20年ぶりの大回顧展! Bunkamura ザ・ミュージアムの『ミロ展 ― 日本を夢みて』でひも解くミロと日本の意外な関係

  • 写真・文:はろるど
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左:ジュアン・ミロ『ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子』 1945年 福岡市美術館 右:ジュアン・ミロ『絵画(カタツムリ、女、花、星)』 1934年 国立ソフィア王妃芸術センター 後者はフランスの実業家の依頼されたタペストリーのための下絵。しかし下絵でありながら、タペストリーの原寸大のサイズと高い完成度から、1930年代のミロの代表作として知られてきた。

スペイン・カタルーニャ地方のバルセロナに生まれたジュアン・ミロ(1893〜1983年)。シュルレアリスム運動に参加しながら、シンプルな線やかたちによる有機的な形態で独自の画風を確立し、20世紀を代表する芸術家として大きく評価されている。また日本でも1930年代から作品が紹介されたり、世界に先駆けてモノグラフ(単行書)が出版されるなど、早い段階から活動に注目してきた。しかしミロ自身が若い頃から日本に憧憬を抱き、2度の来日を果たしつつ、文化に造詣を深めていたことは、必ずしもよく知られていない。

Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の『ミロ展 ― 日本を夢みて』は、浮世絵をコラージュした初期作から日本で初めて展示された作品、さらにアトリエにあった日本の民芸品や批評家の瀧口修造との交流を示す資料を通して、ミロと日本の関係についてひも解いている。若きミロが過ごしたバルセロナは空前のジャポニスム・ブームに湧いていて、ミロのみならず多くの人々が日本の美術工芸品に熱をあげていたが、単純に「ミロが日本に憧れていた」ことに留まらず、アトリエの調査などを通して、どのような日本の文物がミロの手に渡り、どういった日本の文化人らと関わっていたのかを具体的に検証している。

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左:ジュアン・ミロ『アンリク・クリストフル・リカルの肖像』 1917年 ニューヨーク近代美術館 右:作者不詳『ちりめん絵』 制作年不詳(サビーン・アルマンゴル氏、アルマンゴル=ジュニェン・コレクション)浮世絵を画面に貼り付けた肖像画が同じ図柄のちりめん絵とともに並んでいる。ミロと同じ年で親友のリカルは、独学で木版画を手がけていて、浮世絵やちりめん絵を熱心にコレクションしていた。肖像の右下には落款や版元の印を意識したようなサインが見える。

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左:ジュアン・ミロ『女と鳥』 1968年 三重県立美術館 右:ジュアン・ミロ『女と鳥』 1972年 メナード美術館 1966年の来日以降、ミロは書を思わせるようなおおらかなドローイングを繰り返し制作していて、油彩画においても黒の比重が目に見えて大きくなっていった。ともに墨のにじみのような黒い面が印象深い。

戦時中、陶芸家の友人のアルティガスを通して日本のやきものに夢中になったミロは、大津絵やこけし、郷土玩具などにも心を惹かれていく。さらに1950年代に入って日本のコレクターや美術家らがミロを訪ねると、日本人と交流する機会も増えていった。こうして浮世絵から俳句、書や民芸にまで深く関心を寄せたミロは日本への旅を夢見はじめると、1966年に東京と京都の2つの国立近代美術館で開催された『ミロ展』に合わせて初めての来日を果たす。そこで世界初のミロの本を出した瀧口修造との面会し、京都や奈良の寺や信楽や愛知の窯元を見学したほか、書家らと親交。各地の博物館をめぐるなど2週間過ごしている。その3年後には、大阪万博のガスパビリオンより依頼された壁画の設置の確認のため、再び日本へとやって来ている。実に76歳の時のことだった。

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ジュアン・ミロ『無題』(瀧口修造へのオマージュ) 1970年 富山県美術館 和紙に墨で文字のような線を描き、グアッシュで色をつけた3点組みの作品で、瀧口修造に贈られた。作品の下部には「瀧口修造に捧げる、あなたの友人 ミロ」の言葉が日付のサインとともに添えられている。

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左:ジュアン・ミロ『絵画』 1966年 右:ジュアン・ミロ『絵画』 制作年不詳 ともにピラール&ジュアン・ミロ財団、マジョルカ ともにミロが日本の書から受けたインスピレーションを反映させたような作品。ほとばしるような黒い線や面が生き物を象っていくようだ。

「東洋的なものには、何か血のつながりでもあるかのように全てに魅力を感じます。だから私は日本が好きなんです。」と語ったミロ。それでは一体、日本の文化がどのような影響を与えたのだろうか。実は日本の書画や史跡を明らかに参照した作品は多くはない。しかし墨のにじみやはねを試すようなドローイングや巻子の形式を用いた作品や、来日以降、書家との交流の影響を滲ませるような激しい筆致の太い線が増えていったことなどから、ミロがジャポニスムの表層をすくったのではなく、文化そのものを咀嚼して独自の境地へと達したことが分かる。展示された作品と資料は約130点。56年ぶりに来日したマドリードの傑作『絵画(カタツムリ、女、花、星)』をはじめとした国内外の代表作も見応え十分だ。ミロの作品に其処彼処に見え隠れする「日本の影」を探しながら、国内では20年ぶりとなる回顧展にじっくり向き合いたい。

『ミロ展 ― 日本を夢みて』
開催期間:2022年2月11日(金・祝)~4月17日(日)
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時
※金・土曜日は21時まで。入館は閉館の30分前まで
休館日:2/15(火)、3/22(火)
入場料:一般¥1,800(税込)
※会期中すべての土日祝および4月11日(月)~4月17日(日)はオンラインによる日時予約が必要。また臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_miro/