ファッションとカルチャーの発信基地、渋谷PARCOはなぜいま“ヴィンテージ”なのか

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:高橋一史 
  • 編集:穂上 愛
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左が渋谷パルコに古着のショッピングモールを導入した平松有吾、右がモールの運営者で参加店のセレクトも手掛けた十倍直昭。

ファッションカルチャーの発信基地として、訪れる客を常にワクワクさせる渋谷パルコ。時代を先読みする彼らがいま、古着の世界に力を入れはじめた。その第一弾となるヴィンテージ・ショッピングモール導入のエピソードを、キーパーソン同士が語り合った。

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対談取材の合間にも思わず、「これいいですね!」と気になる服を発見。スタッフ自身も愉しんでしまう充実した品揃え。

渋谷パルコは2021年に5階をアウトドアフロアにリニューアルして、変化した私たちの生活スタイルにいち早く対応した。次なるリニューアルのターゲットにしたのが、モノを大事にするSDGsにもつながり注目度が増す古着である。そこで現在4階フロアを中長期的に順次改装して、古着を打ち出す計画が進行している。

先行して22年2月25日(金)にオープンしたのが、マーケット型の「VCM MARKET BOOTH(ヴイシーエム マーケット ブース)」。古着の名店が名をつらねる日本初のECショッピングモール「VCM」(Vintage Collection Mallの略)を運営し、自身のショップ「グリモワール(GRIMOIRE)」も手掛ける十倍直昭(※以下、十倍)が選んだ6店が参加している。計画を推進したのは、パルコ渋谷店の平松有吾(※以下、平松)。互いに「この人だからこそ実現できた」と称え合う間柄だ。

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若者から火が着いた、古着への注目度の高さ

十倍 ヴィンテージ店は、バイヤーさんの個性が色濃く出る店です。ジュエリー専門も時計専門もあれば、セレクトショップのようにレギュラー(※年代が古くない一般的な古着を指す古着用語)をきれいに並べる店もあります。2000年代のブランドものも、“アーカイブ”と呼ばれ存在が確立されつつあります。ずっと昔からあるものが時代とともに価値が変わる面白さがあり、それが僕がヴィンテージ店のECモールをやろうと思った大きな理由のひとつ。皆が集まればより面白くなるから。
古着やヴィンテージの人気の広がりには、フリマアプリの存在がすごく大きいと考えています。リユースに対する抵抗がなくなりました。たとえばECマーケットのヤフオクは大人世代が多く高価な品が売れます。一方でメルカリは利用者層が若く、価格の低いものの動きがいい。僕自身新品を買う前に『メルカリに出てないかな』と見ることが増えてきました。

平松 自分もやります(笑)。

十倍 やりますよね!

平松 やります、ぜんぜんやります。

十倍 そこで見つけたものが新品に近いなら、価格が安いほうを買いたくなるものです。比較して買う購買行動が当たり前になり、リユース市場は広がる一方で今後縮小することはないと思っています。

平松 リユースでもいいものが買えることが一般化することは、ファッション界全体にとって次の世代が育つきっかけになると思います。全国のヴィンテージ店さんには、そういう役割もあるのでしょう。

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オープン時の参加店は、ドラセナ、グリーフル、エディ、ホリデー ワークス、アッシュアンドジャンピンジャックフラッシュ、ムード トーキョー ヴィンテージの6店舗。施工途中のような内装を手掛けたのは「SKWAT」。

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VCM MARKET BOOTHの新しい試み

平松 19年に渋谷パルコが3年かけて全館リニューアルしたとき、ベルベルジンさんにメンズ古着を、十倍さんの店であるグリモワールさんにレディス古着を出店していただきました。十倍さんとはこのときからのお付き合いです。
いま渋谷パルコには約200店舗あるのですが、古着で2店舗は明らかに少なすぎると思っていました。年を追うごとに若い世代を中心にヴィンテージや古着全般に関する関心が高くなっています。パルコに新入社員が入社すると、1フロア全部をヴィンテージや古着にする意見が必ず出てきます。あるいはサステイナブルをテーマにしたフロアをつくりたいと皆が口を揃えます。
自分自身も若くお金もない90年代にブランドものと古着をミックスして着ていたことを思い起こし、まず十倍さんが立ち上げたECモールのリアルイベントを21年10月に開催しました。それが今回の常設店舗に至ったきっかけです。

十倍 思い入れが深い渋谷パルコでイベントをやらせていただき、本当に光栄でした。このたびの常設スペースのVCM MARKET BOOTHは、大きく2種類のジャンルで構成しました。ひとつはハイブランドのアーカイブで、もうひとつは在庫がたくさんある一般的な古着。いまのヴィンテージ好きの層には2軸あり、高騰する価値あるものを探すヴィンテージ愛好家と、それを気にしない人にわかれます。既存の3店舗分、約40坪ほどの空間のなかでこの2種類をわけて展開しています。
VCM MARKET BOOTH全体ではヴィンテージの新しいカタチを表現したくて、だれもが買いやすい古着をまず軸に据えました。そこにマルタン・マルジェラ期のエルメスやフィービー・ファイロ時代のセリーヌを集めたハイブランドのアーカイブ店をプラス。このあり方こそが現代的だと思っています。昔ながらのヴィンテージデニムの発想じゃなく、あくまでも“ファッション”なんです。

平松 そこが渋谷パルコ全体が表現しているところと十倍さんたちがVCMで表現していることのリンクが強い点ですね。面白いものを集めて行くことと、既存のヒエラルキーを変化させて新しい世界をつくっていくことにとても共感します。

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古さはあるがコンディションが良好な1950年代のスポーツジャケット。¥43,700(税込)

ヴィンテージはどう着るのが正解か

十倍 僕が目指している世界は、海外のお洒落な人のようにブランドものとヴィンテージと、そこらで適当に買った服とを何気なく混ぜて着るスタイル。ヴィンテージはファッションであるべきなんです。服装のアクセントに取り入れていただければ。
ファストファッションを着ても古着のトップスを加えるだけで面白い外しが生まれます。さらにハイブランドのバッグを持てば高級感も出ます。全身ハイブランド、全身ファストファッション、全身古着というものに僕はあまり興味がありません。ヴィンテージは見た目で判断すればいいんですよ。雰囲気や味があるからカッコいいとか、かすれている文字がカッコいいとかそれだけでよくて。タグや年代を知ってからじゃないと着られないと思われがちなハードルの高さを下げたいです。自由にミックスさせて着る価値観を日本に根づかせたい。モードショップが多い渋谷パルコならその発想を表現できます。

平松 
1点もののヴィンテージは、着ていて人と被らない服。個性を表現しやすいと思っています。いまの時代は新品だけを見ても、ラグジュアリーも買えばファストファッションも買う人が主流でしょう。ヴィンテージもそのひとつとして捉えてもらえればと思います。

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下段は古着市場で定番人気のチャンピオンの80〜90年代スウエットシャツ。価格は¥15,000前後。

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ヴィンテージの名にふさわしい40年代アメリカ海軍のユニフォーム。¥21,780(税込)。

VCM MARKET BOOTHの愉しみ方

十倍 渋谷パルコのお客さんの層が幅広いことは、グリモワールを出店した2年間で理解しているつもりです。その方々にまず楽しんでもらいたいです。年代も性別も問わずに買える店にしたい。古着に親しんでいる若い人だけでなく、感度の高い大人が来ても退屈しない店であるように。

平松 そうですね。商業施設にある古着店は若い子が買える安いものというイメージがあると思うのですが、ここではいいものが買えます。さらに目的の商品以外のものが見つかることもあるでしょう。VCM MARKET BOOTHに行けば、思いがけずほしくなるものに出会えます。そういう機会をたくさんつくっていきたいですね。ヴィンテージの愉しみ方がどんどん紐付いて広がっていったらいいな、と。

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現在のアイテム構成比は、レディス6割メンズ4割。今後はジェンダーレス発想でメンズ系アイテムを増やしていくそう。
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「渋谷パルコの担当スタッフは皆、ヴィンテージ好きな人ばかり。熱意があるから意思疎通しやすく、この場でやりたいことができました」(十倍)「ウチはモノ好きなスタッフが多くて。ファッションやカルチャーへの熱意があるほどフィットする職場なんです」(平松)

「いまこれを着ればお洒落」とされるアイテムだけが店内に置かれたブランド店やセレクト店と違い、古着店でハイセンスな服を探すにはファッションと積極的に向き合う気持ちが大切だ。
自分で探し出して着る強い意志も問われる。どの店に買いに行けばいいかわからない人も多いだろう。

そんな人こそVCM MARKET BOOTHに行ってみよう。参加する6店が渋谷パルコ向けにしっかりと選んだ服が揃っているからだ。これらはいわば“お墨付きの古着”。専任スタッフも常駐しているので、迷ったらぜひ相談を。シワや汚れがカッコいいかどうか、きっといいアドバイスをしてくれるはずだ。

VCM MARKET BOOTH

住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 PARCO 渋谷店4F「4202122」
TEL:03-6416-4563
営業時間:11:00~20:00
定休日:無し

※営業時間、定休日などは変更になる場合があります。事前に確認をお薦めします。

平松有吾/PARCO渋谷 営業次長

2004年より渋谷パルコで東京コレクションや路面系ブランドなど、新ショップの誘致を手掛ける。2010年福岡パルコの立ち上げ、パルコ初の自主編集ショップのディレクションを経て、2017年より新生渋谷パルコのビルプランニングやショップ誘致、デジタル施策などを担当。
2019年11月にOPEN後も、『The window/1F』『PARCO OUTDOOR PARK/5F』『4202122/4F』(SKWAT/TORU KASEとの共同プロジェクト)など新しい売場・フロアづくりを手掛けている。

十倍直昭/VCM代表

2008 年 Vintage Select Shop「Grimoire」オープン。 世界中からセレクトしたヴィンテージアイテムの販売を行う。2021年に日本最大級のヴィンテージ総合 EC モール”「VCM 」を立ち上げ、2022年2月渋谷パルコにて、マーケット型リアルショップの「VCM MARKET BOOTH」をオープンさせた。
豊富な海外経験を生かし、“国と時代と文化を繋ぐ” をコンセプトに様々な分野でクリエイティブに活動。 その他に、ウェディング事業、 店舗内装、大手百貨店 / ファッションビル等イベントオーガナイズ、 学校理事など多分野で活動中。