動物依存の食習慣からの脱却を提唱するチリ発フードテックのNotCo社が南米から北米、そして世界へと躍進中だ。牧畜による土地利用は地球の全面積の1/4におよぶといわれており、それにまつわる水の過剰使用、森林伐採、CO2排出などは、環境への負荷が大きい問題として長らく懸念されている。この状況を変えるべく、2015年にNotCoを創設した共同創始者3人は、独自に開発したAIのアルゴリズムに基づく調合で植物由来の素材をつくるヴィーガン食品を発表し、販路を拡大してきた。
創始者のひとりにしてハーバード大学応用コンピューター科学研究所所属の研究員でもあるカリン・ピチャラが開発したAIの名前はジュゼッペ。16世紀に果物や野菜などを寄せ集めて風変わりな肖像画を描いて名を馳せたミラノの画家ジュゼッペ・アルチンボルドにちなんだ命名だ。
多様な食品・食材の分子特性のデータを保有するAIジュゼッペは、さまざまな植物由来の食材から、肉や乳製品などの動物由来の食品に、味ばかりでなく、食感や色までよく似た食品を製造することが可能だという。消費者から味わう楽しみを奪わないために、動物由来の食品に似た商品をつくることは大切だそうだ。
この革新的なフードテックに太鼓判を押したのがAmazon創始者にして目下、世界長者番付No.1のジェフ・ベゾスだ。ベゾスは、NotCo社の環境保護に対する試みに加え、同社製造の卵不使用マヨネーズ「NotMayo」の味を気に入り、2019年に家族投資会社Bezos Expeditionsを通じて、南米発となる投資を行った。ベゾスの他にも、かねてから健康食を推奨するツイッターの共同創業者ジャック・ドーシー、テニス・プレイヤーのロジャー・フェデラー、F1レーサーのルイス・ハミルトンなどもNotCo社に投資している。
AI調合による食品とは実際にいかがなものか? NotCo社が拡販を狙う南米一の市場である、ここブラジルのサンパウロ市でも目抜き通りパウリスタ大通り近辺の複数のスーパーマーケットで商品を購入することができたので、実際に味わってみた。
まずは、ベゾスもお気に入りというNotMayo。ややさっぱりしているが、卵不使用と知らなければ、市販の通常のマヨネーズと変わらない舌触り。ブラジルのマヨネーズにはオイリーで酸味の弱いものが多いので、むしろ味のよさから選びたい一品だ。
続いてアメリカでも4100件のストアで販売されているという牛乳でないNotMilk。入手できたのは脂肪分0.8%のレビッシモ(超ライト)タイプ。非遺伝子組み換え大豆の他、ココナッツ油、パイナップジュース、キャベツジュース、炭酸カルシウムなど多様な食材で調合されている。
デザートには牛乳不使用のNotIceCreamチョコレート味。製造から日が経っていたためにパッケージ内に氷が付着していた点はいただけないが、低温の食品であるゆえに、通常のチョコアイスと変わらぬ味わいだ。いずれも価格は動物由来の同等の商品の倍以上だが、代替食品としては申し分ない。
この他、肉不使用のNotBurger、NotMeat、NotChikenなどチリ本国では36種の商品を販売している。さて、チリといえば、1960年代後半から日本の技術協力を受けた養殖により、ノルウェーに次ぐ世界2位のサーモン輸出国(2019年度の生産量:989546トン)となったことで知られる。寿司や健康食のブームにより拡大したサーモンの養殖産業は、チリ南部に破壊的な海洋汚染をもたらしているとCEOのひとり、マティアス・ムクニックは語っている。海洋資源の保護のためにマグロやサーモンの代替食品の必要性を訴え、NotSalmonの製作にも取り組む予定だそうだが、日本人には少々耳の痛い話だ。
NotCo
https://notco.com/