去年の連載では、私たちの行動喚起に結びつくインクルーシブなビジュアルに関して考えてきました。
今年の連載でも引き続きビジュアルを通して、日常的に遭遇するステレオタイプ(固定概念)をどうやって打破することができるのか、さらには、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)にどうやって対処するべきか、Getty Images で定期的に行っているVisual GPS 調査の最新の結果に基づいてお話ししたいと思います。
現代におけるステレオタイプの理解は、アメリカのジャーナリスト、ウォルター・リップマンが書いた1922年に出版した『世論』の中に登場する「ステレオタイプとは」という文章に由来しています。
ステレオタイプとは、私たちが「頭の中で描く」特定のグループの人々の姿。そのグループの属性や特徴を、先入観に基づいて一般化することです。ステレオタイプは、私たちが見たり、聞いたり、経験したりすることによって形成され、家族、友達、教育、メディア、生まれ育った環境など、さまざまな社会的影響を通じて教えられたり、強化されたりします。
たとえば、男性がリーダーやスーパーヒーローとして描かれる、女性が家事や育児をする「主婦」として描かれる、体の大きな人がダイエットをしている、LGBTQ+がカップルとして描かれる、高齢者が介護を受けている等は、もっとも顕著な視覚的ステレオタイプの一部と言えます。
Getty ImagesのVisual GPS調査の最新結果によると、世界の消費者10人中8人が「多様な人のビジュアルを見ることは良いことだ」と回答しました。しかし、さらに質問すると、同じ割合で「見慣れないビジュアルよりも、見慣れたビジュアルを見ることに安心感を覚える」と回答しました。つまり、私たちは常に見慣れたものを選び、見慣れないものを本能的に疑うようです。 フェイクニュースやコンテンツの過飽和を背景に、私たちは日々目にするステレオタイプに知らず知らずのうちに影響を受け、自分の好みや、特定の社会規範に基づく無意識の偏見を蓄積しているのです。
特定の人やグループをステレオタイプ化することで、ステレオタイプに当てはまらない人に対する私たちの認識を歪め、公平に、偏りなく、客観的に物事を捉える力を妨げ、無意識の偏見を生み出し、それが私たちの毎日に影響を与えていると言えます。
もう一点興味深い調査結果は、世界の消費者3人中2人は、他人が自分に対して偏見を持っていると感じるが、自分自身が偏見を持っていることは認めてないと回答した事です。 たとえ自分では気づいていなくても、私たちは皆、偏見を持っていると言えます。
偏見はどのように「感じられる」のでしょうか? Visual GPSによると、偏見は、性別に関係なく消費者の3分の2が感じており、体型や年齢が理由として最も多いという結果が出ました。中でも若い女性では、5人中4人が偏見を感じたことがあり、その理由の大部分が体型、特に「体重が重いこと」でした。
Getty Images ではさらにLGBTQ+コミュニティのビジュアル化と偏見の度合いの関係性について調べたところ、LGBTQ+コミュニティのビジュアル表現の頻度が高い地域ほど、LGBTQ+コミュニティにおける偏見が少ない傾向にあることもわかりました。
目に見えるからこそ、見識が深まる、ということ。しかし、以前の記事にも書きましたが、広告にLGBTQ+が登場する場合、使用されるビジュアルは、フェミニンな男性、マスキュリンな女性、レインボーフラッグといった、ステレオタイプに限定されていることが多いのが現状であることも知っておかなければいけません。このような表現は実際のコミュニティの一部を表している、と言えますが、これらのビジュアルは使い古されてインパクトを失っています。お決まりの表現に加えて、新しいストーリーを伝えることがますます重要になってきます。
この調査では、1つ以上の偏見を経験した人は、さらにいくつかの偏見を経験していることもわかりました。人は皆、複数のアイデンティティを持ち、それらが重なり合うことで、差別の経験が形成されることが多いのです。私たちは、視覚的な表現を見るときに、交差するアイデンティティのあらゆる側面を考える必要があります。
この記事に使用したビジュアルに映る人々を上から順に見ていきましょう。
1.赤ちゃんのおむつを替えるアジア人男性。男性の幅広い感情や行動を描写し、男性が自分自身や他人を労わり、思いやりを持って行動している姿が描かれています。
2.オフィスで打ち合わせをするシニア層のビジネスウーマン。年齢を重ねることの意味を再定義し、よりリアルなシニアの姿が描かれています。
3.米国に住むイスラム女性とその友人がラマダンで断食明けに食べる最初の食事を楽しむ様子。様々なバックグランドの人々が(なかにはアフロ・ラティーノ系と自認する人も含まれている点も特徴です)自然な姿で、普段の生活をしている様子が描かれています。
4.インド系シンガポール人の若い女性。体型を理由にダイエットをするビジュアルではなく、生き生きと仕事をしています。
5.ニュージーランドに住む白人とパシフィックアイランダーのLGBTQ+カップルが日常生活を送る様子。プライド月間や二人の恋愛関係の先にあるものが見えてきます。
6.不動産屋に新居を案内されるカップル。ダウン症であるということが焦点ではなく、彼らの日常生活が映し出されています。
このように偏見を逆転させ、理解することで、「このような人はこうあるべきだ」という私たちの偏見を変えるのに役立つと言えます。
下記は、これから先、広告やメディアにおける多様性を検討する際のチェックポイントです。
・年齢、階級、体格、民族性、性自認、障害、セクシュアリティなど、交差するアイデンティティの要素を超えて、あらゆる形の多様性を示しているでしょうか?
・ステレオタイプに挑戦しているでしょうか?
・あなたの知っている人たちを表現しているでしょうか?
日々目にする広告などで、多様性が正確に表されていると感じる消費者は、わずか14%です。
私たちの社会と人々がいかに多様で多次元的であるかを認識することが重要です。社会の中でつながりを持つことは、代表的でない人たちを見ることであり、私たち一人ひとりをユニークにしているものを理解することです。さらに、これまで疎外されてきたグループが可視化されることで、現在そして将来にわたって偏見を減らすことができるはずです。
Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。