新たな道を拓いてきた人物の“オルタナティブ魂”を見よ
1960年代以降の日本のアート・デザインの制作現場を牽引すると同時に、多くの作家を紹介し、支える活動も展開してきた小池一子。彼女の仕事を紹介する展覧会が開幕した。会場には、小池はもちろん同時代の表現者たちの情熱があふれている。
「ものづくりの仕事はかけ算」。小池一子が著書に記していた言葉だ。同じ本には次の記述もあった。「価値観が共有できる人と何かを生み出すということ。それが私にとって最も楽しいことであり、生活の基本なんです」
多くのかけ算を続けてきた本人のエネルギーに触れることのできる本展。その開幕直前に本人が語ってくれた。「私自身がわくわくし、これはなに? と好奇心をかき立てられるのがアートだと信じています。誰かと目にしたい、真価に出合える機会をつくりたいと、欲望に突き動かされてきました」
展覧会名にも掲げられた「オルナタティブ」に目を向ければ、1983年に小池が設けた佐賀町エキジビット・スペースがまさにオルタナティブな場であった。27年に建てられ米市場の拠点となってきた「食糧ビル」をアートの場とした活動は17年にわたり続けられ、近代遺産となる建物の活用方法としても先鞭をつけ、注目を集めた。
「当時の日本の美術館では、まだ蛹のような新進作家を迎え入れる状況はまれでした。彼らに寄り添い、伴走し、海外にも紹介できる場を設けたいと思いました。個人の責任で始動することで、既存の制約からも自由となった場がつくれないだろうかと考えました」
「美術館でも商業ギャラリーでもない、第三の現場」としてのもうひとつの選択肢、新たに拓かれる道。従来の価値観の枠にとらわれないオルタナティブは、社会に向けた勇気とともに現実のものとされてきた。
こうした活動が今回、ふたつの軸のもとに紹介される。ひとつが、編集、執筆、翻訳、キュレーションなどの立場でかかわった作品。コピーライターとして発案・企画から携わった無印良品など、多くの出会いを通し、優れた才能をつなぎながら新たな価値を創造してきた「中間子」としての動きだ。
もうひとつは「佐賀町」で、佐賀町エキジビット・スペースの活動で見出してきた作家から20作家にフォーカス。91年に披露された内藤礼の作品など約40作品が改めて紹介される。30年以上前に佐賀町での上演作品をつくりあげた巻上公一が再びパフォーマンスを行うのも、本展ならでは。
「古くからの友人の作品を改めて目にし、広く知られていないことや重要だと思う点を大切にしました。新たな発見をしていただけると思います」
会場の3331 Arts Chiyodaを統括する中村政人、グラフィックや会場構成を手がけた菊地敦己など、小池に刺激を受けた若い世代が本展準備に結集している様子も興味深い。映像ディレクターの小松真弓は小池の人物像に迫った映像作品を披露するなど、美術大学で小池に師事した者たちも集った。
「私たちは交差点に立っているのだと、しばしば考えます。先祖や親から続く縦の関係だけでなく、出会ってきた人々とのつながりとなる横の関係があり、そうした横の連なりこそが、人生。作家のガートルード・スタインが36年にパリとアメリカの文化を記した一冊は『みんなの自伝』でしたが、本展もみんなと、ともに時代をつくってきた証しとなるものです」
『オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動』
開催期間:2022年1/22~3/21
会場:3331 Arts Chiyoda
TEL:03-6803-2441
開館時間:11時~19時 ※入場は閉場30分前まで
休館日:無休 ※sagacho archives(B1F B110)の内藤礼作品は月曜と2/22~23休廊
料金:一般¥1,000
※開催の詳細はサイトで確認を
※この記事はPen 2022年3月号より再編集した記事です。