロングからハラコ張りのバスキュラントチェア、さらには照明や時計などもところ狭しと並ぶ。

「これほど多くの椅子やプロダクトを、いったいどうやって集められたのか、すごく気になります」

そんな光石さんの素朴な疑問に永井さんは、やっぱり好奇心でしょうね、と即答。

「僕は常に“見たい、聞きたい、知りたい”という気持ちで調べたり、人にお願いしたりしながら探し出してきました」

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この撮影は1988年から続けており、いまや貴重な資料に。photo: Takashi Chishiki

小さなヒントをもとに、諦めずに探し続ける

たとえば、55歳の頃に手にしたという、イサムノグチのロッキングスツール。初めて実物を見たのは、ニューヨークのギャラリーだった。36歳の頃に読んだ、画家・猪熊弦一郎のアトリエを撮影した本の片隅に写っていた記憶とも一致した。美しさに目を奪われたが、既にメーカーの製造は終了していた。その後もずっと気に留め、後年になって入手。このように永井さんの椅子には、情熱を捧げてきた一つひとつのドラマがある。

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イサムノグチがデザインしたロッキングスツール。

「このロッキングスツールは、座面が緩やかにカーブしていて、座った時のフィット感がいいでしょう? ハイタイプもあって、ゆらゆらと動く機構はどちらも変わらないのに、低いほうは安定感もある。こういう発見は、自分の手元にあって初めて味わえるのです」

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新潟の木工職人、清野拓朗がデザインしたスツール。
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「50年代のデザインが好きなら使ってみて」と永井さんが光石さんにプレゼントしたのは「東芝電気ポット陶器製PL-56形」のデッドストック。

そして永井さんは「デザイナーやブランド名だけで判断するわけではない」とも言う。先日、散歩中に建設現場で使われているチリトリが気になった。作業員に訊ねたところ、百円均一の店で販売されているとわかり、買い求めた。

「細かいゴミを逃さない形状や、持ち手につながるラインも美しいじゃないですか。デザイナーに会ってみたいですね」

ブランドに分け隔てなく、デザインに向けられる永井さんの視線は常に鋭い。光石さんもその気持ちがわかるという。

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建設現場で惹かれたミニチリトリ&ブラシセットは、百円均一店のもの。

「メーカー名がわからない古着でもデザインや製法のちょっとした違いが気になるものってあります。その感覚に近いのかもしれません。あまりに膨大で圧倒的な永井さんのコレクションに溺れて窒息しそうになりましたが(笑)、目を輝かせながらお話しくださるので聞き入ってしまいました。武末さんも永井さんも、自分の〝好き”を追いかけている。その姿勢に心を打たれました」

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マリオ・ベリーニのレコードプレーヤーはなんと現役。

永井敬二

1948年、佐賀県唐津市生まれ、福岡市在住。インテリアデザイナー。岩田屋関連のインテリア事業部を経て独立、82年「ケイアンドデザインアソシエイツ」設立。椅子やデザイン製品のコレクションを通じて国内外の文化交流に貢献し、デンマーク王国より「Furniture Prize」を受賞。

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※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」特集より再編集した記事です。