ソニア パークがオーナー兼クリエイティブ・ディレクターを務めるアーツ&サイエンス。東京、京都に続く福岡店が、市内中心部の閑静な住宅街にオープンした。店舗の前にある公園内には福岡市美術館が立つ。その外壁に用いられた赤茶色のタイルをモチーフにした工芸的な美しさを宿すインテリアで、アーツ&サイエンスのもつ世界観を巧みに表現している。
内装を手がけたのは、空間デザイナーの二俣公一が主宰するケース・リアルだ。二俣は建築学科を卒業してすぐの2000年に、福岡で事務所を設立。老舗和菓子店「鈴懸」をはじめとする地元企業の店舗設計で注目されて以降、東京にも拠点を構え、商業施設から個人住宅まで幅広く設計に携わっている。こうした空間デザイナーとしての活動に加え、13年に立ち上げたプロダクトデザインを軸とする二俣スタジオでは、E&Yをはじめ、アルテックや天童木工といった国内外の著名ブランドと協働。独自のスタイルで建築とプロダクトの垣根を超えた制作を続けてきた。
作品の多くに共通するのは、機能美が際立つミニマルなデザインだ。木や天然石、金属など素材の差異でニュアンスを生みながら、什器類など細かなディテールまでていねいにつくり込んだ空間は、デザイン自体が主張しすぎず、落ち着いた空気感が漂う。福岡と東京というふたつの軸を置きながら、新しい挑戦に挑み続ける二俣。個性が光るデザインに全国から熱い視線が注がれている。
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ケースリアルが携わってきた代表的な建築
【Keyword1:和の要素を活かした空間演出】
木材や土壁、漆喰など、和を感じさせる要素を取り入れた空間演出を得意とする二俣。蔵を改修した「ミルクブリューコーヒー」では、既存の白漆喰や土壁、小屋組みを残しつつ、人工大理石製のソリッドな什器類で新旧が融合する場をデザインした。
【Keyword2:異素材の調和】
質感を大切にする二俣が好んで使用するのが、木、天然石、金属といった、時間とともに風合いが変化する“無垢”の素材。複数の店舗設計に携わるイソップをはじめ、ひとつの空間に異なる素材を馴染ませながら、各ブランドの世界観を表現している。
【Keyword3:静穏の美学】
「DDDホテル」では、深みのあるモスグリーンを取り入れた客室や、黒とグレーを基調にしたキッチンスペース「ノル」など、館内すべての設計を担当。デザインしすぎないミニマルで色調を抑えたインテリアは、多くの作品に共通する特徴のひとつ。
CASE-REAL
代表の二俣公一は1975年、鹿児島県生まれ。2000年に福岡を拠点とするケース・リアルを設立。05年に東京オフィス、13年にプロダクトデザインに特化する二俣スタジオを開設。作品はサンフランシスコ近代美術館の永久所蔵品にも選出。
※この記事はPen 2022年2月号「日本の建築、ここが凄い!」特集より再編集した記事です。