『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の"3つの魅力"を【ネタバレあり】で解説!

  • 文:SYO
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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は1月7日より全国の劇場で公開中。©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

日本公開から、2週間弱。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が、期待を上回る大ヒットを記録している。公開週の4日間で興行収入16億9000万円超を叩き出し、コロナ禍(2020年1月~)での実写映画No.1のヒットスタート。1月17日までの累計では動員170万人、興収26億円超を記録している。そして、世界興収は16億ドルを突破。これはなんと、歴代8位の数字だ。まだまだ勢いは衰えず、この先どこまで数字を積み上げられるか気になるところだ。

Pen Onlineによる全2回の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のレビューを、今回は「ネタバレあり」でお届け。本作の概要やあらすじは前回の「ネタバレなし」記事を参考にしていただき、ここからはいきなり中身の話をしていこう。未見の方は、ぜひ観賞後のお楽しみにとっておいていただきたい。

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ノー・ウェイ・ホームの魅力① "3人の共闘"と過去シリーズを踏まえた仕掛け

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魔術師ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)の呪文がきっかけでマルチバース(多次元宇宙)が発生。過去シリーズのヴィラン、そしてスパイダーマンたちが現れる。©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の魅力は数え切れぬほどあるが、本稿では大きく分けて3つのポイントに絞って紹介したい。まず一つ目は、言うまでもなく最大の“泣きどころ”でもある、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドの3人のスパイダーマンによる共闘。しかも、シリーズファンなら感涙せずにはいられない仕掛けが無数に施されている。

大きなものだと、高所から落ちたMJ(ゼンデイヤ)をピーター(アンドリュー・ガーフィールド)が救うシーン。これは『アメイジング・スパイダーマン2』で最愛の恋人グウェン(エマ・ストーン)を同シチュエーションで救えなかった後悔と失意に対する“救済”だ。

さらに、トビーとアンドリューの先輩スパイダーマン2人が、トム版スパイダーマンに「ヒーローの生きざま」を伝える展開。どちらも大切な人を失い続けたからこそ、メイおばさん(マリサ・トメイ)を殺され、復讐の鬼と化そうとする“後輩”を諭す、最大の理解者となる。メイの今際の際の言葉が「大いなる力には大いなる責任が伴う」という『スパイダーマン』の名ゼリフという演出も、涙を流さずにはいられない。

細かな部分においても、トビーがアンドリューを「君はアメイジングだ」といじったり、『スパイダーマン2』の小ネタ「Oh my back」が本作で回収されたり……(力を失ったピーターがビルとビルの間をジャンプし「戻った!(I‘m back)」と喜ぶのもつかの間、地面に落ちて腰を強打し「腰が…(Oh my back...)」とうめくシーンのこと)。トム・ホランドによる『ホーム』シリーズではこれまでにも『スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』シリーズへのオマージュを感じさせるシーンをちりばめていたが、今回はこれまでの比ではないレベルで、フルスロットルで畳みかける。

ちなみに『スパイダーマン』も『アメイジング・スパイダーマン』も、シリーズの新作の製作が頓挫してしまった過去がある。さらにいえば、『ホーム』シリーズは、ディズニーとソニーによる権利トラブルが生じ、一時は「トム・ホランド版スパイダーマンがMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)から卒業する」という話にまでなった。このような諸々を知っているファンからすると、今回の“集結”は奇跡と呼ぶに値する最高のプレゼントなのだ。しかも、『スパイダーマン3』以降、『アメイジング・スパイダーマン2』以降の話が本人たちからちらりと語られるシーンまで入っており、これまたファンの涙腺を刺激する。

そしてトビー・マグワイアは、2014年の『完全なるチェックメイト』から約7年もの間、俳優としての新作が公開されなかった(2017年の『ボス・ベイビー』の声優のみ。主にプロデューサーとして活躍)。約7年ぶりの実写映画のカムバックが本作だとは、誰が予想したことだろう。

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ノー・ウェイ・ホームの魅力② ヴィランを倒すのではなく治療する

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トビー・マグワイア版『スパイダーマン』のヴィラン、グリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)。©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

続いて、2つ目の魅力。それは、トム版スパイダーマンの“信念”の部分。彼は、別ユニバースからやってきたドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)、グリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)、エレクトロ(ジェイミー・フォックス)といったヴィラン(敵)たちを倒すのではなく救おうとする。これは、本作の非常に大きな特長だ。

彼の行動理念はあくまで「親愛なる隣人」であり、ヒーロー然として倒して終わりではなく、彼らが元は善人だと知り、治療を施そうとするのだ。MCU入りして懸念されていたのは、強さのインフレに巻き込まれ、スパイダーマンがスーパーヒーロー化してしまう展開。活躍のスケールが拡大するほど、本来のご近所ヒーローとしての魅力が損なわれてしまう。その“アキレス腱”に対して、本作は実に鮮やかな解答を示している。スパイダーマンはあくまで「困っている人を救う」ために力を使う。その“困っている人”には、別ユニバースからやってきたヴィランたちも含まれるのだ。

見せ場となるトビー×アンドリュー×トムのスパイダーマン3人とヴィランのタッグバトルシーンも、目的はあくまで治療。彼らは協力して治療薬を作り、ヴィランたちに投与しようとする(ここもまた、過去シリーズで救えなかった悔恨を上書きするものだ)。“マルチバース”というMCUでも最大級のギミックを投入しつつ、キャラクターの本質を損なわないストーリーには、天晴れとしか言いようがない。

そもそもトム版スパイダーマンがドクター・ストレンジに「忘却の呪文」をかけてもらおうとするのは、自分以上に恋人MJや親友ネッド(ジェイコブ・バタロン)の将来を考えてのこと。自分の正体が知れ渡ってしまったことでふたりの大学進学が難しくなった“事件”を解決するためだ。ちなみに『スパイダーマン:ホームカミング』ではアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)が「MIT(マサチューセッツ工科大学)にツテがある」と話しており、彼が存命であれば……という切なさを感じさせるのも上手い。

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ノー・ウェイ・ホームの魅力③ 「親愛なる隣人」への原点回帰

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©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

そして、3つ目の魅力。これは2つ目とも関連するが、トム版スパイダーマンが“原点回帰”を果たすという点。キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)とアイアンマンがいないなか、アベンジャーズの今後はどうなっていくのか――という点は、多くのファンにとって気になるところだろう。

特に近年のMCUではブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)→エレーナ・ロマノフ(フローレンス・ピュー)、ホークアイ/クリント・バートン(ジェレミー・レナー)→ケイト・ビショップ(ヘイリー・スタインフェルド)、キャプテン・アメリカ→ファルコン/サム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)へと“世代交代”が進んでおり、アイアンマンの弟子であるスパイダーマンにかかる期待も大きかった。

しかし前述の通り、スパイダーマンは宇宙で戦っても、親愛なる隣人。彼がNYを離れて世界の治安のために動くとなれば、キャラクターの根幹が揺らぐことにもなりかねない。そこで本作が導き出した答えは、「スパイダーマン=ピーター・パーカーを全員が忘れる」というもの。誰にも正体を知られていない状態に戻ることで、スパイダーマンはご近所ヒーローに立ち戻るのだ。

そしてまたこの措置は、シリーズの重要なテーマである「選択と自己犠牲」ともリンクしている。スパイダーマンは皆を救うため、MJやネッド、ハッピー(ジョン・ファヴロー)を含めた全員が自分のことを忘れる“選択”を行う。それはこれまでの人生が無に帰す決断でもあるが、その自己犠牲が彼の高潔な精神を示すことにもなる。『ホーム』シリーズはピーター・パーカー/スパイダーマンの成長物語でもあったが、本作においてついに彼は真のヒーローへと到達するのだ。

また、実にニクいのは、誰も自分のことを知らない世界で、ピーターがささやかなヒーロー活動を行うラストシーン。アパートに一人で暮らし、警察無線を傍受して街のトラブルを知るや、自製のスーツで飛び出していく――という展開は言うまでもなく、これまでの『スパイダーマン』シリーズへのオマージュだ。

元々は本作でトム版スパイダーマンの単独映画は終了するとされていたが、プロデューサー陣によると新作の企画開発が進んでいるそう。5月4日には本作ともリンクする可能性が高い『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が公開予定(監督は『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ!)で、本作の最後にはヴェノムとの対決も期待させるシーンが挿入された。さらに、デアデビル/マット・マードック(チャーリー・コックス)も登場し、新たな広がりが予想される。

数字も評価も、最高傑作の領域に達した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。既に多くのリピーターを生んでいるこの映画だが、これで終わりではないというのが何ともうれしいところ。これ以上ないほどの“夢”の続きは、どんな物語になるのだろうか。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

監督/ジョン・ワッツ
出演/トム・ホランド、ゼンデイヤほか 2021年 アメリカ映画
2時間28分 全国の劇場にて公開中。
https://www.spiderman-movie.jp/

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