世界最大級の動物福祉団体「ヒューマン・ソサエティ・インターナショナル(HSI)」(本部・アメリカ)は、動物を守るための様々な取り組みを行っている。その中の1つが「コスメ関連商品の動物実験をなくそう」というキャンペーンだ。このキャンペーンの本質を分かりやすく伝えるため、HSIは短編アニメーション『Seve Ralph(ラルフを救って)』(2021年)を製作した。
昨年4月にSNSで公開されると、動物福祉という観点だけでなくアニメーション作品としても高く評価され、幅広い視聴者を獲得。アメリカ本国版(英語)に加え各国版(字幕付き)も公開されているが、2022年1月現在、HSIアメリカのYouTubeチャンネルでは約1385万再生を記録。アクセス数が伸び続けている。
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動物実験のために生まれたウサギが主人公
主人公はウサギのラルフ。彼のドキュメンタリーというスタイルで話は進む。冒頭のシーンで自己紹介とともに「右目が見えない」「右耳は一日中“キーン”と鳴っている」ことを少しコミカルな口調で語る。
そして物語が進むうちに、ラルフは動物実験のために生まれた「テスター」であり、彼と仲間たちの残酷な実験に耐える日常が描かれる。
全3分53秒の作品を見終わった後、背筋が凍り、言葉を失い、しばし考えこんでしまう―― それがこの作品を見た多くの人たちの反応だろう。
コスメ関連商品にはメイク用品だけでなく、シャンプーや日焼け止めなどのトイレタリー商品も含まれる。こうした商品の多くは、開発段階で動物実験が行われる。その事実を遠くに知っていても、あまり深く考えるチャンスもなく気にせず購入してしまう人は多いだろう。しかしこのアニメーションを一度見てしまったら、今までのように「何も考えず」に商品を購入することは出来なくなる。
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豪華な製作チーム&キャストにも注目
多くの人の心にインパクトを残すこととなった『Save Ralph』だが、その製作・出演陣の豪華さでも注目を集めている。
ストップモーション・アニメーションの技法で製作された本作。脚本と監督はスペンサー・サッサー(映画『メタルヘッド』)が務め、パペットとセット製作はウェス・アンダーソン監督作の『犬ヶ島』『グランド・ブタペスト・ホテル』などのパペット製作で知られるアンディ・ジェントと彼が率いる「アーチ・モデル・スタジオ」が担当した。
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ウサギの毛の手触りや目の充血具合等、あまりにリアルなパペットに加え、細部まで作りこまれたセットに目を奪われる。「クリエイティブ・レビュー誌」によると、製作期間は1年。パペット製作に15週間を要し、セット製作に6~8週間、撮影に50日を費やした。
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ラルフの声を演じたのは映画『ジョジョ・ラビット』の監督&出演で知られるタイカ・ワイティティ。
悲惨な日々をどこかコミカルに、そして達観したように語るラルフだが、この難役をワイティティならではの“シルキーボイス”で演じている。脇を固める声優陣もザック・エフロン、リッキー・ジャ―ヴィス、オリヴィア・マンと豪華だ。
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動物実験がなくならない現実を変えるために
HSIによると、現在40カ国でコスメ関連商品の動物実験が禁止されているが、(動物実験が禁止されている国でも)化学物質に関する法律を利用し、新たな動物実験を要求する傾向が高まっているという。
この現状を変えるためのキャンペーン映像として製作された本作。しかし普段「動物福祉」と無縁に生きている人々の心にもしっかりメッセージが届いた。
アートが生み出す影響力の好例として今後も語られるだろう。
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「Save Ralph」本編映像はこちらから
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