クオーツショックを経て機械式時計の人気が劇的に復活した1990年代に、ジェラルド・ジェンタは独創的なモデルを発表した。ダイヤルにはミッキーマウスが楽しそうに歩く姿が描かれており、中心から伸びた腕の指先が文字通り分を指し示す。しかも円運動でなく、一方向にだけ表示が進むレトログラード式。ミッキーの腕と指先は60分に達した瞬間にゼロ位置に戻る。それと同時に時間を示す小窓の数字がカチリと切り替わるが、こちらはジャンピングアワーと呼ばれる。当時はクオーツのキャラクターウォッチと誤認する人もいたようだが、どちらも機械式特有の複雑機構だ。歴史と伝統を誇る高級機械式時計の世界に愉快極まりない大胆な遊び感覚を取り入れた画期的なモデルであり、現在でもコレクターズアイテムとして高い人気があるという。
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ミッキーマウスの躍動感が魅力
この伝説的な傑作が「ジェラルド ジェンタ アリーナ レトログラード スマイル ミッキーマウス ディズニー」として復活した。ブランドとしてのジェラルド ジェンタは2000年にブルガリの傘下に入っており、レトログラードモデルのデザインコードを再構成した「アリーナ」シリーズを展開。この復活モデルも「アリーナ」の丸型ケースを採用しており、ビス留めの盛り上がったリューズガードを除いて、基本的な要素はオリジナルとほとんど変わりない。丸みを帯びた幅広のベゼルと、ケースサイドにコインエッジが刻まれた特徴的なスタイルに、リューズガードによるスポーツテイストが新しく加わったとも解釈できる。いずれにしても、ダンスのようなステップを踏みながら分を指し示すミッキーの躍動感は、見る人に微笑みをもたらす。さらに腕が60分間の緩やかなアニメーションを演じるのである。
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愛らしいディズニーのキャラクターを複雑機構で楽しむ
2011年に他界したジェラルド・ジェンタは時計デザイナーの先駆けであり、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」をはじめとして、世界的な名門時計ブランドの人気モデルやロングセラーの数々を手がけてきた。このため“時計界のピカソ”とも称されるが、時計師ではないからこそ、常識にとらわれない発想を具現化できたのかもしれない。その一方で、自らのブランドで「ミッキーマウス」など個性的なコレクションを発表してきた。代表作や彼の業績を紹介したウェブサイトが2021年12月末にリニューアルオープン。これを記念して「ジェラルド ジェンタ アリーナ レトログラード スマイル ミッキーマウス ディズニー」は同ウェブサイト経由だけの販売となった。世界限定150本なので、残念ながらすでに完売。しかし、次が期待できるのである。
というのも、このミッキーマウスが代表する1990年代の「レトロ ファンタジー」と呼ばれるコレクションでは、ミニーマウスやドナルドダックなどが続いたからだ。これをなぞった新作も予想できるので、興味があればウェブサイトのチェックを怠らないように。ちなみに、レトロとは懐古的という意味ではなく、レトログラードの略。誰もが知っているディズニーの愛らしいキャラクターを、機械式特有の複雑機構で楽しむ。ウィットの効いた大人の贅沢、あるいは知的な道楽といえるのではないだろうか。
問い合わせ先/ブルガリ ジャパン TEL:03-6362-0100
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