英国を代表するブランド、ポール・スミスが2021年12月、東京・銀座にメンズの旗艦店をオープンさせた。ファーストラインのポール・スミスに加えて、ディフュージョンラインのPS ポール・スミスのカジュアルウエア、靴やバッグなどのアクセサリーが揃う。
地下1階にあるのが、スーツのオーダーサービス「メイド トゥー メジャー(Made to Measure)」の常設コーナー。イラストレーターやデザイナー、文筆業や俳優業などいくつもの肩書をもち、多方面で活躍するリリー・フランキーがオープンしたばかりのショップを訪れ、ポール・スミスらしい英国的なスーツのオーダーを愉しんだ。
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“男を育ててくれる街”、銀座に完成した旗艦店
ポール・スミスがメンズの旗艦店を構えたのは、東京でも不動の人気を誇るエリア、銀座だ。晴海通りと並木通りの交差点に面した角地という最高のロケーションで、地下1階から2階まで3フロア構成のショップである。
1階はインテリアデザイナーのピエール・シャローの代表作「ガラスの家」に着想を得た内装で、シーズンごとの注目商品が並ぶ。2階はPS ポール・スミスを含め、最新のカジュアルアイテムを集積したフロアだ。
ショップを訪れたリリー・フランキーは、20年にわたり代官山にあった事務所を先日銀座に移したばかり。
「代官山では自分が年長者になってきていると思い、これはよくないなと銀座に引っ越したんです」。食事をするにしても買い物に行くにしても最近はほぼ銀座。銀座で呑むと、かなりの確率で自分がいちばん年下になると笑う。
「男の人を育ててくれる街、それが銀座。ハードルの高さ含めてね。そこを越えた時の心地よさは格別です。ロンドンとか京都とかもそうでしょう」と街の魅力を語る。
「この店は銀座の街にマッチしていると思いますよ。特に晴海通りは英国っぽいというか、ちょっと質実とした街でしょう。あんまりチャラチャラとしたところがないのでポール・スミスの路面店もよく馴染むかと。銀座にあるポール・スミスという意味合いでは、この地下のテーラーな感じがとてもいいですね」とリリー。
地下1階はスーツのオーダーサービスであるメイド トゥー メジャーのコーナーを常設するフロア。このメイド トゥー メジャーとは、定評あるポール・スミスのスーツを、人それぞれのスタイルに合わせられるサービス。落ち着いた雰囲気の中で採寸からフィッティングまでゆったりとオーダーを愉しめる。ファッションから老舗の飲食店まで軒を並べる銀座らしい取り組みといえる。
自分らしいスーツが楽しめるポール・スミスのメイド トゥー メジャーだが、ハードルは決して高くはない。人気のある「KENSINGTON(ケンジントン)」、「SOHO(ソーホー)」、「NEWFIT(ニューフィット)」他、シルエットの異なる6つのフィットが用意されている。オーダーの際は希望するモデルのサイズサンプルを着用し、ていねいに採寸してもらい、その後に素材やボタン、裏地などのディテールを選ぶ仕組み。ポール・スミスの場合は、襟の裏側の色まで選択可能だ。
素材はドーメル、サヴィル・クリフォード、ゼニア、ロロ・ピアーナなど、英国やイタリアの良質な生地を100種類以上取り揃えている。裏地(ライニング)もポール・スミスらしいプリント柄やアーカイブのプリント柄まで用意され、価格は¥154,000(税込)〜。約1〜2カ月でポール・スミスらしく、なおかつ自分仕様のスペシャルなスーツが完成する。
今回、リリー・フランキーがスーツをオーダーする際に思い描いたテーマは「英国」だ。果たしてどんなスーツが出来上がったのだろうか。
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リリーが注文したスーツのテーマは「英国」
「ラペルやポケットの付け方からベンツの割り方まで、英国らしさを結晶化させたらこのカタチになったという感じ。でも着てみると意外にシンプル。そんなにクラシカルな感じがせず、とても気持ちいいスーツに仕上がりました」
今回、リリーが選んだモデルは「NEWFIT」。やや長めの着丈でドロップショルダー。ゆったりとしたシルエットにラペルのデザインはクラシックなピークドラペルで、英国らしく3つボタン。脇ポケットの上にチェンジポケットも付けた。一緒にベストも仕立て、スリーピースで着用できるようにと考えた。生地選びはオーダースーツの醍醐味といえるが、リリーが選んだのはイタリアの老舗ゼニア社製の素材。しかも同社のなかでも最高級の「15milmil15(クインディッチ・ミルミル・クインディッチ)」と呼ばれる逸品だ。
「ポール・スミスのスーツをゼニアの生地でつくる。お前の実家はイギリスの田舎のお城か、という贅沢な遊びをさせてもらいました(笑)。いいですよね、この生地。肌触りとか、品のいい光沢とか。オーダーなら、こういうことができるんだなと実感しました」
「掛けてあるスーツを目にした時、カタチも素材も本当に綺麗な服だなと思いました。着てみると、袖丈とか、パンツの丈とか、自分用につくられたことをさらに実感できました。サイズはもちろんパンツのダブル仕立ての幅など、これが自分にとってベストでしたね」とリリーは感想を話す。そして、驚いたのがその着心地だ。
「張るところもなければ、余るところもない。こうしてオーダーでつくると、着る時のストレスがまったくないんです」
細かく採寸し、それに合わせて仕立てているので、袖丈やパンツの長さもジャストサイズで着こなせる。袖口はオーダーのスーツらしく本切羽の仕様に。裏地はいろいろ用意された中から鮮やかなグリーンを選び、内側に「Lily」と名前を刺繍した。
「ウチの親父も着道楽だったので、オーダーしたワイシャツとかスーツには、必ず名前が入っていました。でもたとえばこのスーツをお店に忘れた時に、『中川(リリーの本名)』と入っていたら、店の人が僕のスーツだと気付いてくれるか疑問だったので、Lilyにしました。ちょっと気恥ずかしかったけど(笑)」
リリーが今回のメイド トゥー メジャーでいちばん悩んだのが、実はボタンや裏地の選択だ。
「グレーの生地がすごく美しかったので、この茶のボタンにしたんです。普通のグレーだったらもっと黒っぽいものにしたでしょう。裏地のグリーンもやり過ぎてなくていいと思いました。オーダーする場合、服の“品”をどうつくっていくか。それが出来上がるまでが愉しみ。次はああしたい、こうしたいとか、一つひとつ覚えていくでしょうね。その経験を重ねることでスーツが上手く着られるようになっていくと思います」
リリーはさっそく出来上がったスーツを着用して、用意してきた英国紳士らしいボーラーハットを被って銀座の街を歩く。ウィンドウに映ったスーツスタイルを自分で採点するとしたら?と尋ねると、「スーツは100点満点でしょう」と笑う。
「ここでスーツを仕立てるということは、またそれを着て銀座に来るということ。銀座で老舗を巡って、最終的にはホステスさんにぼったくられる(笑)。数百メートルの範囲の中で、男が日々成長し、頑張らなくてはいけない街が銀座です。スーツの着方にしても、お酒の呑み方にしても同じこと。それが粋とか嗜みとか、英国でいえばジェントルな生き方ということでしょうね」
オーダーのスーツを着ることは、単なるファッションではなく、生き方そのものであることを、リリー・フランキーは語ってくれた。
ポール・スミス 銀座店
住所:東京都中央区銀座4-3-10 銀座中央ビル B1-2F
TEL:03-3564-5566
営業時間:11時〜20時
定休日:水曜不定休
www.paulsmith.co.jp
※営業日時・内容などは変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。