スペイン・カタルーニャ地方のバルセロナに生まれたジュアン・ミロ(1893〜1983年)。シュルレアリスム運動に参加しながら、シンプルな線やかたちによる有機的な形態で独自の画風を確立し、20世紀を代表する芸術家として大きく評価されている。また日本でも1930年代から作品が紹介されたり、世界に先駆けてモノグラフ(単行書)が出版されるなど、早い段階から活動に注目してきた。しかしミロ自身が若い頃から日本に憧憬を抱き、2度の来日を果たしつつ、文化に造詣を深めていたことは、必ずしもよく知られていない。
Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の『ミロ展 ― 日本を夢みて』は、浮世絵をコラージュした初期作から日本で初めて展示された作品、さらにアトリエにあった日本の民芸品や批評家の瀧口修造との交流を示す資料を通して、ミロと日本の関係についてひも解いている。若きミロが過ごしたバルセロナは空前のジャポニスム・ブームに湧いていて、ミロのみならず多くの人々が日本の美術工芸品に熱をあげていたが、単純に「ミロが日本に憧れていた」ことに留まらず、アトリエの調査などを通して、どのような日本の文物がミロの手に渡り、どういった日本の文化人らと関わっていたのかを具体的に検証している。
戦時中、陶芸家の友人のアルティガスを通して日本のやきものに夢中になったミロは、大津絵やこけし、郷土玩具などにも心を惹かれていく。さらに1950年代に入って日本のコレクターや美術家らがミロを訪ねると、日本人と交流する機会も増えていった。こうして浮世絵から俳句、書や民芸にまで深く関心を寄せたミロは日本への旅を夢見はじめると、1966年に東京と京都の2つの国立近代美術館で開催された『ミロ展』に合わせて初めての来日を果たす。そこで世界初のミロの本を出した瀧口修造との面会し、京都や奈良の寺や信楽や愛知の窯元を見学したほか、書家らと親交。各地の博物館をめぐるなど2週間過ごしている。その3年後には、大阪万博のガスパビリオンより依頼された壁画の設置の確認のため、再び日本へとやって来ている。実に76歳の時のことだった。
「東洋的なものには、何か血のつながりでもあるかのように全てに魅力を感じます。だから私は日本が好きなんです。」と語ったミロ。それでは一体、日本の文化がどのような影響を与えたのだろうか。実は日本の書画や史跡を明らかに参照した作品は多くはない。しかし墨のにじみやはねを試すようなドローイングや巻子の形式を用いた作品や、来日以降、書家との交流の影響を滲ませるような激しい筆致の太い線が増えていったことなどから、ミロがジャポニスムの表層をすくったのではなく、文化そのものを咀嚼して独自の境地へと達したことが分かる。展示された作品と資料は約130点。56年ぶりに来日したマドリードの傑作『絵画(カタツムリ、女、花、星)』をはじめとした国内外の代表作も見応え十分だ。ミロの作品に其処彼処に見え隠れする「日本の影」を探しながら、国内では20年ぶりとなる回顧展にじっくり向き合いたい。
『ミロ展 ― 日本を夢みて』
開催期間:2022年2月11日(金・祝)~4月17日(日)
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時
※金・土曜日は21時まで。入館は閉館の30分前まで
休館日:2/15(火)、3/22(火)
入場料:一般¥1,800(税込)
※会期中すべての土日祝および4月11日(月)~4月17日(日)はオンラインによる日時予約が必要。また臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_miro/