2月4日に開幕した北京・冬季五輪。イギリスの公共放送局であるBBCは、合計300時間以上のライブ放送に加え、ハイライトやオンラインでの後追い配信等を行う予定だ。
開幕に先立ち、BBCの北京・冬季五輪公式トレーラー「エクストリーム・バイ・ネイチャー(真の極限)」が公開された。この40秒間のアニメーション映像が「かっこいい!」「斬新!」と注目を集めている。
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映像はまず、暗闇の中に置かれたアイスキューブ(氷)を映し出す。氷がゆっくりと割れ、スピードスケーターが現れる。
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映像が進むと、フィギュア(人物)がプレイする競技はスケルトン、カーリング、スキー、スノーボード、そしてフィギュアスケートへと変化していく。
最後に氷が割れ、ウィンタースポーツのアスリートを象徴するような氷の像が現れてフィニッシュ!という構成だ。
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キューブの中に現れる氷とスピードの世界
本作はポリマー素材で作られた3Dプリントを使用し、ストップモーション・アニメーションの手法で製作された。キューブの中に「雪」と「氷」そして「スピード感」と「美しさ」という「エクストリーム(極限・究極)」を封じ込めている。また本物の雪や氷を一切使用していないにもかかわらず、選手が戦う「零下の世界」の過酷さを饒舌に伝えている。
監督を務めたのはアニメーションスタジオ「Blinkink」のバラ―ジ・サイモン 。「クリエイティブレビュー」の取材に対し、次のように語っている。
「冬季オリンピックは、(雪と氷の世界という)普段の生活とは異なる環境で競技が行われます。このプロジェクトの話をもらった時、(アスリートたちの)ひたむきさをどう描き、どう活かせばよいのかを自問しました。(競技する)彼らが氷と雪の中で生まれ、そこから飛び出していく姿を描きたかったのです」
全編を貫くスピード感は、考えつくされたカメラワークによる効果だ。3Dプリントされた各シーン(場面)とコントロールリブによる動きを複雑に組み合わせることで実現した。カメラはフィギュアに寄ったり離れたり、俯瞰したりとアングルを変え、キューブもクルクルと回転し常に動き続ける。アスリートが体験している疾走感を視聴者にダイレクトに伝える工夫が凝縮された映像と言えるだろう。
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指摘されている2つのポイント
このように称賛されている「エクストリーム・バイ・ネイチャー」だが、複数のメディアが開催地である中国・北京を彷彿とさせる箇所がないことを指摘している。
冒頭に流れる銅鑼の音と全編に流れる太鼓の音に“やや”「中国」の香りは漂うが、過去の五輪トレーラーのように、開催国の魅力をダイレクトに伝える内容になっていない。
過去のトレーラーと改めて見てみると、
なるほど、過去の作品は開催国の色を反映した映像になっていることが分かる。現在の中国との政治的・社会的緊張感を考慮した演出になっていることは確かだろう。もうひとつは「盗作疑惑」という穏やかならぬ指摘だ。
「キャンペーン」によると、ロンドンにあるアニメーションスタジオ「This Thing of Ours」は、2020年2月が同社製作した「サブ・サーフェイス」との類似性を主張している。
「This Thing of Ours」の広報担当者は、下記のようにコメントしている。
「2020年3月、我々は冬季オリンピック広告のアプローチとして、ラフなストーリーやアートディレクションを含め、『サブ・サーフェイス』を積極的にBBCに売り込みました」
「BBCにアイデアを提示したにもかかわらず、その後ピッチ(売り込みのためのプレゼン)にさえ呼ばれなかったことは非常に不公平なことだと思います」
物々しい事態に発展する可能性がある指摘だが、この疑惑についてBBCは「キャンペーン」の質問に回答。「『This Thing of Ours』がアプローチした部署と、『エクストリーム・バイ・ネイチャー』製作部署は異なる」「アイデアの類似は珍しいことではない」等の説明と共に完全否定している。
またサイモン監督が所属する「Blinkink」のエグゼクティブプロデューサーであるバート・イエーツは、リサーチ段階において他の多くの作品と同様「サブ・サーフェイス」を参考にしたことは認めたものの、サイモン監督が(「サブ・サーフェイス」製作以前の)2017年にディレクションしたミュージックビデオと「サブ・サーフェイス」との「コンセプトの類似性」について逆指摘をし、今回の「盗作疑惑」を否定している。
この盗作疑惑はイエーツの説明で泥試合になることなく終息しそうだ。
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