「普通には思いつかない考え」や「奇抜な着想」を意味する奇想。ファッションの世界においても斬新なアイデアを取り入れ、センセーショナルな美の表現を生み出したアーティストたちがいた。そうした「奇想」をテーマとして、16世紀の歴史的なファッションプレートからシュルレリスム、そしてコンテンポラリーアートまでを見ていこうとする展覧会『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』が、東京都庭園美術館にて開かれている。
まずアール・デコ様式の華麗な本館に展示されたのが、サルヴァドール・ダリやマン・レイといったシュルレアリスムの作品だ。そもそも20世紀最大の芸術運動であったシュルレアリスムは、文学や美術、映画だけでなく、モードの世界にも大きな影響を与えていて、それまでのファッションの文脈では使われなかった素材やモチーフなどが次々と採用されていく。またシュルレアリストたちも、1938年に開催した『シュルレアリスム国際展』にて、16体のマネキンをマックス・エルンストやダリが飾り立てたりするなど、両者は密接ともいえる関係にあった。ジョルジョ・デ・キリコがマネキンを絵画のモチーフに取り入れていることもよく知られている。
こうしたシュルレアリスムに共鳴したのが、ココ・シャネルのライバルでもあったエルザ・スキャパレッリだ。コクトーやダリとコラボレーションしてシュルレアリストと交流のあったスキャパレッリは、例えばだまし絵の要素を取り込んだセーターや、強烈なインパクトを与える「ショッキングピンク」を考案し、奇抜なアイデアを取り入れたデザインで名を馳せた。そして会場でも庭園を望んで円形を描く張り出し窓が特徴的な大食堂を、スキャパレッリのブローチや香水瓶、それにドレスなどが美しく彩っている。この他、西洋のコルセットや中国の纏足、それに遺髪を入れたイギリスのジュエリー、また蝙蝠や蛇などを象った日本の帯留なども見どころだ。
一方でホワイトキューブの広がる新館の展示室では、『ハイブリッドとモード』と題し、舘鼻則孝や永澤陽一、串野真也といった現代で活躍するアーティストを紹介している。そのうち花魁の高下駄からインスピレーションを得た『ヒールレスシューズ』で人気を集める舘鼻は、岡本太郎へのオマージュとして制作した作品などを展示。串野真也と尾崎ヒロミ(スプツニ子!)によるアートユニット「ANOTHER FARM」は、遺伝子組み換えによって発光体になったシルクが西陣織によりドレスに仕立てた作品を公開していて、ブラックライトの闇から眩く神秘的な光が放たれている。シュルレアリスムを超えて、アートと交歓するように展開してきた最先端のモードを体験できるのだ。
『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』
開催期間:2022年1月15日(土)~2022年4月10日(日)
開催場所:東京都庭園美術館(本館+新館)
東京都港区白金台5-21-9
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月。ただし3/21は開館し、3/22は休館
入場料:一般¥1,400(税込)
※オンラインによる日時指定制。臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.teien-art-museum.ne.jp