木村伊兵衛のカラー写真でめぐる1950年代のパリ。目黒区美術館で開催中の『木村伊兵衛と画家たちの見たパリ 色とりどり』展

  • 文:はろるど
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木村伊兵衛『パリ』(1954-55年) ©Naoko Kimura 木村はパリでの印象を「何よりも人間が大人で気持ちよい。言葉が通じなくても、からだに何かが感じられる」と撮影日記に記している。

「ライカ使いの名手」と呼ばれ、リアリズム写真運動を進めながら日本の写真界を牽引した木村伊兵衛(1901〜74年)。 主にモノクロの報道写真やポートレートで知られているが、1954年と翌年にかけて日本人写真家として戦後初めてヨーロッパを取材すると、アンリ・カルティエ=ブレッソンやロベール・ドアノーらと交流し、彼らの案内によってパリの街角をカラーフィルムへと収めている。

目黒区美術館で開催中の『木村伊兵衛と画家たちの見たパリ 色とりどり』は、木村のパリで撮影したカラーのスナップ写真131点を公開。あわせて1910年から50年にかけてパリ留学を経験した、荻須高徳や山口薫といった画家の作品を展示している。写真や絵画、それにスケッチブックなどの異なったメディアを通し、戦前から戦後に至るパリのさまざまな情景を楽しめる内容だ。

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木村伊兵衛『ミラボー橋』パリ(1955年)©Naoko Kimura 当時、カラー写真を試したかった木村は、まだ珍しかったカラーフィルム「フジカラー」を寄贈されると、モノクロフィルムと両方を持ってパリへと渡った。

1階の受付の正面奥に並ぶのは、木村がモンマルトルの子どもたちやパリの街を俯瞰するようにして写した2枚の写真だ。左右には井手宣通の『モンマルトル(巴里)』(1955年)と近藤吾朗の『サン・ミッシェル通り』(1957年)の油彩画が隣り合っていて、ほぼ同時代のパリの光景が響き合うすがたを目の当たりにできる。一方で2階にてまとめて公開されているのが木村のスナップ写真だ。それらは壁に並んでいるだけでなく、アーチ状の構造物や独立した柱などにも展示されていて、視線を変えると景色が移ろうように複数の写真が目に入ってくる。まるでタイムスリップして当時のパリの街をめぐり歩いているような気分になるかもしれない。

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木村伊兵衛『夕暮れのコンコルド広場』パリ(1954年) ©Naoko Kimura 木村は『木村伊兵衛写真集 パリ』(1974年、のら社)において、「あのころのフジカラーは渋い、パステルカラーのような色が出まして、それがパリなんて街の色を出すにはふさわしいんじゃないかと思ったわけですよ。」との言葉を残している。

カフェや公園に集う人々など、パリでも日本と同じように日常の何気ない光景を写した木村だが、朱色に染まる街角からエッフェル塔が影絵のように浮かぶ『夕暮れのコンコルド広場、パリ』(1954年)や城の上から霧に霞む森を眺めた『霧の森、シャンボール』(1954年)といった幻想的な写真があるのも見逃せない。また「日本とちがって公園には子どもが少ない」や「カラーで人間を写す場合は動きを巧く狙わないといけない」などの写真へ寄せた木村のコメントも面白い。そこにはパリで受けた雑感から技術的な内容などが記されていて、木村の率直な気持ちを伺い知ることができる。

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荻須高徳『サンマルタン通り』1960 年、目黒区美術館蔵 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 E4477 画家としての人生の大半をパリで過ごした荻須。キャプションに渡欧期間が書かれていて、どの年代にヨーロッパに滞在していたのかが分かるように工夫されている。

ラストに公開されたパリ留学経験のある画家の作品は約50点。いずれも目黒区美術館のコレクションにて構成されていて、フォーヴィズムの影響を色濃く思わせる角浩の『リュクサンブール公園』(1938年)やいまも現役で活躍する画家、野見山暁治の『パリの郊外』(1953年)といった目を引く作品ばかりで見応え十分だ。この他、木村が撮影に使用した「Leica M3」の同モデルの色違いなども展示されている。当時の国産フィルムの特性でもあった低感度の淡い色彩とコントラストを活かし、パリの空気や光の色を繊細に捉えたカラー写真ならではの魅力を存分に味わいたい。

『木村伊兵衛と画家たちの見たパリ 色とりどり』
開催期間:2022年2月19日(土)〜3月27日(日)
開催場所:目黒区美術館
東京都目黒区目黒2-4-36
TEL:03-3714-1201
開館時間:10時~18時
※入館は17時半まで
休館日:月。ただし3/21(月祝)は開館し、3/22(火)は休館。
入場料:一般¥800(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://mmat.jp